アメリカンフットボール・Xリーグの最上位「X1 スーパー」は11月28日に2021年のレギュラーシーズンが終わった。2勝5敗でシーズンを終えた東京ガスクリエイターズの中で、終盤にかけてチームのオフェンス・ディフェンスで肝になる活躍を続けていたのが、27歳のショーン・ドレイパーだ。(アイオワ大の写真はすべてGetty Images)
ドレイパーの本職はDB兼リターナーだ。セーフティーとしてランナーをタックルし、パスも守る。今季は13タックル2インターセプト。リターンではパント・キックオフ両方をこなす。今季はパントリターン11回80ヤード。キックオフリターン21回472ヤード1TD。

それだけでは足りず、今季はRB、WRとしてもプレーした。RBとしては16キャリー70ヤード2TD、パスは3キャッチ18ヤード。今どきの言い方をすれば「四刀流」の活躍だった。やれと言われれば、きっとQBだってこなしたに違いない。
「取り組みがプロ中のプロ」板井HCも評価 東京ガスの板井征人ヘッドコーチによると、ドレイパーは「自分から『オフェンスでもぜひプレーさせてほしい』と志願してきた」という。チームカラー的に、ややおとなしい選手が多い東京ガスの中で、「キックもディフェンスもオフェンスも、全部オレが出る、というお手本になる存在」と話す。
エレコム神戸ファイニーズで5年間中心選手として活躍し、今季移籍してきた。「日本のフットボールをよく知っているし、取り組みがプロ中のプロ。僕が直接見た米国人選手の中では、準備もメンタルも一番」と板井HCは高く評価する。
ドレイパーは、米カレッジフットボールの強豪アイオワ大の出身だ。板井HCも「たたき上げるというか、すごく厳しい練習で選手を鍛え上げる大学として有名」と話す。
スティーラーズのジャージー真似ただけでなく、ロッカールームをピンクに塗った アイオワ大はBIG10カンファレンスの中では、強豪ではあるが、人気や注目度ではミシガン大、オハイオ州立大、ペンシルバニア州立大などには劣る。ただし、板井HCの語った通り、厳しい練習とハードノーズなフットボールで、フィジカルもメンタルも強い選手を産み出してきた。
現役のNFL選手ではOLのマーシャル・ヤンダ(レイブンズ)、ブランドン・シャーフ(ワシントン)、ライリー・リーフ(ベンガルズ)、TEジョージ・キトル(49ERS)がそうだ。
過去には、LBアンドレ・ティペット(ペイトリオッツ)、TEダラス・クラーク(コルツ)、FSマートン・ハンクス(49ERSなど)、LBチャド・グリーンウェイ(バイキングス)といった名前が上がる。決してスーパースターではないが、チームの栄光を支えた勝負強い名選手ばかりだ。
日本のNFLファンの中では、アイオワ大はNFLピッツバーグスティーラーズと、非常によく似たジャージーのチームとして認知されている。
似ているのは当然で、アイオワ大はスティーラーズを真似てこの「ブラック&ゴールド」のジャージーにしたのだ。

1979年、アイオワ大の第25代HCになったヘイドン・フライが変えたのだった。フライは、負け犬根性が染みついたチームを変えたいと思っていた。アイオワ大は10年間勝ち越しが一度もなく、HCはフライで4人目だった。
当時3回目のスーパーボウル優勝を果たし、NFLの王者として君臨していたのがスティーラーズ。フライはピッツバーグに電話をかけて、ジャージーをスティーラーズと同じにすることを願い出て、快諾を得た。
それがアイオワ大の転機になった。フライの1年目アイオワ大は5勝6敗と負け越したものの、前年の2勝から大きく改善した。そして3年目の1981年にはBIG10優勝を果たし、ローズボウルにも出場した。いずれも23年ぶりだった。
アイオワ大はその年から17年間で14回勝ち越してボウルゲームに進出した。フライの下からは、ビル・シュナイダー(後のカンザス州立大HC)、バリー・アルバレズ(後のウィスコンシン大HC)、ボブ・ストゥープス(後のオクラホマ大HC)という、歴史に名を残す名将が巣立った。
色でいえば、面白いエピソードがある。ジャージーをスティーラーズと同じに変えたフライは、もう一つ、あるものの色を変えた。本拠地キニック・スタジアムの、ビジターチームのロッカールームの壁や天井をピンクに塗ったのだ。ベイラー大学で心理学を専攻したフライは、ピンクが刑務所や病院などの内装に使われてるのを知っており、ピンク色が、人を落ち着かせ、攻撃的な気持ちをそぐ効果があると信じていた。
ミシガン大の名将ボー・シェーンベックラーは、アウェーでこのスタジアムを訪れると、壁を紙を貼って覆わせていたという。
NFLへ122選手を送り込んだがQBは1人だけ 1998年で勇退したフライの後、チームを率いたのは、カーク・フェレンツだった。フェレンツは、フライの下でOLコーチを務めた後、NFLブラウンズ、レイブンズでもOLコーチを務めた。ブラウンズ時代の上司はビル・ベリチックだった。いわゆる「ノンナンセンスコーチ」。真面目で厳しいコーチだった。

フェレンツはフライのチームカラーを引き継いだ。スプレッドに代表されるような派手なオフェンスはない。オフェンスもディフェンスも、ライン戦を制して、堅固に守り、相手を痛めつけるフットボールが持ち味だ。
フェレンツは就任23シーズンで、負け越しはわずか2シーズン。今季も10勝2敗で全米ランク15位に付けている。NFLには122人の選手を送り込んできたが、QBはたった一人、C.J.ベザード(現パンサーズ)しかいない。
スティーラーズが、1969年以降、53年間でHCは3人しかいない(チャック・ノール、ビル・カウワー、マイク・トムリン)のは有名だが、アイオワ大も1979年以降の43年間でHCはフライとフェレンツの2人だけ。
「ブラック&ゴールド」のジャージーは、指揮官が変わらないジンクスを生んでいるのかもしれない。
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現地、12月4日(日本時間5日)、今季のBIG10チャンピオンシップ、ミシガン大vsアイオワ大の大一番がある。宿敵オハイオ州立大を、ラン主体のパワーフットボールで10年ぶりに倒したミシガン大に、いつものようにビッグネームのいないアイオワ大がどのように挑むのだろうか。