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2022-03-20

広陵のボンズ真鍋慧も二岡智宏もこれで力を伸ばした。広陵高の自主練習の秘密

飾らず実直な中井イズムで育った教え子から、卒業後も頼りにされる父親的存在。 プロ野球選手も多く輩出し、オフには彼らの訪問を受けるのが日常だ(『広陵・中井哲之のセオリー』より)

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広陵・中井哲之のセオリー・自主練習を重視する

3月18日に開幕する第94回選抜高校野球大会に3年ぶり25度目の出場を決めた広陵高校(広島)。150名に及ぶ部員を束ね、控え選手も一体となって戦うチームをつくり上げる名将・中井哲之の育成術をまとめた書籍『広陵・中井哲之のセオリー』から、その一部を数回に分けて紹介。第2回目は自主練習の重要性についてです。

高校卒業後に選手が成長できる理由

広陵の選手は高校卒業後に伸びるといわれる。高卒ではドラフトで敬遠される180センチに満たない小柄な選手が、大学や社会人で成長してプロ入りするケースが多い。なぜ、卒業後に伸びるのか。その大きな理由になっているのが自主練習だ。

強豪校には珍しく、広陵の練習は短い。平日の練習は2時間から2時間半程度。これは、中井監督が就任してすぐに変えたことのひとつだ。

「僕の現役時代は練習で限界まで体力を使い果たしたんですけど、それをやめました。全員での練習時間を短くして、自主練習をする体力を残すようにしたんです。自分で考えて動く時間をつくりたかったんですよね。やるときは集中してやる。休むときは休む。これでいいのか、練習時間が足りないんじゃないかという不安はありましたけど、練習に強弱をつけて、短時間で内容の濃い練習をさせたかったんです」

長時間練習が短時間練習になり、はじめはラッキーと思っていた選手たちも徐々に物足りなくなってくる。体はまだ動く。練習ができる環境もある。自然と自主練習をするようになった。今ではそれが伝統。全体練習よりも、むしろ自主練習の時間が本番といっていいぐらいだ。

「足りないところをどう補うか。いいところをどう伸ばすか。自主練が広陵の大きな武器ですよね。一人でやるのが一番しんどいわけじゃないですか。一人でやり続けるということが。でも、他の学校に勝ちたかったら、負けたくなかったら、レギュラーになりたかったらやりますよね。それに、熱心に自主練習をしよった人がそれなりの大学に行ったり、プロに行ったり、その先で活躍してる姿を見たら、『自分でやったもん勝ちなんじゃ』という考えになりますよね」

選手たちにとって、限界までやる練習はある意味で楽だ。なぜなら、頭を使わなくていいから。体力的にはきついが、考えなくても時間は過ぎる。ところが、自主練習をするとなれば、自分で何をやるか考えなければならない。自分自身を客観視し、何が足りないかを考える。自分自身の強味を理解し、どうやって長所を伸ばすかも考えるようになる。

「単純にピッチャーなら走るとか、バッターならバットを振るとかになりがちですけど、プラスアルファで何かせんとね。ひたすらティーバッティングをするような、ただ時間を過ごすような練習ではうまくならないですよね。必要なのは、『自分に何が足りないから、どんな練習が必要か』という思考。それがあれば、『監督に言われたからやる』というふうにはならない。監督がしゃべっていたのを聞いたとか、上級生を見て真似をしてみたとか、自分で工夫することが必要。あーせい、こーせいと言われてやる子は広陵で試合に出る子にはならない気がしますね」

選手たちが「考える、行動する、続ける」ことができるようにアドバイス

もちろん、広陵の選手たちも全員が何をすればいいかわかるわけではない。そんな選手には、ヒントを与える。

「『わからんこととか、尋ねたいことがあったら、コーチなり、監督なりについてもらえや』と。そうすれば教えてもらえます。僕からもときどき『どうや?』と声をかけます。必要な練習、正しい練習をやっていかんと、楽しい練習だけじゃうまくならんですからね。打つのが楽だからって打つことばっかりでランニングしなかったり、大事な瞬発系とかトレーニングをせんかったら体の切れが生まれない。とにかく自分で考えなさいと。考える、行動する、続ける。『当たり前だろ。考えるだけではうまくならんけぇの。行動せえ』と。続けることで初めて体が覚える、わかる。そういうことはよく伝えますね。もちろん、やるかどうかは個人の問題になりますけど」

