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2022-10-10

【ボクシング】「チャーロvs.ジューの勝者と戦いたい」。“タワー”フンドラがタフな相手に大差勝利

2階から打ち下ろすようなフンドラの右!

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 197cmの長身から“タワーリング・インフェルノ”の異名をとるWBC世界スーパーウェルター級暫定チャンピオン、セバスチャン・フンドラ(24歳=アメリカ)が8日(日本時間9日)、アメリカ・カリフォルニア州カーソンで初防衛戦を行い、同級13位の挑戦者カルロス・オカンポ(26歳=メキシコ)を12回、3-0の判定で退けた。

文_宮田有理子
Text by Yuriko Miyata
Photos by Esther Lin/SHOWTIME

4団体王チャーロ挑戦を切望

 69.8キロ・リミットの階級で、たいてい対戦者より頭ひとつ分ほど突き出る24歳のサウスポーは、絵に描いたようなナイスガイ。だがひとたびゴングが鳴れば、情け容赦はない。長い距離からの打ち下ろしはもちろん、至近距離で突き上げるアッパーも強烈。2016年のプロデビューから規格外の体格ばかり注目されたが、今春のWBC暫定王座決定戦で実力者エリクソン・ルビン(アメリカ)の顔面を酷く変形させ、ダウン応酬の激闘を9回で終わらせて、評価は急上昇した。「目下のベストパフォーマンス。エリートボクサーであることを証明できた試合だったと思う」、そう語る様子に、自信も漂わせる。
 そんな劇的な勝利の後だから、今回も、とフンドラに期待するファンは多かったはず。実際にチャンピオンは、試合開始から挑戦者オカンポを見下ろし、槍のような右ジャブを軸に左を上下に送り込み、リングには早いうちから圧勝ムードが流れたのだ。

粘るオカンポを突き放す
粘るオカンポを突き放す

 しかし、メキシコ人挑戦者はタフだった。2018年6月のアメリカ初遠征で、当時IBFウェルター級王者エロール・スペンス(アメリカ)のボディブローに初回で沈んだ印象が残るものの、階級を上げ、再起12連勝でつかんだチャンス。2回には鼻血を出し始めたが、フンドラのコンビネーションのスキを果敢に狙い、3回からは接近戦に持ち込んだ。とはいえ挑戦者の奮闘も、やがて下火になる。

「彼は僕と同じくらい試合を楽しんでいたと思うよ。ボクシングだけでも大丈夫だったけれど、もうちょっとファンを喜ばせたくて、打ち合ったんだ」というチャンピオンは、インファイトの中でボディ、ショートアッパーをこつこつ差し込み、6回には左ショートストレート、右フックでオカンポをぐらつかせた。8回終了後のインターバル中にはレフェリーがドクターチェックを要請するほど、チャレンジャーは被弾を重ね、腫れた顔にも足元にもダメージが色濃かった。11回、フンドラは距離を立て直し、鋭い左ストレート、ロングアッパーでフィニッシュを狙う。が、仕留め切るには時間が足りなかった。

 採点は117対111、118対110、119対109の3-0。フンドラはこれで21戦20勝(13KO)1分。オカンポは36戦34勝(22KO)2敗となった。

チームで勝利を分かち合うフンドラ
チームで勝利を分かち合うフンドラ

 前戦ほどのインパクトはなかったものの、フンドラがこの階級の今後を担う1人であることは変わらない。スーパーウェルター級は、今年5月にジャーメル・チャーロ(アメリカ)がブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)との再戦に10回TKOではっきり決着をつけ、世界主要4団体王座統一を完了。全タイトルを保持したまま、来年1月末にWBO1位のティム・ジュー(オーストラリア)を挑戦者に迎える計画が進んでいるといわれる。チャーロが統一路線を目指す間に設けられたWBC暫定王座に就き、同正規タイトル挑戦の最優先権を持つフンドラは、「今回オカンポを退けて、WBC指名挑戦者という自分の位置を守った。次は、チャーロ対ジューの勝者と戦いたい」と、その日を祈って待つ身だ。

