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2021-08-26

明徳義塾・岸潤一郎 vs大阪桐蔭・森友哉。13年夏の一戦から見る強打者の抑え方

勝つための確率を考えて采配を振る馬淵監督。頭を使った野球を選手に徹底させて戦う

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夏の甲子園準々決勝、明徳義塾は智弁学園(奈良)と対戦する。大会随一といわれる智弁学園の強力打線を明徳義塾はどう迎え撃つのか –-– 分析をして策を練り、確率を見極めて勝利を目指す、名将・馬淵史郎監督の育成術をまとめた書籍『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』から、その一部を数回に分けて紹介します。

馬淵史郎のセオリー「強打者はインコースと高めを攻める」

打力全盛の高校野球。筋骨隆々の強豪校の選手が金属バットを持てば、軽くスタンドに入る。だが、それを恐れ、変化球でかわそうという投球では戦えない。

「大阪桐蔭とか強豪校のバッターは、どっちか言うたら手が伸びたとこで打ちたいんよ。だからインコースに投げれないピッチャーは勝てない。逃げて外に投げてみな負けるんよ。長打が怖いからね」

強豪校の選手にとって、甲子園はアピールの場。フルスイングをして一発放り込んでやろうと思っている。そんな超積極的な打者には、こちらも攻める気持ちが必要だ。

「デカいヤツはドーンと打ちたいわけよ。そいつらが打てるとこは外の甘めしかない。外に投げようとしてシュート回転して手伸びゾーンにいくのが打たれるパターンよね。インコースは投げ間違いが一番怖いけど、岸みたいに球威があってインコースに投げれるピッチャーはそんなに怖くない。インコースでファウルを打たせとって、外にスライダー。手伸びゾーンに甘く入らなければ打ち取れる」

エース・岸潤一郎(現埼玉西武)が馬淵監督の言う通りの投球を見せたのが13年夏の甲子園3回戦・大阪桐蔭戦。森友哉(現埼玉西武)、香月一也(現巨人)らがいた打線に8安打は許したものの、四死球はゼロ。1点に抑えた。五番の香月には4打席全8球中6球がインコース。三番の森も4打席すべて結果球はインコースだった。2安打は許したが、外野に飛ばされたのは1本だけ。セカンドゴロ2つとショート内野安打に封じた。岸は言う。

「どこのチームを見てても、桐蔭相手だと逃げますよね。でも、実際、ちゃんと投げれば、一番長打が少ないのはインコースです」

岸がインコースに投げ切れたのはコントロールがいいこともあるが、それだけではない。普段の練習で本番を想定したインコースの練習をしていたからだ。

「僕は打席に監督さんを立たせたこともありますよ。引退した杉原(賢吾、2学年上の先輩)さんを立たせたこともありますし。そうすれば、(強豪に投げるときと)絶対そのプレッシャーはいっしょなんで。監督さんなんて、当てたらヤバい。『自分はどうなるんや』ぐらいの感覚じゃないですか。控え選手を立たせても意味ないです」

岸がそう言うように、本番を想定するとは、強豪校と対戦するときと同じぐらいプレッシャーをかけて練習すること。当てても「ごめん」ですむ控え選手を相手に練習してもプレッシャーは雲泥の差。監督や先輩など「当てたらとんでもないことになる」という人を相手に練習して、初めて同じぐらいの緊張感になる。馬淵監督は言う。

「打席に立つよ。その代わり、リリースした瞬間にパッと離れるけど(笑)。顔のへんに来たことないよ。ピッチャーは相当気を使って投げるから。それも大事やで」

インコースと同じようにポイントになったのが高めを使うことだった。試合前、馬淵監督は岸にこう指示している。

「森はローボールヒッター。ストレートは高めに投げろ。フォアボールを取る気はないから振ってくる」

森友哉や清宮幸太郎(現北海道日本ハム)に代表されるように、近年の高校球界のスラッガーはローボールヒッターが多い。距離の取れる低めを打つことを得意としているため、いかに狙って高めに投げられるか。釣り球に使うような明らかなボールゾーンではなく、ストライクかボールかぎりぎりのところへ投げ込めるかが勝負になる。それをインコースに投げられれば完璧だ。

「インハイはどこも打てないよ。大阪桐蔭も智弁和歌山も打てない。人間は手をたたむのが一番難しいからね。デカいヤツは特に難しい」

岸は香月に対してインハイ勝負でいった。きっちり投げられた第1打席はレフトフライ、第3打席はファーストゴロ。どちらも二塁に走者を背負っていたが、逃げずに攻めていった。ちなみに、同じインコースでも低めに投げた第4打席は右中間に二塁打を打たれている。岸は言う。
「高めは練習しました。確かに高めに投げるのは怖いですけど、投げないと絶対抑えられないんで。そこは気持ちとバッテリーの信頼関係だと思います。練習するのは胸元ですね。胸元が一番手が出ないじゃないですか」

かつては高めイコール長打というイメージがあったが、近年はそうでもない。打ち方を見て、見極めた結果の高め勝負だった。馬淵監督は言う。

「高めが打てないバッターは多いよ。ガキの頃からあおって打つからね。ローボールヒッターには高めのスピンのあるボールをベルトから少し上のストライクゾーンに投げられれば厄介。岸の球は独特のスピンがあるから、変に変化球を投げるよりストレートで押した方がいいんよ」

セオリー45『ポジショニングでヒットを防ぐ』で馬淵監督が言っているようにドアスイング気味の打者はインコースはファウルにしかならない。きっちりインコースに投げられれば、ファウルでカウントを稼げる。大阪桐蔭や履正社など強豪校の打者は四死球を望んでいない。打ちたくてたまらないから必ず初球から振ってくる。どんな強打者でも、追い込まれれば脆さが出るのだ。もっとも悪いのは、コースを狙いすぎてボール先行のカウントになり、ストレートでストライクを取りにいくこと。インコースと高めを使い、最悪のパターンさえ避ければ、勝機は生まれる。

「インハイに投げられれば球が遅くても打ち取れるんよ。ウチの新地(智也、19年夏の甲子園2回戦・智弁和歌山戦に先発し、6回まで無失点)がいい例や。普通ならアウトコース中心でたまにインコースを投げてアウトコース勝負というところを、智弁との試合に限っては逆にした。『アウトコースはボール、ストライクはインコースでいけ』と言ったんよ。同じようにサイドのピッチャーも高めに投げる練習をせないかん。サイドは横の変化とばっかり思うから打ちやすい。高低を使うと打ちにくい」

攻める気持ちとそこに投げるための準備。普段の練習から、いかにプレッシャーをかけてやれるか。

本物の準備をしている者だけが、内角と高めに勇気を持って投げ込めるのだ。

田尻賢誉・著『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』(ベースボール・マガジン社、2021年)より


明徳義塾高・馬淵監督の大胆かつ緻密な戦い方と育成術をまとめた『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』

『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』

明徳義塾高・馬淵監督の大胆かつ緻密な戦い方と育成術をまとめた一冊

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