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2021-11-28

【ボクシング】尾川堅一が3度のダウンを奪って判定勝ち。IBF世界王座を奪取

得意の右ストレート。尾川(右)は守備的なフジレを何度も追い込んだ

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 IBF世界スーパーフェザー級王座決定戦、アジンガ・フジレ(25歳=南アフリカ)対尾川堅一(33歳=帝拳)の12回戦は27日(日本時間28日)にアメリカ・ニューヨークのマディソンスクエア・ガーデン内シアター“Hulu”で行われ、3度のダウンを奪った尾川が3-0のスコアで判定勝ちを収め、念願の世界王座を手に入れた。

何が何でも勝ちたかった尾川

 尾川は4年前の屈辱を忘れていない。この日の同じタイトルがかかった王座決定戦、テビン・ファーマー(アメリカ)に勝ちながら、禁止薬物の陽性反応が出て、無効試合となり、同時に手にしたベルトは奪い去られている。身に覚えはなかったが、ルールはルール。尾川は1年も実戦から遠ざかる。その後も世界への道筋ができかけては消える。8月に予定された王座決定戦も、直前になって対戦予定のシャフカッツ・ラヒモフ(ロシア)の負傷で先延ばしになった。その間、時間ばかりが流れる。年齢も三十路半ばに差しかかっている。伝説のスタジアムで行われたこの日の世界戦は、まさしく待ちに待ったチャンスであり、なんとしても勝たなければいけない戦いでもあった。そんなさまざまな事情が、尾川のボクシングに多少なりとも影響を及ぼしていたのかもしれない。

 立ち上がりから、尾川の攻めは散発的だった。じりじりとプレスをかけるものの、ときおり右を伸ばすだけ。とくにラウンド中盤以降はほとんど手が出なかった。2ラウンドも攻勢点は取っていたものの、決定打にはつながらない。続く2つのラウンドは、ポイントの行き先が定かでないまま行き過ぎた。

 サウスポーのフジレは徹底的に引いて戦うことはわかっていたはず。左ガードを軸に守りに難く、相手の出端に右フックをひっかけてくる。これも予想どおり。初回、その右フックのひっかけで尾川が大きくバランスをくずすシーンもあった。「勝たなければならない」という気持ちが、気負いを呼んでいたのかもしれない。
右ストレートを決め手に奪った3度のダウンが、尾川を勝利へと導いた
右ストレートを決め手に奪った3度のダウンが、尾川を勝利へと導いた

奪った3度のダウンが勝利の決め手に

 流れを変えたのは1発のパンチだ。5ラウンドだった。相手の右フックをかわしざま、右の強打をねじ込んだ。一瞬、体の自由を失ったフジレは左手でロープをつかんで耐えようとしたが、尾川の追撃の前に自ら崩れ落ちる。鼻血を流して立ち上がった南アフリカ人のダメージは明らか。尾川はその強打で何度も弾き飛ばしていった。

 決定的なダメージを与えたことで尾川の攻防に流れが出てくる。左ジャブが頻繁に出るようになって、右の長いボディストレートも効果的。とくに9ラウンドのボディストレートでは、フジレが動きががっくりと落ちた。フジレは右目の上、さらに終盤には左眼もカットしてさらに苦しくなっていく。

 10、11ラウンド、それまで待ちに徹していたフジレが逆転を狙って出てきた。クラウチングに構え、追ってくる。尾川は安易にこれにつきあって、ポイントを失ったかもしれない。12ラウンド。たとえ、勝利したしても、尾川が世界のリングで評価されるためには、きわめて大事な最後の3分間になる。

 そして、尾川はこの課題をクリアする。決め手はやはり右ストレートだった。ボディに決めた強烈な一撃でフジレをたじろがせ、同じパンチをフォローしてダウンを奪う。今度もダメージは大きい。再開後間もなく、またしても倒れたフジレはなんとか立ったが、試合終了ゴングに逃げ込むのがやっとだった。
万感の思いが胸中を駆けまわる。勝者は思わず男泣き
万感の思いが胸中を駆けまわる。勝者は思わず男泣き

 採点は115対110が2者と114対111の3-0だった。

「(4人の)子供たちのためにもね……」。試合直後のインタビューで尾川は思わず男泣き。悔しい思い、待ちわびた長い日々が脳裏をかすめたことだろう。ただ、自身が語ったように、手数が少なくなって、微妙なラウンドもいくつも作ったことにはさっそく手をつけなければならない。世界で活躍するという明日の目標のためにだ。29戦26勝(18KO)1敗1分1NC。フジレは17戦15勝(8KO)2敗。

文◎宮崎正博(DAZN観戦) 写真◎ゲッティ イメージズ

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