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2022-09-26

【アメフト】福岡SUNSに圧勝、それでも富士通に内在する危機とは

ゲーム最終盤の爆走で、チームに活を入れた富士通RB高口=撮影:小座野容斉

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国内最高峰のアメリカンフットボール、Xリーグの「X1 スーパー」は、9月24・25日に、東西の3会場で第2節の6試合が開催された。24日に、富士通スタジアム川崎であった富士通対福岡SUNSの一戦は、富士通が前半から得点を積み重ねて大勝した。

富士通フロンティアーズ○69-21●otonari福岡SUNS
(2022年9月24日 富士通スタジアム川崎)

 富士通は、1Q6分にQB高木翼がWR松井理己にTDパスを決めて先制すると、そこから、オフェンスもディフェンスも面白いようにTDを量産した。しかし、後半は、オフェンスは詰めが甘く、スコアが伸びず。ディフェンスでもゴール前で福岡SUNSを抑えきれず、前半と合わせて3TDを許した。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
スターターとバックアップに大きな差

 オフェンスはトータルで670ヤード。ラン337ヤード、パス333ヤード。QB高木翼は、パス11/12、233ヤード、4TDで、レーティングはNFL方式で計算すると満点の158.3だった。ディフェンスも3ターンオーバーで2TD。これだけを見ると富士通の完勝だが、試合後の全体ハドルは張り詰めた空気となった。

 山本洋ヘッドコーチ(HC)が話し終えた後、前HCの藤田智ディレクターが、自分から発言を求めた。藤田さんが、HCを退任してから、試合後のハドルでこういう形で発言するのは極めて珍しいことだった。

「このチームには、自分の力ではなく、周りが強いからそれで勝っている。そういう選手がいっぱいおるな」
「自分がそこにいて、『強くなった気』、『上手くなった気』で、勘違いしているだけ」
「控えが控えのままでおったら、絶対にアカン。俺の力でチームを勝たせてやる。そういうプレーを、出番を貰えて、試合に出ることができたなら、バチンと決めなアカンやろ」

 厳しい言葉だが、そう言われても仕方がなかった。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
 富士通は、第2Q残り4分40秒までに、50得点。100点ゲームとなってしまうのか、そう思えたほどだ。

 ところが、控え選手中心となった後半は、急激にトーンダウンした。RB三宅昂輝が、自陣7ヤードから一発で93ヤードを走り切ったTDだけで、オフェンスがきちんとドライブして取ったTDは4Q終盤までゼロ。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
 春は調子が良かったルーキーQB野沢研はパス7/14で70ヤード1インターセプト(INT)。ボールを持ち過ぎて、テンポよくクイックに投げ込む持ち味が失われている。3番手の大内勇は1/2で18ヤード。2人でサードダウンコンバージョン0/5というのはかなり深刻だ。

 ディフェンスも反省材料には事欠かない。福岡SUNSの3回のロングドライブではいずれもTDを許した。点差がついているため、福岡SUNSがパスで攻めるのは分かっていた。それを止められなかった。福岡SUNSのサードダウンコンバージョンは7/15と5割近かった。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
 そんなチームに活を入れたのが、29歳のRB高口和起だ。試合残り1分2秒からのオフェンス、本来ならニールダウンして終わらせるところだが、高口は、走った。7ヤード、42ヤード、そして30ヤードのTDラン。3回で79ヤードをゲインした。

 このTDがなければ、後半だけの得点では、福岡SUNS14点、富士通12点と負けていた。

 高口は、かってはエースRBジーノ・ゴードンとプレー機会を分け合ったパワーバックだ。だが絶対的存在のトラショーン・ニクソンに加え、今季は香川将成、三宅昂輝ら若手も台頭。4番手に落ちていた。

 「春シーズン、僕はみんなとは違って、フットボールができていなったので。とにかく1本、1本(のプレー)にかける思いがあった。そういう気持ちが、たまたまTDに結びついたと思う」と言う。

 試合後、厳しい表情を崩さなかった山本HCも「ユニットとして見た場合、RBだけは合格点をやれる。試合を通じて、どの局面、どの場面でも、出てきた選手は全員やるべきことをやった」と話した。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
 「これからの試合中に、QB高木が負傷をして途中から試合に出られなくなるということも十分に起こり得る。オービック、あるいはパナソニックといった強敵との対戦中にそういうことが起きて、野沢にしても、大内にしても、その時に、高木と同等のパフォーマンスでチームを勝利に導けるのか。そういう意識をもっともっと持ってほしい」と山本HCは話す。

 高木がかってそうだった。2019年の秋シーズン、ノジマ相模原ライズと対戦中に大型で強肩・俊足のエースQBマイケル・バードソンが突然の負傷。だが控えだった高木が、バードソンに劣らないパフォーマンスで、チームを勝利に導いた。

 富士通は、第3節、第4節と関西に遠征。その後第5節で、宿敵オービック・シーガルズとの対戦が待つ。これからの1カ月で、現在の控え選手がどこまで意識改革できるのか。連覇に向けた重要なポイントとなる。

元QBの吉田が久しぶりにパス

 元はQBだった、富士通P(パンター)の吉田元紀が、久しぶりにパスを投げた。3Q最初のドライブ。自陣42ヤードの4th&3で、スペシャルプレー、近田優貴に10ヤードのパスを投げてファーストダウンを更新した。このドライブをフィールドゴール(FG)に繋げた。

 「フォームは全然きれいじゃないし、ボールも下向いてしまって。近田がうまく捕ってくれました」と苦笑した。Pになってからは試合では投げていない。何年振りかわからないという。
【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉
 パス自体は、「やるよ、と言われてフィールドに入って行ったので、思い切ってやるだけ。試合の流れ的に、後半の立ち上がりだったので、ドライブをつなげられて最後、得点を取っているので。そこは良かったなと思います」と言う。

 吉田は、波木健太郎(早大→シルバースター)、高田鉄男(立命大→松下電工・パナソニック)と同期という、「QB黄金世代」。

 日大では故・篠竹幹夫監督の指導を受け、2年生からスターターとなり、3シーズンでパス3722ヤード・36TD、ラン1440ヤード12TDを記録したデュアルスレットQBだった。

 日産スカイライナーズを経て加入した富士通では、出原章洋とダブルQBで、オフェンスをけん引した。

 吉田がQBだったのは、現在の2番手、野沢が小学校低学年で富士通のフラッグフットボールチームに通っていた時代。「チームには、僕がQBだったのを知らないメンバーの方が多い。知らなくていいですよ」と話す。

 一旦引退した後で、藤田HC(当時)の求めに応じてパンターとして2016年に現役復帰した。衰えない脚力で、滞空時間、飛距離共にリーグでも屈指の存在だ。2020年にはオールXリーグにも選出された。

 今年春に40歳となった。苦闘の時代を知る選手が少なくなった中、QBとしては、何度もジャパンXボウルに進出しながら涙を飲んだ世代だ。

 「今は、シーズンの最後まで行くのが、当たり前になってしまっている。もう2試合終わってしまいましたが、藤田さんが言ったとおりで、『俺が勝たせる』という覚悟を持って、今からでも練習に取り組めば。もっともっと上がっていけると思います」と話した。

【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉

【富士通・福岡SUNS】=撮影:小座野容斉

【小座野容斉】

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