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2021-03-14

1ヤードゲインの先には = NFLチアリーダーの2020シーズン=

シンシナティ・ベンガルズチアリーダーの山口紗貴子さん=ベンガルズチアリーダー提供

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 新型コロナウィルス感染症の全世界的な感染拡大が始まってから、ほぼ1年が経つ。米プロフットボールNFLのシンシナティ・ベンガルズのチアリーダーとして活動する山口紗貴子さんから、この1年がどのような年だったか振り返った手記をいただいた。

◇      ◇      ◇

日本へ帰らないという選択

 NFLの2020年シーズンが終わりました。
 2020年が始まった時は、こんな1年になるなんて、だれが予想できたでしょうか。

 NFLも然りです。4月あたりから開幕も怪しくなり、どうなるのだろうという日々が続きました。

 NFLチアリーダーに至っては、オーディションが途中で中止になったり、活動に制限があったりと、日々不安な毎日でした。一寸先は闇、アメリカで言うと1ヤード先は闇、のような感じですね。

 私が所属するベンガルズチアリーダーに関しては、バーチャルでのオーディションを開催していましたが、最終的にファイナルオーディションの段階でオーディションが中止になり、継続を希望する16名のベテラン(=経験者)メンバーだけが残りました。最後までルーキーを入れたいと、チーム側と交渉していたディレクターは苦渋の決断だったと思います。

 オーディションがあるのかないのか、シーズンがあるのか無いのか分からない中でも、常に準備をしておかなければなりません。私自身は、ジムが開いていない時期は家でYouTubeを見ながら毎日トレーニングをし、バーチャルで行うダンスクラスをとって家でひたすら練習に励みました。

 自宅待機の中、一人暮らしのアパートでは喋る相手もおらず、これからの暮らしの保証が何もなく、日本に帰ることも何度も考えましたが、最終的にはアメリカで粘るという選択をしました。

ようやく始まったチアの活動

 レギュラーシーズンが開幕してからも、無観客の試合や、集まって練習などが出来なかったため、特に活動はできないまま1カ月半くらいが過ぎました。

 ようやく観客を入れて試合ができると発表され、10月からチアリーダーもスタジアムで踊ることが許されました。練習は基本的にZoomを使って行いました。本番の前に1回だけ集まって対面で練習しましたが、ほとんどぶっつけ本番のような形でした。

 普段はダンスや体型へのコーチの厳しいチェックがありますが、それも無く、なんだか気の抜けたような感覚でした。その中でも日々のトレーニングや自主練習は欠かさないように心がけました。その心掛けは人それぞれだったのかなと思います。

 チアリーダーも、規則で10人以上集まれなかったので、2チームに分かれて1試合ごとに交代でパフォーマンスをしました。パフォーマンスはVIPが使用する『パーティーデッキ』というエリアから。VIPエリアというだけあって、普段は見えない試合が良く見えました。



スタンドで踊るチアリーダー=ベンガルズチアリーダー提供
スタンドで踊るチアリーダー=ベンガルズチアリーダー提供

マンデーナイトゲーム!そして勝利

 たまたまでしたが、2分割で活動していたチームの内、私がいた方のチームにweek15のマンデーナイトフットボールで踊る機会が巡ってきました。

 夢だったマンデーナイトでのパフォーマンス。『これはアメリカで頑張ってきたご褒美だな』と思いました。

 対戦相手はピッツバーグ・スティーラーズです。シンシナティでは「スティーラーズファン」というだけでブーイングされるくらい仲の悪いチームです(笑)。同じディビジョンでライバルとされながら、私が在籍中一度も勝ったことがなく、そして、今季のルーキーでホープのQBジョー・バロウが負傷のために、シーズンエンドとなっていて、試合に出ることはない。

 勝つなんて全く期待していませんでした。それはチームメイトも同じで、「1TD取ってくれたら良いよね」、なんて試合前は話していました。ところが!前半からベンガルズがリード。そのままハーフタイムを迎えました。

 チアのロッカールームではすでに勝ったかのように大騒ぎで、「後半、試合がどうなっても、この感動を忘れないようにしようね」と言い合いました。

 ベンガルズは最後まで頑張って、最終的に勝利し、本当に忘れられない試合となりました。3年間、チアとして活動してきた中で一番印象的な試合でした。

 そして、私にとってはこの試合が2020年のレギュラーシーズン最後の試合となりました。

 フィールドで踊ることは叶いませんでしたが、観客席で踊ることで、普段は見えない試合が良く見えたり、チームメイトと会えた時に喜びが2倍だったり、通常のシーズンでは感じられなかった感覚を沢山感じることができて、これはこれで貴重な経験ができたなと思います。

アメリカで結果を出すということ

 シーズン終了後に、ラップアップパーティーがZoomで開かれました。

 ディレクターが1年の労をねぎらうような会です。そこでチア一人一人に賞が発表されました。私がいただいた賞は、、

 なんと!『チアリーダー オブ ザ イヤー』でした。

 びっくりしすぎて言葉も無いくらい驚きました。

 ディレクターからは、この3年間の頑張りを総合的に評価していただいたのだと思います。

 『チームの中で最も練習やワークアウトに時間を費やし、自分を成長させていた、様々なことを犠牲にして夢を追いかけて、新しい言葉を学んで、沢山の友達を作って、異国の地でこんなに色々なことを成し遂げた。私なら出来ない。チームに最も影響を与えてくれた』と言うようなことをおっしゃっていただきました。

 涙、でした。

 理由を聞いていたコーチやメンバーの何人かも一緒に泣いていました。

 私がしていたことは、アメリカ人なら普通なことで、全く特別なことではありません。

 英語をしゃべり、車の運転をし、ソーシャルセキュリティナンバーを取って税金を払う。ただ、何をするにも、「次は何が起こるんだ?!」ということが沢山あって、本当に一回一回が色々大変です。

 でもちゃんとそういうことも理解してくれたこと、また、20歳近く年の離れた若いメンバーに負けないように、みんなに置いて行かれないように日々コツコツとやっていた事をちゃんと見ていて評価してくれたことに、ただただ感謝しかありません。

 改めて素敵なディレクター、コーチ、チームメイトで、このチームにいられて本当に幸せです。


ディレクターとほほ笑む山口さん=ベンガルズチアリーダー提供
ディレクターとほほ笑む山口さん=ベンガルズチアリーダー提供

 同時に、アメリカで結果を出すというのは、こういうことなのかなと思いました。

 自分の居場所を確保するために、いつも自分が出来ることを探してコツコツとやること。小さくても常に結果を見せること。『日本人の私』にしか出来ないことは何かを常に探していたこと。

 1ヤードゲイン、1ヤードゲインと進んでいたら、いつの間にかタッチダウンしていたような、そんな感覚だったのかもしれません。

 今シーズンはCOVID-19の世界的なパンデミック以外にも、BLM運動、過激化する暴力、大統領選挙の混乱と、精神的に落ち着く暇もありませんでした。

 とにかく前だけを見て進んでいくことができて良かったと思います。これからも“1ヤードゲイン”を大切に、年齢に負けずに日々邁進していきたいと思います。

NFLシンシナティ・ベンガルズ
チアリーダー
山口紗貴子

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