カナダのプロフットボールCFLが、現地4月15日に、初めて開催したグローバルドラフトでは、世界18カ国から36人が指名された。
事前のコンバインに12人が招かれた日本からは、コンバインの対象外だったRB李卓(オービック)も含めた6人の指名。24人がコンバインに招かれながらわずか1人の指名にとどまったメキシコに比べれば、納得がゆくものだった。
米での実績重視だった1巡指名選手 国別ではオーストラリアの7人に次いで2番目だが、オーストラリアは6人がパンター。全体として日本のフットボールに対する評価が高かったのは間違いない。
1巡指名では9チーム中、4チームがオーストラリア人パンターを指名した。パンター以外の5選手の簡単なプロフィールは以下の通りだ。
1巡2位OLスティーブン・ニールセン203センチ147キロ。
イースタンミシガン大(MAC)で3年間スターター。4シーズンで49試合出場、39試合先発という本格派OL。NFLジャガーズのオフシーズンロースター。
1巡3位DBティギー・サンコー180センチ97キロ
米ボルティモアに住んでいたが、英国に転居しカレッジではプレーせず。英国のリーグでの活躍が認められ、IPPプログラムをきっかけにNFLブラウンズにプラクティス・スクワッド(育成枠)として2年間帯同。プレシーズンゲーム出場経験あり。
1巡4位LB丸尾玲寿里 183センチ102キロ
ジュニアカレッジを経てテキサス大サンアントニオ校(C-USA)に入学。最終学年の2018年には12試合で86タックル、4.5ロスタックル、2サック、2ファンブルリカバー。
1巡5位RBクリストファー・エゼアラ182センチ114キロ
IPPプログラムからNFLレイブンズにプラクティス・スクワッドで2年間帯同。プレシーズンゲーム出場経験あり。
1巡9位WRアンソニー・マホゥング190センチ95キロ
Big10の強豪パデュー大学で大型レシーバーとして活躍。4年時は688ヤード8TD。NFLイーグルスにルーキー・フリーエージェントで入団。プレシーズンゲームには出場せず。
ここからわかるのは、丸尾以外の4人は何らかの形でNFLのチームに帯同した経験を持っていたこと。またカレッジフットボールのトップカテゴリーFBSで、十分な実績を持っている選手も多い。丸尾が1巡で選ばれたのも、大学最終学年の成績が決め手になったように思える。
テキサス大サンアントニオ校時代の成績が優秀だったLB丸尾=撮影:小座野容斉カレッジ、NFL無関係ながら選出された山岸 2巡中位以降、日本から次々に選出された。特筆したいのは2巡14位のLB山岸明生(富士通)だ。1巡指名選手は、 パンター以外は、日本人の丸尾も含め実績重視だったことは先述した。2巡指名選手も山岸の前の3人は、やはりカレッジフットボールの強豪校出身者だった。
山岸は、米のカレッジフットボールにも、NFLにも、無関係だった中で、最初に指名された選手となった。
関学大では主将で、富士通でもディフェンスの中軸だが、CFLがそこを評価の対象にしたとは考えにくい。山岸は体格的にもLBとしては小柄で、コンバインの成績も特段に目を引くものはなかった。
それが、この高い順位となったのは何故か。一つ考えられるのは、2020年3月1日の日本代表vsスプリングリーグ(TSL)選抜(米テキサス州)の試合映像をアルエッツの関係者がチェックした可能性だ。
今回のドラフト後、山岸の写真を探すために、13カ月前の試合の写真をすべて見直した。富士通の試合ではなくTSL戦から探した理由は、山岸がこの試合で、米国人RBにしっかりタックルしていた印象が強かったからだ。
記憶に間違いはなかった。山岸はTSLのボールキャリアー、特にNFL経験を持つ大型の米国人RBに本当に良く絡んでいた。そういうシーンが何枚もあった。
山岸は、米のカレッジフットボールにも、NFLにも、無関係だった中で、最初に指名された選手となった=撮影:小座野容斉 写真に写っている度合いが多いディフェンスプレーヤー、特にLBは、ほぼ間違いなく良い選手と言っていい。少し前では、現役時代の古庄(直樹・オービックアシスタントヘッドコーチ)がその典型だった。
付記すれば、TSL戦での活躍では、丸尾も山岸に負ていなかった。
TSLは自分たちの所属選手の売り込みのために、CFL各チームに試合映像を届けているはずだ。その映像を今回挑戦した日本選手のチェックに使われたのであれば、この順位は納得できる。
国際試合を定期的に開催する意味合いはこんなところにもあると思う。
町野はフィジカルの充実が奏功 OL町野友哉(富士通)の選出は、フィジカルの充実が大きかった。
日本人には稀な超大型でありながら、運動能力が極めて高い。102キロのベンチプレス31回、立ち幅跳び272センチ、3コーンドリル7秒67、シャトルラン4秒63と、測定5種目中4種目で、OL9人の中のトップだった。サイズだけでなく中身も詰まった選手だとCFLも認めたのだろう。
