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2021-03-23

【第93回センバツ出場校の指導法】京都国際 Part1 ミスの減少とチーム力向上のために取り入れたライフキネティック

上のカテゴリーで野球を続けるという選手たちの目的に合わせた練習を行っている

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2020年にチーム史上最高成績となる秋季近畿大会ベスト4の結果を残した京都国際高。時を同じくして行われたドラフト会議では、外野手の早真之介がソフトバンクから、捕手の釣寿生がオリックスから、ともに育成4位指名を受けた。これまで、たびたびプロ入りする選手は誕生していたものの、チームとしては安定して上位進出を果たせていなかったが、18年以降は3度の近畿大会出場、19年夏は京都大会で決勝まで進むなど、躍進している。その理由はどこにあるのか。チームを率いる小牧憲継監督に話を聞いた。


小牧憲継<京都国際高監督>
こまき・のりつぐ/ 1983年7月17日生まれ。京都府出身。京都成章高-関西大。現役時代のポジションは内野手(主に二塁手と遊撃手)。大学卒業後、外部コーチとして京都国際高の指導に携わり、2007年に京都国際高に採用されコーチに就任。08年より監督を務める。20年秋季京都大会では3位となり、出場した近畿大会でベスト4の結果を残した。社会科教諭。

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「甲子園よりプロ」選手の目的に合わせた個の力を上げる取り組み

 2008年に小牧憲継監督が就任して以降、京都国際高からは7人のプロ選手が誕生している(育成含む)。「高校から先で野球を続けたいという選手が多く、個人の力をつけさせてあげたい」という選手の意思に合わせた取り組みの一つの成果だろう。一方でチームの成績は、08年春に近畿大会に出場して以降、主要大会で京都ベスト4のカベを破れない時期が長く続いていた。


 われわれが普段、練習している学内のグラウンドは、ライトが60メートル弱、レフトが約80メートルの長方形に近い形で、実戦練習をするには限度があります。走者の打球判断や内外野の連係はやりたくてもできないのが実状です。そのため、これまでは特守や特打、トレーニング、走り込みなどで個人の能力を高めることに主眼を置いて取り組んできました。

 ですから、試合ではチームの戦術や戦略を高めて勝つというよりは、個々の能力で勝負していくスタイルに必然的になっていた面があります。チームカラーとして力のある打者が育つ傾向があるので、打てば勝つけれども打てなければあっさりと負けるような戦いも少なくありませんでした。

 そのような中でも、私が監督に就任した08年には申成鉉が広島から4位指名を受け、同期の李勇樹は関西大を経て西濃運輸へ進み、14年の都市対抗優勝メンバーになりました。その後もプロ、社会人、大学に進んで高いレベルで野球を続ける選手が毎年のようにいます。

 先のドラフトで育成指名を受けた早真之介と釣寿生の2人もそうでしたが、「甲子園よりプロ」、または「高校の先でも野球を続けたい」という意識で取り組む選手が多く、もともと能力が高い選手が来てくれていたので、そうした選手たちの目的に合わせて、個の力を高める取り組みは成果を挙げられていたと思います。

グラウンドが狭く、実戦形式の練習が満足にできないが、個の能力を上げるトレーニングに主眼を置いている

楽しみながら涵養する全員で1つの目標を達成しようとする一体感

 そうした取り組みの中で、2016年から週に1度、60分間のトレーニングを継続しているのが「ライフキネティック」だ。運動・脳トレ・視覚の訓練を組み合わせ、脳のさまざまなエリアを刺激し、脳のネットワークを増やし、脳の活性化を図るドイツ発のトレーニングで、日本ではサッカー界を中心に広がっている。

 個人の能力が高い選手が集まっていても、試合を取りこぼすことが多く、監督になった当初は「すぐに甲子園」と意気込んでいたものの、簡単なことではないと気づきました。負ける試合の多くは、注意不足、準備不足、連係不足からくるミスが原因になっていました。これを解消するためには、練習から実戦をくり返して、経験として身につける必要があるのでしょうが、練習環境は簡単に変えられるものではありません。

 ですから、何か違うやり方でそこを補う方法がないかと考えていたときに出会ったのが、「ライフキネティック」の資格を持つトレーナーの先生でした。

 それから週に1度、60分間のトレーニングを指導してもらっています。効果は数値で測れるものではないので、選手たちはどこまで実感できているか分かりませんが、選手の様子を見ていると、視野が広がっていることや、気づきの感度が上がっているという違いを感じています。

 また、個の力を確立するというチームの取り組みとともに、社会背景的にも現代は集団よりも個が優先される時代です。「みんなで力を合わせて一つのことをやり遂げよう」と、一致団結するシチュエーションはこちらから状況を与えない限り、普通にしていては多く訪れないと思います。かつては精神的にも肉体的にも追い込んで、それにみんなで耐えることでチームの一体感が涵養されていたのかもしれませんが、その厳しさについてこられない者を切り捨てるやり方も前時代的です。

 その点、ライフキネティックでは、選手間でかかわり合いながらの共同作業が多いので、目標を達成するために、みんながそれぞれの力を出し合っています。肉体的に追い込むようなトレーニングでもなく、楽しみながら協力して物事を成し遂げようとする経験がチームのまとまりに表れてきているような気がしています。

 年々、野球に取り組む意識が高い選手が入ってくるようになっている面もありますが、最近は注意不足、準備不足、連係不足からくるミスも減り、それが勝つ確率を上げていると感じます。実際に16年以降は、ベスト8、ベスト4に入る頻度が上がってきました。

京都国際高で実践していたライフキネティックのメニューを紹介。
チーム全員で実際にやってみて、体感してみよう!

ウォーミングアップ

[やり方]
100マス計算。タテと横の数字が重なる枠に数字を書き入れる。
[条件]
・ 黒字と黒字が重なる枠は足し算
・ 赤字と赤字が重なる枠は引き算(大きい数から小さい数を引く)
・ 黒字と赤字が重なる枠は掛け算
(4分以内で行う)

※回答はPart2に掲載

眼のトレーニング

[やり方]
テニスボールを1人1個持ち、アイパッチで利き目を隠し、音に合わせて2人一組でボールを投げ合う。
[条件]
・ 笛の音が1回=右手キャッチ、左足前
・ 笛の音が2回=右手キャッチ、左足後ろ
・ 手を1回たたく=左手キャッチ、右足前
・ 手を2回たたく=左手キャッチ、右足後ろ

Part2に続く

【ベースボールクリニック2021年1月号掲載】

写真◎BBM

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