選手にとって、やることがわからないことが一番の問題。それはプロ経験者が語る。阪神、巨人、楽天で15年間プレーした智弁和歌山の中谷仁監督は2021年の夏の甲子園でこう言っていた。

「野球の練習はメニューが決まっている。全体でやることが多くて、受け身、指示待ちが多い。プロはそうではない時間が多かった。僕は一心不乱にバットを振ったり、トレーニングしたりできず、楽なほうに逃げてしまった」そうなることがないよう、広陵では普段から考えることを身につけさせるのだ。

暇さえあれば練習をしていた二岡。真鍋も毎日500スイングは欠かさない

自主練習で成長する教え子の中でも、中井監督に強いインパクトを残しているのが巨人、日本ハムで活躍し、プロ通算1314安打を放った二岡智宏だ。入学時は非力でフリーバッティングをしても内野の頭を越えなかった。だが、同級生の福原忍(元阪神)が入学早々、先輩たちの遠征に連れて行ってもらうのを見て火がついた。

「絶対負けんと思ったんでしょうね。努力しだしたんです。『こいつは何でここまで練習できるんだろう』というぐらいしてました。自主練習を本当に真剣にした子。その本気さに『お前は戦前でもできる』と言ったぐらい(笑)」

当時6時からの朝練習の前に起きて練習。朝練後、朝食をとって学校に行く前にバットを振り、放課後の全体練習後の夜にも練習。とにかく暇さえあれば練習をしていた。その姿勢は3年生の夏が終わったあとも変わらない。中井監督が『大学もあるんじゃけぇ、そろそろ練習せなつまらんぞ』と声をかけたところ、本人からこんな言葉が返ってきた。

「先生、お言葉ですけど、夏の大会で負けてから毎日500スイング以下だった日は1日もありません」

それを聞いた中井監督が下級生に尋ねると「僕らより自主練されてます」という答えだった。

 「ちょっとおかしいですよね(笑)。失礼しましたと。努力の天才ですよ。目標があったんですね。大学行って早いうちにレギュラーを取る。絶対にプロに行ってお母ちゃんを楽にしてやるぞぐらいの気持ちがあったんでしょう。お父さんを亡くしてましたから」

広陵では、こんな話が珍しくない。21年の夏の大会で、1年生で三番を打った真鍋慧も毎日500スイングを欠かさないと言っていた。自主的な練習時間というのは名ばかり。練習をしない選手は浮いてしまう雰囲気が広陵にはある。

「怒られるからするんじゃなくて、うまくなりたいからする。甲子園に行きたい、プロに行きたいからする。自分の意思で動くことができるかが重要で、自分でやろうという意思がないとうまくなりませんよね。こっちが一方的に教え込んだほうが早くて簡単なのかもしれないですけど、そうはしません。黙って見守るのは我慢が必要ですけど、それが広陵のやり方。選手たちは何かを求めて、それに向かって取り組む。僕らは選手たちが何をやろうとして取り組んでいるかを見てわかっている。そんなチームでありたいですよね。広陵の選手が大学に行って、もうひとつ伸びがいいのは自分で頑張るからでしょうね。大学の練習はそんなに長くないでしょうから。自主自立を目指した取り組みをしているから、高校野球が終わって大学や社会人に行ったときに役立つんだと思います」

本気で自主練習に取り組む雰囲気、自分を客観視して考える訓練。やらされるのではなく、自らやる選手をつくる伝統が、広陵の強さなのだ。

田尻賢誉・著『広陵・中井哲之のセオリー』(ベースボール・マガジン社、2022
年3月18日刊行)より








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