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2021-12-16

【NFL】ジャガーズがマイヤーHCを解任 カレッジで全米優勝3回の大物、プロでは1シーズンも持たず

現地12月12日、タイタンズに完敗した後、力なくフィールドを去るマイヤーHC。ジャガーズは3日後、マイヤーを解任した=photo by Getty Images

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米プロフットボール・NFLのジャクソンビル・ジャガーズは、現地12月15日深夜、(日本時間16日)ヘッドコーチ(HC)のアーバン・マイヤーを解任した。公式サイト、NFL.comやスポーツ専門局ESPNが速報した。ジャガーズは今季ここまで2勝11敗と低迷していた。今季のNFLではHC交替は、レイダースのジョン・グルーデン以来2人目。マイヤーはフロリダ大やオハイオ州立大で全米優勝3回の大物HCとして、鳴り物入りでジャガーズに迎えられたが、1シーズンも持たずにチームを去ることになった。(写真はすべてGetty Images)

 ジャガーズは、現地12月12日の日曜日、今季第14週のゲームとして、AFCサウスの地区内ライバル、タイタンズと対戦し、0-20で完敗した。今季ドラフト全体1位指名のQBトレバー・ローレンスはタッチダウン(TD)ゼロで4インターセプト、ランはチーム史上最低となる1試合8ヤードと、スコア以上の惨状だった。この完敗が引き金になった。

 HCとQBが2人ともNFL未経験というのは、再建期のチームとしては、無理があり過ぎた。マイヤー解任後の暫定HCには、オフェンスコーディネーターのダレル・ビーベルが就任する。

 オーナーのシャヒド・カーン氏は球団の公式サイトで「何週間もかけて熟考し、アーバン(・マイヤー)のチームでの在任期間全体を徹底的に分析した結果、私は苦渋の思いで、全員にとって即時の変更が不可欠であるという結論に達した。」とコメントした。


 今年1月のマイヤー就任時には、カーンオーナーは「アーバン・マイヤーこそが、我々が求め、必要とするリーダーであり、勝利者であり、そして王者だ。求められる卓越性や、結果を生み出すことにこたえられる人物だ。ここジャクソンビルで彼の前にあるチャンスに対する情熱は強力であり、紛れもないものだ」と最大級の賛辞を送っていた。

苦しいルーキーシーズンを送るジャガースのQBローレンスと、解任されたHCのマイヤー=photo by Getty Images

 マイヤーは、1964年6月生まれの57歳。シンシナティ大学を卒業後、直ぐにフットボールコーチの道に入り、複数の大学で修業を重ねた。パス中心のスプレッドオフェンスにQBやRBのランをアレンジしたスプレッドオプションの元祖として、アレックス・スミスやティム・ティーボウを育て上げた。フロリダ大で2006、2008年シーズンに、オハイオ州立大で2014シーズンに、合計3回全米王者となったカレッジフットボール屈指の名将だったが、アシスタントなども含め、NFLでのコーチ経験は皆無だった。

 今季は開幕から低迷。第4週のベンガルズ戦後には、バーで若い女性と接触する動画がSNS上で拡散し物議をかもした。ジャガーズが、ベンガルズのホーム、シンシナティに遠征した後、長年HCを務めたオハイオ州に立ち寄ってバーで会食した際のもので、マイヤーは謝罪をしていた。

HCとQBがそろってNFL未経験、チーム再建は無理

 「ドクター・フットボール」として、全米スポーツ界の尊敬を集める名将ルー・ホルツは、1976年、ジェッツで3勝10敗、1シーズン持たずに退任した。全米優勝7回という偉業を達成したアラバマ大のニック・セイバンでも、ドルフィンズHCとしては2年目の2006年に、2ケタ敗戦となり、チームを放り出すように辞任した。オレゴン大で勇名をはせたチップ・ケリーは、NFLイーグルスに転身し、当初2シーズンは10勝6敗だったが、3年目の2015年にディフェンスの崩壊から大きく負け越し、シーズン終了前に退任した。

 そうした大物たちの挫折と比べても、今回のマイヤーのクラッシュは、より一層悲劇的だ。

現地12月12日、タイタンズ戦のマイヤーHC=photo by Getty Images

 カレッジフットボールからNFLのHCに転身する事例は事欠かない。最近ではカーディナルスのクリフ・キングスベリーHC(前テキサス工科大HC、2019年就任)、パンサーズのマット・ルールHC(前ベイラー大HC、2020年就任)がそうだ。イーグルスのケリー元HCの記憶も新しい。そうしたHCと、マイヤーの違いは実績と知名度だ。17シーズンで187勝32敗、全米優勝3回、カンファレンス優勝12回、ボウルゲーム12勝3敗。異なる2大学を全米王者に導いたのは、史上3人目というのは、圧倒的な存在感だった。

 マイヤーはオフェンスの専門家で、スプレッドオプションの創始者的な存在だった。ショットガン・スプレッド隊形からのパスに、QB・RBのオプションのランを有機的に組み合わせたこの戦術は、過去10数年カレッジフットボールで主流となったばかりか、ここ数年は、NFLでも少しづつ普及してきた。マイヤーが57歳になる年齢でNFLへ転出したのは、このような環境変化も理由の一つだった。

 今回のクラッシュの原因は、直接的には2つある。

 一番の理由はカレッジフットボールとNFLは、まったく別物だということだ。

 カレッジスタイルのオフェンスがNFLでも広まってきたとはいえ、埋まらない大きな差がある。32チームの戦力均衡を至上命題とするNFLに比べ、カレッジフットボールは有力選手のリクルートや練習施設などで、強豪校と弱小校の格差は天と地ほどもある。マイヤーが指揮したフロリダ大やオハイオ州立大のような強豪校は恵まれている。

 人材供給一つとっても、カレッジは、選手の人数はNFLの3倍近い。毎年全米トップ級の逸材が何人も入ってくる強豪校は、負傷した選手が出ても、穴は比較的直ぐに埋まる。そういった「黙っていてもついてくるアドバンテージ」がNFLにはなかった。

 もう一点は、QBローレンスだ。ローレンスはカレッジのエリートQBで、素材や将来性は有望視されているが、NFLでの経験はゼロ。現段階のNFLでは先発QBとしての実力は下から数えたほうが早い。タイタンズ戦は4INTと「決壊」してしまったが、第13週まではパス2514ヤード、9TD、10INTと、ルーキーとしてはそれなりの数字を残していた。ただし決定力が無く、開幕戦を除いて、TDパスはすべて1試合1本が最高だった。

 繰り返しになるが、HCとQBがそろってNFL経験がないというチームが、シーズンを戦っていくのは基本的に無理があった。

 マイヤーやローレンスにばかり責任があるのではない。CBジェイレン・ラムジー(現ラムズ)、RBレナード・フォーネット(現バッカニアーズ)、DEヤニック・エンガコエ(現レイダース)、DEカレイス・キャンベル(現レイブンズ)、QBガードナー・ミンシュー(現イーグルス)など有力な選手を、この数年で次々と放出してきた球団フロントに何よりも大きな低迷の原因があった。

苦しいルーキーシーズンを送るジャガースのQBローレンスと、解任されたHCのマイヤー=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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