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2021-08-31

【泣き笑いどすこい劇場】第3回「あのとき、あの発言」その3

平成18年秋場所13日目、岩木山(奥)は稀勢の里を押し出し、有言実行にホッとし(?)この表情

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あのとき、あんなことを言ったばかりに、と後で後悔したことはありませんか。“口は災いの元”、いいえ“口は幸運の元”でもあります。思い切って口に出して言ったおかげで、思いもしなかったいいことや、ときにはその反対のことも起こったりします。この際、腹の中にしまって置かず、堂々と言ってみてはいかがです。今回の悲喜劇ポイントは、あのとき、あの発言のおかげで――です。

有言実行

酔眼朦朧とした酒の上の発言は、いい加減の代名詞みたいなもので、言いっ放しの聞き流しということが多い。しかし、世の中には、ちゃんと覚えていて、しっかり実行する奇特な人間もいる。

平成18(2006)年秋場所13日目、西前頭5枚目の岩木山(現関ノ戸親方)は東小結稀勢の里(のち横綱、現荒磯親方)を左差し、176キロの巨体をあおるようにして一気に寄り切って、みごと勝ち越しを決めた。このとき、岩木山30歳、稀勢の里20歳。どちらが若手か、分からないような岩木山の快勝だった。ご機嫌で支度部屋に引き上げてきた岩木山は、

「相手は自分より10も年下ですからね。この前、酔っぱらってアイツに『あと2年、32歳まで、お前には負けないぞ』って言ってやったんですよ。出番前、あれから半年も経っていないのに負けたらどうしよう、と思っていつもより緊張しました。いやあ、勝ててよかった。まだまだ負けられないですよね」

と胸を張った。

岩木山がこの次に稀勢の里と対戦したのはそれから3年後、平成21年夏場所14日目だった。このときは逆に寄り切りで負けているが、形の上ではホントに32歳まで稀勢の里には負けなかったことになる。

平成22年秋場所千秋楽、小脳梗塞のために3場所連続休場し、十両に落ちていた岩木山は、引退して後進の指導に当たることを涙ながら表明した。こんな律儀な岩木山のことだから、きっとリッパな指導者になることだろう。

月刊『相撲』平成23年1月号掲載

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