妹ガブリエラも前座で圧勝

痛烈な左を見舞うガブリエラ

痛烈な左を見舞うガブリエラ

最高の形で兄にタスキを渡した

最高の形で兄にタスキを渡した

 ところで、前戦に続いてショータイムのメインを務めたフンドラが今回を「特別な日。僕たちへの声援が、今まで以上に心に響いた」と言ったのは、サウスポー兄妹の“競演”が初めて叶ったから。自身の出番は午後9時ごろとわかっていても、前座に出場する妹ガブリエラとともに午後1時半にはホテルから会場へ向かい、サポートした。元ボクサーの父フレディの指導の下、その4歳上の兄とともに世界王座を目指す身長175cmのフライ級、ガブリエラ・フンドラは、ナオミ・レイジェス(28歳=メキシコ)に10回判定勝ち(98対92、99対91×2)。保持するWBCラテンアメリカ王座を防衛した。果敢に出入りを繰り返すレイジェスをとらえきれずにラウンドを過ごしたが、9回には左ストレートで鼻血を出させ、圧勝を印象づけて戦い終えている。プロデビューから1年5ヵ月で、10戦9勝(4KO)1無効試合。今回は7月からキャンプで訪れていた世界5階級制覇の藤岡奈穂子(竹原慎二&畑山隆則)の胸を借り、約70ラウンズにおよぶ高質なスパーリングを重ね、「これ以上望めない、いい練習を積めた」というフンドラは、長躯を自在に操れるアスリート。いつ世界挑戦してもおかしくない力を備え、“兄妹同時世界チャンピオン”を目指して「準備をしながら、チャンスを待っている」と語った。レイジェスは11戦9勝(5KO)2敗。

悲しみ乗り越えたアダメスが勝利

サウスポースタイルから右を痛打するアダメス

サウスポースタイルから右を痛打するアダメス

 この日のセミファイナルだったWBCミドル級の暫定王座決定戦12回戦では、同級1位のカルロス・アダメス(28歳=ドミニカ共和国)が6位のファン・マシアス・モンティエル(28歳=メキシコ)を3回2分37秒でストップした。サウスポーに構えて強打者モンティエルを戸惑わせ、断続的でも正確なヒットを重ねていったアダメスは、3回に右フックを叩きつけて一気にスパーク。強振をことごとくヒットさせてレフェリーストップを呼び込んだ。

 3年前にパトリック・テイシェイラ(ブラジル)のWBOスーパーウェルター級暫定王座に挑戦して僅差の判定を落とし、再起後に階級を上げた技巧派パンチャーのアダメスにとって、昨年末にセルゲイ・デレビアンチェンコ(ウクライナ)との10回戦に競り勝って手に入れた2度目のチャンス。直前に生まれたばかりの愛娘を失う悲しみを抱え、ビザ発給の遅れでキャンプ地のメキシコシティから計量前夜に現地入りを果たすというギリギリの状況も乗り越えた勝利だった。

現地入りが2日前だったにもかかわらず、しっかりと勝利したアダメス
現地入りが2日前だったにもかかわらず、しっかりと勝利したアダメス

 今回の暫定王座戦は、WBC王者ジャモール・チャーロ(アメリカ)が訴訟問題、ケガなどによる不活動が1年以上に及び、設けられたもの。だがチャーロをめぐっては、世界4階級王サウル・アルバレス(メキシコ)とのトリロジーを終えたWBAスーパー、IBFミドル級王座を持つゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との統一戦の噂も聞こえてくる。今回、WBC正規王座挑戦の権利を手に入れたアダメスは、「チャーロだけでなく、この階級のチャンピオンたちと戦い、勝ちたい」と意気込むが、その時がいつどんな形になるか、まだはっきりしない。
 アダメスの戦績は23戦22勝(17KO)1敗。チャーロへの再挑戦の切符をつかみ損ねたモンティエルは31戦23勝(23KO)6敗2分。

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