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2021-05-14

【陸上】走れなければ水泳とバイクで――Honda小川智監督が振り返る東京五輪10000m代表・伊藤達彦が故障中でも成長した理由

27分33秒38のセカンドベスト&優勝で代表内定を決めた伊藤 写真/椛本結城(陸上競技マガジン)

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「暴れ馬」は鳴りを潜め
修正力もアップ

 伊藤の持ち味は、ガッツあふれる走り。だが、それは決して効率の良い動きではなく「暴れ馬のよう」(小川監督)だった。フォームの改善は伊藤の入社以来のテーマとして進めてきたが、故障で走れない間、停滞するどころか逆に筋力が上がり、さらなる改善の兆しをみせたことになる。そして日本選手権に向け、練習の強度が高まるにつれ、動きはさらに洗練されていった。

「暴れ馬は影を潜め、腰高を維持できる走りになりました。故障前の12月と比べてもスピードが出るフォームになったと思います」

 フォーム改善のためのドリルなどは行っていない。伊藤レベルの選手であれば筋力強化を行い、動きのポイントだけアドバイスすれば自然と効率のいい動きになっていくと小川監督は話す。故障期間があっても走りを改善できたのは取り組んでいたトレーニングの的確さとそれを確実に走りに変えた伊藤のセンスだろう。

 修正力も高まった。実は伊藤、日本選手権の2日前、レースに向け、最後に体に刺激を入れる練習時に左ひざを痛めていたという。その影響か、レース序盤は動きが悪かった。

「ただ腕ふりの修正を伝えたところ、すぐに良くなりました。さすがだなと思いましたね」

 伊藤は自分から積極的に仕掛ける攻めのレースを好むが、今回の日本選手権は前に出ずに力を貯め、残り700mから武器であるラストスパートで勝負を決めた。「これからはさまざまなレースパターンを持つことも必要。攻めるだけなく、確実に仕留めるレースができた点は収穫であり、成長です」と監督も合格点を与える内容だった。

 23歳。加速度的に成長を遂げる伊藤だが、伸びしろも残す。「スピード練習、特に1000mで2分40秒を切るような練習はまだ取り組んでいません。そこを伸ばしていけばさらに強くなっていくはずです」

 走れない時間をマイナスではなくプラスに変えた小川監督の手腕は評価されるべきもの。そして一時は東京五輪をあきらめかけた伊藤もしっかり応えて見せた。残り3カ月を切ったが、伊藤は本番までにさらに走りの完成度を高めてくるに違いない。

文/加藤康博

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