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2021-06-01

【泣き笑いどすこい劇場】第1回「ゲン担ぎ」その3

平成のゲン担ぎ王・雅山。今日はどの道からやってきたのか

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力士にとって、直径4メートル55センチの土俵は晴れの舞台。汗と泥と涙にまみれて培った力を目いっぱいぶつけて勝ち名乗りを受け、真の男になりたい、とみんな願っています。とはいえ、勝つ者あれば、負ける者あり、してやった者あれば、してやられた者あり、なかなか思うようにいかないのが勝負の世界の常。真剣であればあるほど、思いがけない逸話、ニヤリとしたくなる失敗談、悲喜劇はつきものです。そんな土俵の周りに転がっているエピソードを拾い集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載していた「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。第1回から、毎週火曜日に公開します。

これぞ勝負パンツ

ゲンを担ぐ力士、反対にまったく担がない力士、力士もさまざまだが、中には一つだけでなく、やたら担ぐ力士もいる。

たとえば平成18(2006)年夏場所、西関脇の雅山は、1.部屋を出てくるときにブラック・コーヒーを飲む。2.午後8時にはフトンに横になるというゲンを担いでいた。どうして出掛けにブラック・コーヒーを飲むかというと、黒星を飲み込むという思いの表れで、午後8時に床に就いたのは、初日の夜、たまたまどこにも出かけずにこの時間に寝たら5連勝、さらに一つ負けたあと9連勝という夢のような連勝が始まったからだ。

このため、当時独身の雅山は毎日、相撲が終わって部屋に戻り、師匠の武蔵川親方(元横綱三重ノ海)にあいさつを済ますと、付け人が買っておいた弁当を持って部屋近くに借りたアパートにまっすぐ帰る、という生活を送っていた。これでは体調もよくなるはずだ。雅山はこの多彩なゲン担ぎについて、

「これをやると、場所中、新しいリズムができてくるんですよ。この新しい、ということが大事で、前の場所やったから今度も、ということはあまりやらない」

と話していたが、実はこの場所、もう一つ、隠れたゲン担ぎがあった。

初日の前の日、

「たまたまこれを履いてパチンコにいったら、大勝ちした」

という両サイドの太モモ辺りが大きく破れてカーテン状になった赤柄の古いパンツを一日置きに、洗っては履き続けたのだ。

この3つのゲン担ぎのおかげで、この場所の雅山は優勝決定戦で白鵬に敗れ、悲願の初優勝は逃したものの、14勝1敗の自己最高の成績を挙げ、殊勲賞、技能賞をダブル受賞した。

ちなみに平成22年秋場所、十両優勝した豊ノ島も一時、ここぞという大事な勝負のときだけ履く“勝負パンツ”を所有している。平成9年名古屋場所、東前頭2枚目の蒼樹山(現枝川親方)は、2日目に大関若乃花、3日目に横綱貴乃花を相次いで押し出しで破った。この場所、貴乃花は17回目の優勝をしているから、大殊勲である。このとき、あるファンからハローキティ柄のパンツをプレゼントされた。それを譲り受けたもので、

「ボクには少し大きめなんですが、縁起がいいものなんで、大事に使っています」

と豊ノ島は話した。ものがパンツだけに、ウンが付きやすいのだろうか。

月刊『相撲』平成22年11月号掲載

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