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2021-07-28

【東京五輪・陸上】隆盛の男子3000m障害。ベテラン・山口浩勢が初の大舞台で目指すもの

晴れ舞台で世界に挑む山口 写真/中野英聡(陸上競技マガジン)

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世界トップレベルとの差を縮め、注目度が高まる男子3000m障害。29歳の山口浩勢(愛三工業)もまたその活況を作り出した一人であり、日本選手権では快走を見せ、初のオリンピック出場にたどり着いた。目指すは決勝の舞台だ。

低酸素トレーニングで壁を打破

 自国開催の大舞台を前にしても、気持ちの高ぶりはない。陸上の東京五輪男子3000m障害(SC)代表の山口浩勢(愛三工業)は平常心で真夏の祭典に挑む。

「日本代表の結団式もオンラインでしたし、無観客で家族やコーチもスタンドに入れないので、オリンピックに挑むという実感はあまりありません。国内で行われるレースではありますが、海外の記録会に出るくらいの感覚ですね」

 6月の日本選手権では日本歴代4位となる8分19秒96で2位となり、代表を決めた。その直後から「オリンピックまでの1カ月で何かが変わることはないと思います。自分は城西大学での低酸素トレーニングで強くなってきたので、それを引き続きやって、万全の状態をつくることに努めます」と冷静だった。そしてこの1カ月、これ以上ない戦いを前にしてやるべきことをやってきた手応えがあるという。それが平常心で挑める大きな理由だ。

 本人が語る通り、五輪代表権獲得は母校・城西大学で積み上げてきた練習の賜物だ。山口は2019年冬からから段階的にここでのトレーニングを開始し、2020年2月からは本格的に拠点のひとつとした。それは「平地での練習に限界を感じていて、何か新しいことに取り組みたかった」という思いから。酸素の薄い環境でのトレーニングは、平地よりも心肺機能を高める効果があり、トップレベルの長距離ランナーの練習として定着している。主に標高2000m近い高地で行われることが多いが、城西大学内に新設された低酸素トレーニングルームではその高地と同じ環境での鍛錬が可能となる。今は狙う試合の約1カ月前から母校で準備を進めることが常となった。

 得られたのはトレーニング効果だけではない。

「チームを離れる時間が増えて、これで結果を残せなければ、勝手な行動と言われても仕方がない。自分のやりたいことを理解し、快く送り出してくれている愛三工業の井幡政等監督への感謝の気持ちを表すためにも、何としても強くならなければいけないと思い続けてきました」

 そうした覚悟も1回の練習への集中度を高め、精神的な強さへとつなげた。

 成果は早々に現れ、2020年のシーズンから山口の走力は右肩上がりの上昇曲線を描き出す。3000mSCで2019年までのベストは8分31秒37だったが、2020年には8分24秒19を出し、今季は先に挙げた記録まで伸ばした。

「昨年からはどんなレースでもラスト1周までは先頭争いに加われるようになりました。終盤までの余裕度が格段に上がり、かつ最後のスパートももう一段階上げられるようになったと思います。5000m、10000mの記録も伸びていて、走力自体が大きく上がりました」

 この種目は2020年から現日本記録保持者、三浦龍司(順大2年)が国内シーンのけん引役となっているが、その背後には常に山口の姿があった。6月の日本選手権で出した日本歴代4位の記録も現役選手の中では三浦に次ぐ2番目のタイム。両足で踏み切れるハードリングが山口の武器だが、このときは位置取りのミスでそれをうまく発揮できない場面があっただけに、まだタイムを伸ばせると本人は考えている。

文/加藤康博

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