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2021-06-08

【泣き笑いどすこい劇場】第1回「ゲン担ぎ」その4

平成22年秋場所、長い相撲の末に十両優勝を果たした豊ノ島

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力士にとって、直径4メートル55センチの土俵は晴れの舞台。汗と泥と涙にまみれて培った力を目いっぱいぶつけて勝ち名乗りを受け、真の男になりたい、とみんな願っています。とはいえ、勝つ者あれば、負ける者あり、してやった者あれば、してやられた者あり、なかなか思うようにいかないのが勝負の世界の常。真剣であればあるほど、思いがけない逸話、ニヤリとしたくなる失敗談、悲喜劇はつきものです。そんな土俵の周りに転がっているエピソードを拾い集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載していた「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。第1回から、毎週火曜日に公開します。

いつしか苦行に

あと先考えずにゲンを担いだばっかりにあとで一苦労することもある。豊ノ島(現井筒親方)もそうだった。

平成20(2008)年名古屋場所、7場所ぶり2度目の小結に返り咲いた豊ノ島は、場所前、色紙に「優勝」と大きく書き、宿舎の犬山市の成田山別院の本堂に掲げてもらった。

「幕内力士である以上、自分にも優勝するチャンスがある。少しでも上を目指したい、いう思いから書いた」

と豊ノ島はこの文字に込めた思いを打ち明け、初日の朝、この色紙の前で両手を合わせて必勝を祈願した。するとどうだ。この日、横綱朝青龍を6度目の対戦で初めて破るという大殊勲の星を挙げたのだ。さらに2日目には大関魁皇、3日目には大関琴欧洲にも快勝して3連勝。さあ、こうなると、朝の“色紙詣で”は止められない。

とはいうものの、この豊ノ島のゲン担ぎには大きな難題があった。豊ノ島が寝泊まりする宿舎から色紙が掲げられている本堂までなんと167段もの急な石段があったのだ。体の大きな力士にとって階段登りは想像を絶する負担になる。

「序盤はまだよかったんだけど、後半になると足が疲れてパンパンですよ」

と豊ノ島は悲鳴を上げていたが、歯を食いしばって本堂通いを続けた甲斐あって、二ケタ勝ち星の10勝5敗の好成績を挙げて殊勲賞を獲得。あわせて翌秋場所の初の関脇昇進も確実なものにした。

月刊『相撲』平成22年11月号掲載

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