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2021-07-30

【陸上】寺田明日香の選択「身体を大きくするということ」【#連載16】

第一次陸上選手期(2009年の日本選手権)と現在(木南記念)の身体の変化

陸上競技からの引退、結婚、出産、7人制ラグビーへの挑戦を経て、陸上界に復帰した女子100mハードルの寺田明日香選手。東京オリンピックでは日本女子短距離で57年ぶりのファイナルを目指しています。7月31日の女子100mハードル予選まで、陸上競技マガジンに掲載された寺田明日香選手の連載を毎日公開! 東京五輪で寺田選手は7月31日(土)11:17~の女子100mH予選5組に出場します。

※このコラムは『陸上競技マガジン』2021年7月号に掲載されたものです

身体を変えるのは怖い?

 陸マガ読者の皆さん、こんにちは。木南記念を終え、布勢スプリントへ向けて移動中の寺田です。

 木南記念も無観客での大会開催でしたが、本当にたくさんの方々に応援していただき、日本記録を12秒87にすることができました!

(陸マガの巻頭部分、どうなっているかな? ワクワク)

 応援やお祝いコメント、本当にありがとうございました! 

 布勢スプリントでは五輪標準記録12秒84を目指して、突っ走りたいと思います! って、結果はもう出ていますね……(笑)。

 さて、日本選手権も刻一刻と迫っている今日この頃ですが、各地でインカレや高校総体、中学生や小学生大会など、学生の皆さんの試合も開催されていますね。寺田は皆さんの頑張りもチェックしていますよ(ニヤリ)!

 学生の皆さんとお会いすると、身体の変化やフィジカルトレーニング、栄養について、かなりの確率で聞かれます。専門のトレーナーや栄養士がついていない選手がほとんどというなかで、どうやって取り組むべきか、悩みは尽きないですよね。

 取り組み方を考える前に、いったん立ち止まって、自分がそれらについて、どう思っているかを整理してみませんか?

 というのも、上記の内容を聞かれる際に必ずと言っていいほど、「身体を変えること、怖くないですか?」「バルクアップして、重いと感じませんか?」と言われるからです。

 第一次陸上選手期の身体と、現在の身体を比べると、現在の方が明らかに大きくなっており、体重で言うと5㎏ほど増えています(ラグビー選手時代は除く)。

 今振り返ると、第一次陸上選手期の私は、「海外の選手のようになりたい」と口にはしていても、本気で自分の身体を変えようと思えていなかった気がします。

 国際大会に出場して海外の選手と並んだときに、自分が小さく細く見えていることは自覚していましたし、体格で劣っているのは明らかな事実。身体づくりをしなければいけないことは分かっているのに、身体を大きくすると走れなくなるのではないかという不安がありました。また、女性として、速くなることよりも、周りにどう見られるか、何を言われるかということばかり気にして、フィジカルトレーニングをおろそかにしてしまっていたのではないかとも思います。

 自分の“ベスト体重”と言われるものが、ベスト記録を出したときのものだと信じ切っていたこともありました。若さゆえ、というところもありますが……(笑)。さて、皆さんはどう考えているでしょうか?


一生懸命時間をかけて身体をつくった結果

 結局、身体を変えるというチャレンジができずに陸上競技を一度引退した私ですが、ラグビーに転向したことで大幅な増量と肉体改造を求められました。とにかく、量を食べる。ウェイトトレーニングをしてまた食べる……。そんな生活を約2カ月続けた結果、増量前よりも約7㎏増えました。しかし、糖質を過剰に摂取して増量したため、身体はフワフワ、そして重い。脂肪量も一気に5%増えました。

 急激な増量をした場合は、筋肉量だけではなく脂肪量も増え、筋肉は急激に増えた自分の重さに対応できず、身体が重く感じたり、コントロールができずにケガをすることがあります。そうならないためにも、身体を変えるには、時間をかけて、かつ、体重の数値だけではなく中身(体組成)を見ながら、判断しなければいけないのです。

 ラグビー経験を経て思うことは、筋肉量だけで身体を大きくするのは、本当に大変だということです。

 ただ、時間をかけて一生懸命つくった身体は、たくましくなり、出力も高くなります。また、自分の身体をコントロールできるほどの筋肉量と出力が備わるため、重くて動けないなどということは起きないし、ケガも少なくなるように思います。

 そうなってやっと、自分の目指している目標に近くなるのではないでしょうか。

 現状から何かを変えるということは、確かに怖いし、それなりの覚悟が必要になります。

 第一次陸上選手期の私のように、「結果を出したい」と思う気持ちよりも、ほかに気にする要素があるならば、たぶんうまくはいかないでしょう。

 でも、「自分を変えたい」「結果を出したい」と思っているならば、怖い気持ちを乗り越えてチャレンジすることが、大きな一歩につながります。

 寺田明日香も、そのような気持ちや葛藤を乗り越えて、今があります。

 陸マガ読者の皆さんのなかで、もし悩んでいる人がいるならば、固定観念や怖さを打ち破ってチャレンジすると、きっと前に進めるはずです。

文◎寺田明日香 写真◎BBM

Profile
てらだ・あすか
1990年1月14日、北海道生まれ。柏丘中→恵庭北高→北海道ハイテクAC(以上、北海道)→パソナグループ→ジャパンクリエイト。小学生時代に全国で活躍し、中学では伸び悩むも、高校では100mHでインターハイ3連覇、3年時は100m・4×100mRとの三冠。2008年の日本選手権では100mHで史上最年少優勝を飾り、10年まで3連覇。09年のベルリン世界選手権に出場。13年に引退し、大学進学・結婚・出産を経て、16年8月に7人制ラグビー転向。18年12月、陸上競技に復帰し、19年9月に12秒97(+1.2)を出し、19年ぶりに日本記録を更新。ドーハ世界選手権に出場。東京五輪イヤーの今季、4月に12秒96(+1.6)、6月に12秒87(+0.6)と立て続けに日本記録を更新。11年ぶりに日本選手権優勝。東京オリンピックでは決勝進出を目指す。

文◎寺田明日香 写真◎BBM

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