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2021-12-31

【アメフト】NFLファンなら、アラバマ大の試合を見ないのは「もったいない」と言い切れる その理由とは 「カレッジフットの楽しみ方(6)」

今季のアラバマ大エースQB、ブライス・ヤング。NFLに行った先輩たちが届かなかったハイズマントロフィーまで手にしたが、まだ2年生=photo byb Getty Images

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アメリカンフットボールの全米4強による大学王座決定戦「カレッジ・フットボール・プレーオフ(CFP)」が、1月1日、元旦の早朝から、日本語実況・解説による生放送(日本テレビ系スポーツ専門局「ジータス」およびネットライブ中継「NFLGO」)で視聴できることになった。なんと幸せなことか。関係者のご努力に深く感謝したい。

 日本ではプロフットボールNFLのファンは相当数いるが、その人たちがカレッジフットボールを見ている割合は決して高くないと思われる。しかしそれは本当にもったいない。ぜひ、今回の放送をカレッジフットボールを見るきっかけにしてほしい。

 なぜ「もったいない」のか。それを、CFP準決勝コットンボウルに出場するアラバマ大学クリムゾンタイドのチーム事情を説明しながら、「カレッジフットの楽しみ方(6)」で取り上げたい。(写真はすべてGetty Images)

全米大学王座決定戦(CFP)準決勝 コットンボウル
アラバマ大学クリムゾンタイド(全米1位)
     vs 
シンシナティ大学ベアーキャッツ(全米4位)
日本時間2022年1月1日、午前5時15分【解説】秋元諭宏 【実況】増田隆生



NFLで大活躍するアラバマ大のQBたち

 今季のNFLは第16週を終えた。プレーオフ進出を目指して熾烈なバトルが繰り広げられている中、ペイトリオッツ、ドルフィンズ、イーグルスの奮闘がリーグ全体を活性化している。

 11月以降の成績は、ドルフィンズが7連勝、ペイトリオッツとイーグルスがそれぞれ5勝2敗だ。この3チームに共通しているのが、QB。ドルフィンズのトゥア・タゴバイロア(2年目)、ペイトリオッツのマック・ジョーンズ(ルーキー)、イーグルスのジェイレン・ハーツ(2年目)は、全員アラバマ大でエースとしてプレーし、CFPに進出して好成績を収めてきた経験を持つ。

 ジョーンズが、第13週のビルズ戦でわずかパス2/3、19ヤードで勝利したことが話題となったが、タゴバイロア、ハーツも含めて、3人のQBの今季パス成績は数字上はぜんぜん大したことがない。44歳の「GOAT」トム・ブレイディ(バッカニアーズ)や、アーロン・ロジャース(パッカーズ)といったベテラン勢と比較にもならない。
全米優勝したアラバマ大時代のQBマック・ジョーンズ=photo by Getty Images
 ただ、それぞれに個性を持っていて、その個性を勝負所で生かしながら、勝ち切っている。その原点は 学生時代に常勝チームのオフェンス司令塔としてプレーした経験から来ているのではないかと思える。

 今季のアラバマ大にも優秀なQBがいる。ブライス・ヤング。先発に昇格1年目で、パス4322ヤード、43TD、4インターセプト。3人の先輩たちでも届かなかった、カレッジフットボール最高の栄誉であるハイズマントロフィーを受賞した。レッドシャツ(練習生)期間なしの2年生で、まだ20歳だ。高校時代から全米に名が知れていたエリートQBで、入学後直ぐにスターターになれるとさえ言われた逸材。だが、ジョーンズの下で1年間じっくり勉強したのが良かった。

 QBヤングは単にスタッツが優れているだけではない。アイアンボウルの名で知られる、同じアラバマ州内の宿敵オーバーン大戦では、7点のビハインド、第4Q残り1分35秒、自陣ゴール前3ヤードからのドライブで、奇跡のタッチダウンを奪って、延長タイブレークへ持ち込み、そして勝ち切るという「アグリーゲームでの勝負強さ」も見せた。QBとして「インタンジブル=無形の強さ」を備えていることを証明した。
今季のアラバマ大エースQB、ブライス・ヤング。NFLに行った先輩たちが届かなかったハイズマントロフィーまで手にしたが、まだ2年生=photo byb Getty Images
 ヤングだけではない。今季のアラバマ大で、NFLで即戦力になりそうなオフェンスプレーヤーは、RBブライアン・ロビンソンJR、WRジェームソン・ウィリアムズ、ジョン・ミッチ―と、名前がスラスラ出てくる。

