close

2021-10-31

TV出演で3時間5000回スクワット…藤波辰爾が語る海外武者修行時代<2>【週刊プロレス】

 先輩である木戸修と2人、右も左もわかるまま放り込まれた西ドイツでの武者修行。藤波辰爾が遠征した当時の欧州マットは、まだ“キャッチ”と呼ばれた古き良き時代が残されていた。日本とは異なるプロレス環境、スタイルで技術的にも精神的にももまれて、逞しく育っていく。一方で言葉の不自由さもあって失敗も多かった。そんな西ドイツ遠征時代を振り返る。
      ◇        ◇        ◇
 武者修行と聞けば技術面を鍛錬すると思われがちだが、プロレスの場合は精神で鍛えられることの方が多い。右も左もわからぬだけでなく、言葉も十分に通じないところへ放り込まれるのだから当然だ。では、どのように克服していったのだろうか。

「言葉が通じないとか日々の不自由さはあるけど、誰でもそうだと思うけど失敗しながらこうすればいいんだっていうことを覚えていって。言葉も、こういうことを言ってるんだなってわかるようになっていって。

 自分なりにそういうことを習得していくと、最初は大変だったことも楽しさに変わっていく。西ドイツは1年ぐらい。ハノーバーからずっと各地のトーナメントに出場して。西ドイツでは2週間から3週間、移動せずに同じ会場で試合するんです」

 ヨーロッパには独特のスタイル、独特のプロレス習慣があった。藤波が遠征していた時期は、古き良きシステムを守っていた時代である。

「もともとプロレスって、サーカスといっしょに回ってたんです。サーカスの中の一つのアトラクションとしてプロレスがあった。そのうちプロレスの人気がだんだん上がっていって、サーカスから独立して回るようになって。

 それがアメリカに渡って今のような興行スタイルになったわけでね。僕が西ドイツに行った頃はまだ古いスタイルで、サーカス小屋の隣にプロレスの会場がありましたよ。ヨーロッパで格闘技の歴史は古くてね。

 リングアナやレフェリーも正装。アメリカのような演出、ショーアップされてないプロレス。反則したらレフェリーがイエローカードとかレッドカードを見せてね。試合開始の合図はゴングじゃなくてホイッスルだったり。

 ラウンド制でダウンした相手は攻撃しちゃいけない。テイクダウンを奪っても、相手の体から離れちゃうと攻撃しちゃいけない。でもグラウンドで寝てるとダウンカウントを取られるから、すぐに立ち上がらないといけない。反則には厳しかったね。

 反則カウントはあるんだけど、それを無視したら1回目はイエローカード、2回目はレッドカードで反則負けになる。アマチュア・レスリングにもうちょっと見せる要素をプラスしたような感じっていえばいいかな」

 ヨーロッパを代表するプロレスラーといえばビル・ロビンソンやホースト・ホフマンといったテクニシャンを思い浮かべる昭和のプロレスファンは多いだろう。その意味では技術面では勉強になった。

「ヨーロッパの選手はそういう環境で育つから、投げ技とか返し技がうまいでしょ。海外に出ましたけど、それまではずっと新日本の道場で練習してましたから、まだそんなにテクニックは覚えてなかったからね。いい練習になりましたよ。

 カール・ゴッチの紹介だったんですけど、そういうことを考えて西ドイツに送ったんでしょうね。お客さんを入れるまでは試合会場のリングで練習できるし、いい環境でしたよ」

 現地ではプロモーション番組へのTV出演もあった。

「まぁプロレスの興行をやってるっていう宣伝のような番組なんだけど、日本からレスラーが来てるって紹介されてね。そこでプロレスラーの練習を披露するんだけど、木戸さんとそれに起用されて。2時間ぐらいの番組だったんだけど、放送前からスクワットを始めて。

 番組が始まったときに、『彼らは練習を始めてもう1時間たってます』って紹介されて。そのあと番組が終わるまで、スタジオの隅でスクワット。本当はいろんな練習をしてほしかったみたいだけど、何も言われなかったんでずっとスクワットをしてて。逆にそれが評判になってね。回数? 3000は軽く超えてるね。5000ぐらいいってたかも(笑)」

 生活面ではこんな失敗もあった。

「まだ西ドイツについてそんなにたってない頃、食事しようとレストランに入ったんです。メニューを見てもドイツ語だからわからない。適当に『これとこれとこれ』ってメニューを指差して注文したら、ウエイターに変な顔されて。『それでいいのか?』って言われたけど『これでいい』って答えたら、そのあとスープが三つ運ばれてきた(笑)。それからは、隣りのお客が食べてる料理を見て、『あれと同じもの』って注文するようにしたよ(笑)」

(つづく)

橋爪哲也

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事