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2021-08-22

「高校野球であれは打てんぞ」明徳義塾・馬淵監督が、もっとも手ごわかったと評価する投手とは。

勝つための確率を考えて采配を振る馬淵監督。頭を使った野球を選手に徹底させて戦う

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夏の甲子園初戦で県立岐阜商との接戦を制し、22日に明桜(秋田)との2回戦に臨む明徳義塾高。分析をして策を練り、確率を見極めて勝利を目指す、名将・馬淵史郎監督の育成術をまとめた書籍『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』から、その一部を数回に分けて紹介します。

馬淵史郎のセオリー「好投手対策としてバント練習をする」

松坂大輔(現埼玉西武)、吉見一起(元中日)、西村健太朗(元巨人)、東浜巨(現福岡ソフトバンク)、藤浪晋太郎(現阪神)……。プロ入り後にタイトルを獲得する数々の好投手と対戦してきた馬淵監督が、もっとも手ごわかったと評価する投手がいる。

「甲子園でやったピッチャーでナンバーワンを挙げろといわれたら瀬戸内の山岡(泰輔、現オリックス)。高校野球であれは打てんぞ」

 最速145キロの速球に加え、縦に大きく落ちるスライダーが武器の山岡は引き分けとなった広島県大会決勝の広島新庄戦で延長15回1安打15奪三振を記録した。

「新庄との2試合のビデオを見て、これは打てんぞと。特にスライダーはわかってても打てん」

 難攻不落の山岡をどう攻略するか。馬淵監督が考えた策はこれだった。

「クセが100パーセントわかってた。全部セットでゆっくり入ったらストレート。スッと入ったら変化球。だからスライダーを打たんかった。『見逃せ。打ったって打てんのやから打つな』と」

 右打者なら、ホームベースを半分にして、真ん中のラインより外側に来た変化球は打たない。すべて外角のボールゾーンに逃げ、ワンバウンドするぐらい落ちるからだ。狙うのは、抜けて内側に入ってきたスライダー。肩口から入る高めのスライダーは長打が狙える。

 捨てる球と狙い球は決まった。だが、馬淵監督は打撃練習をさせなかった。代わりにやったのはバント練習だった。

「広島予選を見たら、バントのときもスライダーを投げてる。広陵、新庄のバッターが全部失敗しとった。わかっとって失敗するんよ。それで、瀬戸内とやると決まってからは、バッティング練習をいっさいせんかった。マシンを全部スライダーにして、毎日バント練習だけやった。だって、あんな球は打つ練習したって打てんのやから。それやったら、他の練習がいい。ピッチングと守備をきちっとやって、1対0か2対1で勝つしかないと思った。選手には『フリーバッティングで打つような球なんか来やせんのやから、バッティング練習はやめとけ。守り勝て』と」

 実際、試合では打てなかった。4回まで2安打5三振で無得点。だが、5回裏。山岡に失投が出る。先頭の宋皞均への初球。スライダーが高めに入った。ややアウトコース寄りの球だったが、打席のベース寄りに立っている宋にとっては真ん中。宋はこれを見逃さず思い切って振ると打球はレフトスタンドに飛び込む先制のソロ本塁打になった。

 さらに一死後。八番の馬場雄大がショートへの内野安打で出塁すると岩見昂の投手前のバントを山岡が失策。死球で満塁となったあと、二番・畑光がレフトに犠牲フライを打ち上げ、2点目を入れた。エース・岸潤一郎がこの2点を守りきり、2対1で勝利。馬淵監督がイメージした通り、これしかないという勝ち方だった。

「明徳がスライダーをバント成功したら、広島のチームは『やっぱり明徳はバントがちゃんとできる』と言うとった。ウチが相手じゃなかったら、瀬戸内は勝ったと思うよ。だから監督っていうのは、どれだけ難しいことを簡単に言うか。あれもこれもじゃなしに、ポイントをかいつまんで指示を出せるかどうかなんよ」

 この試合で明徳は5犠打を記録したが、バントのファウルは1球だけ(スクイズは除く)。バントのうちの1つが山岡の悪送球を誘って決勝点につながった。

 打てない球は打たない。無駄な抵抗はせず、バントするだけでOK。それぐらいわりきらなければ、ドラフト上位レベルの好投手は攻略できないのだ。

田尻賢誉・著『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』(ベースボール・マガジン社、2021年)より

明徳義塾高・馬淵監督の大胆かつ緻密な戦い方と育成術をまとめた『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』


『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』

明徳義塾高・馬淵監督の大胆かつ緻密な戦い方と育成術をまとめた一冊

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