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2021-07-15

【陸上】寺田明日香「休むのはこわいけど」走らないという選択【連載#1】

東京オリンピック女子100mHの寺田明日香(ジャパンクリエイト)

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走らない代わりにからだづくりのトレーニングを

 話は少しそれますが、私は2018年10月までオリンピック種目でもある7人制ラグビーの選手として活動していました。陸上競技への復帰にあたり、コーチ探しやトレーナーとの調整をしながらトラックでの練習を始めたのが11月下旬、陸上競技への再転向を発表したのがその年の12月でした。ラグビーのチームを離れてからは、トレーニングこそ継続していたものの、「走る」ことはしていなかったので、約1カ月は本格的に走ることはなかったのです。陸上競技のトップ選手の、シーズンからオフシーズンへの移行期において走らない平均期間を約2〜3週間と考えると、私の走らなかった期間は少し長過ぎるようにも感じます。

 また、2019シーズン中のことを思い返してみても、実は決して順風満帆に進んだわけではなく、走れなくなった時期がいくつかありました。

 約2年間、ラグビー選手としてインフィールドの芝でだけ走っていたため、反発の強い陸上トラックで走るのは私にとって楽しいものである反面、からだにかかる負担は大きく、さまざまな部位に痛みが出ました。

 私の週の練習日は基本4日間(うち3日間は、午前=ウェイトトレーニング、午後=トラック練習の2部練習)ですが、その中で、走れない日をつくってしまったことは少し想定外でした。しかし、焦らずに過ごす、ということを大切にしました。

 ラグビーから陸上への移行期における少し長過ぎると思われる「走らない期間」と、シーズン中に「走る機会」の調整などがあったものの、走らない代わりに力を入れていたのが、からだづくりのためのトレーニングでした。それによって、以前よりもしなやかで、強いからだをつくることができたと思っていますし、「走りたい!」という気持ちもあふれていました。

 それらのことが、復帰後9カ月という早い段階で日本記録を更新できた大きな要因の一つだと考えています。

 現役選手の皆さんが「休むのがこわい」と思うのは当たり前の心理なのですが、実は無理をし過ぎて疲労をため込む方が、よっぽど代償が大きく、「こわい」ことかもしれません。

 自分の疲労と向き合ってみると、違う視点や考え方が生まれたり、楽しいと思えるものを見つけられたりと、何か新しい気づきがあるかもしれませんよ!


Profile
てらだ・あすか
1990年1月14日、北海道生まれ。柏丘中→恵庭北高→北海道ハイテクAC(以上、北海道)→パソナグループ→ジャパンクリエイト。小学生時代に全国で活躍し、中学では伸び悩むも、高校では100mHでインターハイ3連覇、3年時は100m・4×100mRとの三冠。2008年の日本選手権では100mHで史上最年少優勝を飾り、10年まで3連覇。09年のベルリン世界選手権に出場。13年に引退し、大学進学・結婚・出産を経て、16年8月に7人制ラグビー転向。18年12月、陸上競技に復帰し、19年9月に12秒97(+1.2)を出し、19年ぶりに日本記録を更新。ドーハ世界選手権に出場。東京五輪イヤーの今季、4月に12秒96(+1.6)、6月に12秒87(+0.6)と立て続けに日本記録を更新。11年ぶりに日本選手権優勝。東京オリンピックでは決勝進出を目指す。

文◎寺田明日香 写真◎BBM

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