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2021-09-01

「QBとして林は高田鉄男に匹敵した」橋詰監督が語った日大フェニックスの2年半

日大フェニックスを再建した橋詰さん。次のステージでも活躍を期待したい

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スプレッド攻撃はある意味で簡単

――コーチ留学について伺います。橋詰さんが、オクラホマ大学にコーチ留学した時期は、名将ボブ・ストゥープスヘッドコーチ(HC)が就任して間もなくだったと思います。

橋詰 オクラホマ大のヘッドコーチにストゥープスが就任して2年目の1年間です。

――スプレッドオフェンスという戦術の革命が起きていた時に、起きていた大学にいらした。

橋詰 そうですね。確率的に考えてもものすごくラッキーなことでした。アメフトのコーチを専従でやりなさいと言われ、何をしたらいいのか考えて、米国のチームで勉強させてくださいと大学にお願いをしたらOKが出ました。

 前年に語学研修で、学校職員として学生を連れて米国の学校に1カ月ぐらい行ったのですが、事務職員の方に紹介してもらったアメフトのコーチが、就任1年目のストゥープスでした。「もしかしたら来年1年お世話になるかもしれないけれどいいですか」とお願いをして、OKの返事をもらっていました。それで行くことになりました。

 私が行ったストゥープス2年目のシーズン、2000年は、開幕時は全米25位にも入らなかったチームでしたが、13戦全勝で全米王者になりました。

 1980年代にヘッドコーチだったバリー・スゥィッツアー(後にカウボーイズのヘッドコーチ)が、リクルートで違反をしたために、ペナルティーがありました。そのために高校生のリクルートができず、タレントレベルでは有力な選手が全然いなかったのです。この2000年の優勝チームからはNFLで活躍する選手が出ませんでした。

――全米優勝のチームの中にいてどうでしたか。

橋詰 ストゥープスが来てチーム改革をしている。新しいフットボールを始めているというのは感じていました。ただ、選んでそこにいたのではなく運がよかった。とにかく全てを知りたいなと思っていました。フットボールのアサインメントも学んだのですが、先ほど言ったように、年間の練習のプログラム、選手の学業チェック、身体を大きくするための食事のとり方。すべてがよい勉強になりました。オクラホマは、スプレッドオフェンスで有名になりましたが、ストゥープス自身はディフェンスのコーチなので、彼に教わったのは、こういったフットボールに関わるプログラム全般です。

――スプレッドオフェンスの特徴を解説してください。

橋詰 僕がやっているオフェンスは、アメリカでは「エアレイド(空爆)」と呼ばれていて、マイク・リーチというコーチが始めたものです。マイク・リーチは、今はミシシッピ州立大のヘッドコーチです。僕が行く前年までオクラホマ大にいて、QBコーチ兼オフェンスコーディネーターでした。コーチとして実績を残したのでテキサス工科大にヘッドコーチとして栄転しました。

 僕が学んだのは、残ったスタッフがマイク・リーチから継承したオフェンスの戦術です。マイク・リーチは、オクラホマの前はケンタッキー大にいました。(※リーチはケンタッキー大でQBティム・カウチを育成。カウチはNFLドラフト全体1位でブラウンズに入団する)スプレッドオフェンスの源流の最初の枝分かれのところに、たまたま僕はいました。すごく特殊なオフェンスでした。

 僕なりの解釈なのですが、ウェストコーストオフェンスは、相手のディフェンスをキーにします。Sがこう動いたらここに投げなさい。CBがこうだったらこうしなさいと、すごく細かく決まっているのですが、スプレッドはあまりそういう決まりはない。

 QBのリードは、デイフェンスを見るよりはレシーバーが主体です。1人目のレシーバーが空いていなくて、LBにカバーされていたら、本来LBが守るべきだったここに投げなさい。そこが空いていて、別のレシーバーが走り込んでいる。パスが成功する。その順番が5番目のレシーバーまで作ってある。そういうオフェンスです。

 QBから見た場合、ある意味で割と簡単です。ディフェンスをキーにしないのは、最近のディフェンスのカバーが、カバー3であるとかカバー2であるとか、スキームを読み取りにくくしているからです。ゾーンディフェンスなのか、マンツーマンディフェンスなのかもわからない。ディフェンス選手でリードするのが困難になっています。ごまかすための「ディスガイズ(偽装)」もいっぱい入っている。ブリッツが入ったから、QBがホットターゲットのレシーバーにパスを投げたつもりがそれが罠で、ホットへのパスをインターセプトするためのディフェンス選手がすっと出てくるとか、そういうふうになっている。

――NFLのQBも以前と違い、マホームズやメイフィールドのように大学を出てすぐに活躍するようになりました。

橋詰 NFLのプレーブックはすごく分厚くて難解です。カレッジはそうでもない。NCAAのルールで、練習時間が厳しく制限されているからです。例えばサマーキャンプは15回しか練習ができない。限られた練習の中で仕上げて、試合をしなければならないので、難しいことはできない。NFLはプロですから制限がなく、すごく発展させたオフェンスになる。今はNFLも変わってきて、カージナルスのキングスベリーはカレッジのコーチからそのままプロへ行って、カレッジのオフェンスシステムをそのまま移植して、割とできているのかなという感じがしますね。僕はNFLはあまり詳しくないのですがそのように感じます。

▲︎ストゥープスHCの率いたオクラホマ大はカレッジフットボールを席巻した
▲︎ストゥープスHCの率いたオクラホマ大はカレッジフットボールを席巻した

小座野容斉

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