40ヤード走を除くすべての計測で、OLの中でトップの成績を残した町野=撮影:小座野容斉 キッカー佐藤敏基(IBM)、山崎丈路(オービック)は実力や実績からは妥当なところだ。
RB李卓(オービック)の3巡は、いろいろな意味で、ややイレギュラーな事態だった。CFLの実力評価はもう少し高かったかもしれないが、CFLに来ない可能性がある選手に高い指名順位は使えないために3巡になったように思われる。
現在は、NFLのIPP(インターナショナル・プレーヤー・パスウェー)プログラムに挑戦している李卓。「海外選出プラクティス・スクワッド」に漏れ、かつ、FA契約も結べないという事態にならない限り、今季はNFLにつながる道を優先し、CFLを選ばないだろう。
同様に、CFLへ来る可能性が薄いと思われ指名順位が低くなったのが4巡34位のサミス・レイエスだ。198センチ118キロのチリ人元バスケ選手、レイエスは、李卓らと同じIPPプログラムの候補選手として、トレーニングを重ねてきた。
3月下旬の測定では、40ヤード4秒64、垂直跳び102センチ、立ち幅跳び318センチ、102キロベンチプレス31回という数値を出した。計測が、フロリダ大のプロディで行われたために、居合わせたNFLのスカウトやGMやコーチたちも驚いたという。
レイエスは、数日前にワシントン・フットボールチームとオフシーズンロースター契約を結んだが、この契約ではNFLドラフト後のミニキャンプなどでカットされる可能性もある。そんなときにCFLが選択の一つになり得る。指名したアルゴノーツは、「ダメ元」と考えている可能性が強い。
日本人レシーバー選出ゼロの理由 気になるのは、日本勢の中でXリーグや学生のトップ選手がそろったWR陣から一人も選出されなかったことだ。
昨年の日本代表主将も務めた近江克仁(IBM)ら、今の日本のトップレシーバーから選ばなかったのは意外というファンも多かったと思う。
理由は二つ考えられる。一つは、日本から挑戦した4人は、コンバインの40ヤード走のタイムが良くなかった。松井理己(富士通)の4秒88、ブレナン翼(早大卒)の4秒93は言うに及ばず。近江の4秒70でも全く不十分だった。
もう一つの理由は、CFL各チームの選手構成にある。今回、CFLはグローバル枠として米国、カナダ以外の国からロースターに2人を登録しなければならないルールを作ったが、これとは別に米国人枠がある。
その数は1チーム46人中20人。ただしこのうちの4人はルールで先発出場不可能な選手だ。なぜかと言えば、米国人選手の能力が基本的に高いために、プレーしたことが無いカナディアンルールであっても、カナダ人選手を上回って先発を奪ってしまう。攻守24人の先発中20人がアメリカ人選手になってしまう可能性が十分にあるのだ。
カナダ人を対象とした、CFL本体のドラフトでは、NFLドラフトと違ってQBの指名がほとんどない。それは、QBは米国人のポジションと相場が決まっているからだ。そしてレシーバーユニットも、大半が米国人で占められているケースが多い。
今回、オタワ・レッドブラックスに1巡指名されたWRマホゥングは、コンバインの計測を一切行わなかった。それでも彼が上位指名された理由は、パス多投のスプレッドタイプのオフェンスとして有名な強豪パデュー大学で実戦経験を積んだWRだからだろう。
それを裏付けるように、近江がドラフト翌日にyoutubeで次のように語っている。
・CFLのチームから、事前連絡がほぼなかった。
・直前に連絡があったレッドブラックスは、1巡で別のレシーバー(マホゥング)を指名したので、自分の指名はないと思った。
カナディアンフットボールは、フィールドの選手が12人。アメフトよりも多い1人はレシーバーに割り当てられるので、WRにチャンスがあるという日本サイドの理解が、当たっていなかったのかもしれない。
近江はドラフト後に、自身のTwitterに次のように投稿した。
「CFLドラフトに選ばれませんでした。悔しいですが、もう前を向いて歩み出してます!
選ばれた日本人選手、おめでとうございます!
人生で自分がドラフト会議の選手になるとは思ってもいませんでした。特別な経験をさせていただけて本当に嬉しく思います。Thank you, Xleague
ここまで支えてくださった多くの方々に感謝しかないです。ありがとうございます。そして一言言いたい、こんなところで終わりません。
次の挑戦はもう始まってます!引き続きよろしくお願いします」
近江や他の日本選手のチャレンジを、今後も応援していきたい。
指名漏れした近江は「悔しいですが、もう前を向いて歩み出してます! 選ばれた日本人選手、おめでとうございます!」と発信した=撮影:小座野容斉
NFLドラフト候補名鑑2021(B.B.MOOK1527)