close

2021-06-18

【陸上】17年ぶりの男子1500m日本新。異国の地で果たした荒井七海(Honda)の恩返し

6年ぶりの日本選手権制覇を目指す荒井 写真/田中慎一郎(陸上競技マガジン)

全ての画像を見る


多くの刺激を受ける環境で
日々成長

――アメリカでは陸上競技の盛んなオレゴン州ポートランドを拠点にするバウワーマントラッククラブ(BTC)で練習を積み、今年で3年目です。世界トップクラスの中長距離選手が多く所属し、指導を受けるのはアメリカでも多くのオリンピアンや世界のメダリストを育成したジェシー・シューマッカーコーチです。どのような経緯でBTCで練習するようになったのですか。

荒井 HondaのOBで、現在は世界陸連公認のエージェントを務めている柳原元さんという方が「日本人トラック選手育成」施策を考案して、Hondaに提案してきたなかで、異国での生活に馴染めそうな性格なども含めて、自分が候補に挙がったことがきっかけでした。先ほど話したように、Hondaのスタッフの方々の勧めもあり、渡米することにしました。


世界トップクラスのランナー、コーチのいる環境で日々成長を遂げてきた 写真/Honda提供

――BTCはどのようなチームですか?

荒井 BTCには1500~10000mの選手がいますが、練習メニューは基本同じものをこなし、大会が近づくにつれ(仕上げの段階)、個別に合ったメニューを提示していただく感じです。選手が何かを組み立てて行うということはあまりないのですが、シューマッカーコーチは世界的なコーチだと思っているので、その人が言うことだから、という部分もあります。

――シューマッカーコーチからはどのようなアドバイスを送られているのですか?

荒井 コーチは「成長するのに時間がかかって当たり前」と話しています。2、3年は我慢の時期が必要で、今、結果を出している選手もそうした時期を経たうえでトップレベルに上がってきた、と。実際、こちらに来て強く思ったのは、いきなり強くなることはできない、ということでした。極端にいえば1日に強くなれる量は微々たるもので、「今日は頑張れた」という日をずっと続けていかないと目標には届かないという考えています。アメリカでは3年目を迎えたので、今回の記録はそうした過程を経てつながったのかなと思っています。

――チームメイトにはマシュー・セントロウィッツ選手(16年リオ五輪男子1500m金メダリスト)もいます。

荒井 一緒に練習しています。チームの選手やコーチは、アットホームな雰囲気でみんな優しくしてくれています。ただ、それは現在一緒にトレーニングしている遠藤日向(住友電工)もそうですが、僕らがゲストだからということもあるので、それに甘えないよう、自分たちからも積極的にコミュニケーションを図るようにしています。

――これまでで何か影響を受けた言葉とか、出来事はありますか。

荒井 決定的なことはないのですが、2年前にセントロウィッツ選手と同じレースを走ったときは、衝撃的でした。僕がラスト200mで仕掛けたんですが、セントロウィッツ選手は全く動じずに、残り100mで一気に抜かれると、自分の方を振り返りながらそのままフィニッシュしました。最終的には0.5秒差くらいだったのですが、実際には5秒差くらいの力の差を感じました。これまで数多の大舞台の経験を積んできたランナーは違うなと。まるでレースのシナリオを全部知っているかのような印象で、一言でいえば無駄がない。レースの場面、場面で正しい選択をして、常に良いポジションを取って賢いタイミングでスパートして勝つ。天性のものというか、さすがオリンピックの金メダリストです。

日本選手権は優勝にこだわる

――今年は、3月、4月はアメリカ国内を転戦し、積極的にレースに出場してきました。

荒井 そうですね。自分と遠藤は、従来のやり方と違い、多く出ていると思います。BTCの選手はほとんどがオリンピックの参加標準を突破していましたが、僕らはまだ未突破なので、ワールドランキング(世界陸連が指定する大会での成績をポイントに換算して順位付けするランキング)を上げる意味でも積極的に競技会に参加しています。練習内容同様、これもコーチの方針によるものです。ですので、新しい(取り組み方の)感覚です。

――6月末には日本選手権を迎えます。日本の男子1500mは大学の後輩にあたる館澤亨次選手(DeNA Athletics Elite)含めて全体のレベルが上がってきています。

荒井 僕自身、あまりニュースをチェックする方ではないのですが、試合の動画等を見るのが好きなので、それらを見ることで日本の情勢をおおよそ理解していますし、うかうかしてられないなと。特に社会人2年目の館澤や河村一輝(トーエネック)らの世代は勢いがありますし、東海大の後輩にも高校時代からスピード強化を図ってきた選手も多いので、先輩ももっと頑張らないとな、と思っています(笑)。

――日本選手権の目標は?

荒井 2015年以来の優勝です。自己ベスト更新というより、トップアスリートの世界ではやはり勝つことが大切なので、そこにこだわって臨みたいと思います。

構成/牧野 豊

タグ:

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事