平成最後の場所となった31(2019)年春場所、熱戦、熱闘のオンパレードでした。
手に汗、握った? そりゃ、そうでしょう。
でも、一歩、裏に回った力士たちの素の顔はもっとおもしろい。
勝負師とは言え、そこは同じ人間ですから、涙あり、笑いあり、失敗あり、成功あり。ありとあらゆる思惑や、出来事が入り乱れ、もつれあい、土俵上では絶対に見られないドラマを醸し出しています。
これを読めば、大相撲がもっと好きになること、請け合いです。
第1回のテーマはこの連載が成功することを祈念して「吉兆」です。
このうれしい兆しがあったときの力士たちの顔を想像してください。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。
幸運を呼ぶ白い毛こんな不思議な現象もあるんですね。ブラジル出身の魁聖は、場所が始まると必ず左の眉から白い毛がヒョロヒョロと生える。それも4センチほどになるというから、かなりの長さだ。平成30(2018)年の春場所にはその白い毛が、1本ではなく、2本も生えた。
「ボクのラッキー毛なんです。こういうふうに2本も生えたときは、ものすごく調子がいいんですよ」
と魁聖はいかにもありがたそうに左眉をなでながら話していた。
その御威光のほどは、この場所、194センチ、205キロの巨体をぶつけるように積極的に前に出る相撲がおもしろいように決まり、初日から9連勝して優勝した鶴竜と並んで優勝戦線の先頭を走ったことでもわかる。
残念ながら、10日目にこの魁聖よりもひと回り大きい逸ノ城との右四つがっぷりの力相撲に敗れ、この快進撃は止まったが、それでも最終的に自己最多の12勝を挙げ、6年ぶり、3回目の敢闘賞を受賞。賞金の使い道を聞かれた魁聖は、
「貯金です。間違っても(大好きな)ゲームの課金にはしません」
と茶目っ気たっぷりに答えていたが、この初日からの連勝が9で止まった理由がまた、意外なものだった
「あの負けたあたりで、ラッキー毛が1本抜けてしまい、1本に戻ってしまったんですよ」
神さまが意地悪をしたのだろうか。この魁聖の不思議な白い眉毛、場所が終わるといつの間にか抜け落ち、次の場所になるとまた生えてくるそうだから、奇妙というしかない。この春場所の魁聖は東前頭筆頭という番付もあって苦戦続きで、初日から実に7連敗。その黒星の中には、鶴竜や白鵬戦も含まれ、これで横綱戦の連敗は自分が持つワースト記録をさらに更新する37連敗になった。この不名誉な記録を止めるには、ラッキー毛が2本と言わず、3本、4本、生えるのを神に願うしかないかも。
月刊『相撲』平成31年4月号掲載