 2021年のNFLドラフトではアラバマ大の選手が6人1巡指名されたが、オフェンスが5人、ディフェンス1人。オフェンスの内訳は、QB1人、RB1人、WR2人、OL1人だ。そして、QBジョーンズ、RBナジー・ハリス(スティーラーズ)、WRジェイレン・ワドル(ドルフィンズ)、デボンテ・スミス(イーグルス)は、全員がチームのエースとして活躍している

 かって、アラバマ大は、強くて大きな攻守のライン、厳しいディフェンスのフットボールで勝つチームと認識されていた。ニック・セイバンが2007年にヘッドコーチになって、当初の数年はそういうチームだった。アラバマ大のQBは、NFLでは控えにはなれても先発はできないと思われていた。実際、1960年代のパッカーズの大エース、バート・スター、ジェッツの「ブロードウェィ・ジョー」ことジョー・ネイマス、70年代のレイダースをけん引した「スネーク」ケン・スティーブラーの3人は有名だが、その時代以降、NFLで活躍したスターQBは近年までいなかった。
今季のアラバマ大のエースWR、ジェームソン・ウィリアムズ(#1)=photo byb Getty Images
 その常識が変わってきた。セイバンが、アラバマにスプレッドオフェンスを導入して以来、アラバマ大は、尖った得点力の高いオフェンスに生まれ変わった。そしてNFLで活躍できるタレントを続々と輩出するようになった。

ディフェンスにも驚異のスターがぞろぞろ

 今やアラバマ大のオフェンススキルポジションは「信頼のブランド」と言ってもよい。

 もちろん、伝統のディフェンスにも素晴らしい選手が多数いる。今季全米トップの15.5サック、29タックルフォーロスを記録した、驚異の20歳、OLBウィル・アンダーソンJR、193センチ143キロで、今季8サックのインサイドDL、フィダリアン・マシス、大型CBジョーダン・バトルなどなどNFLの各チームが垂涎のプレーヤーたちがそろっている。
アラバマ大のDTフィダリアン・マシス=photo by Getty Images

今季15.5サックの驚異の20歳、アラバマ大のOLBウィル・アンダーソン=photo by Getty Images

 彼らの活躍を、今まで日本ではライブで見る方法が無かった。それが元旦から、生放送が見られることになった。実況アナウンサーに、増田隆生さんと近藤祐司さん、解説は森清之さん、村田斉潔さんというNFL中継でおなじみの顔ぶれ。さらに、雑誌TOUCHDOWNで健筆を振るい、現在もSNSで情報発信を続ける、在米のフットボールアナリスト・秋元諭宏さんも加わるという。アメフトファンにとって、こんな素晴らしいお年玉が他にあるだろうか。

 少しだけ残念なことを言えば、QBヤング、OLBアンダーソンは2年生。2022年のドラフトには出て来ない。

 古いたとえ話になる。1985年の8月の日本。高校野球をまったく見ないけれど、熱烈なプロ野球ファンがいたとして、その人の前にタイムマシンで現れることができるとしたら。「このPL学園というチームの試合だけは見たほうが良い。清原和博という4番打者、桑田真澄というエースピッチャーをぜひ見てほしい」と、余計なおせっかいを焼きたくなるに違いない。つまりはそういうことだとお分かりいただければ幸いだ。
今季のアラバマ大のエースRB、ブライアン・ロビンソン(#24)=photo byb Getty Images


今季のアラバマ大エースQB、ブライス・ヤング。NFLに行った先輩たちが届かなかったハイズマントロフィーまで手にしたが、まだ2年生=photo byb Getty Images

SECの優勝トロフィーを担ぎ上げるアラバマ大のOLBウィル・アンダーソン(左)と、DTフィダリアン・マシス(右)=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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