米国のアメリカンフットボールの華、カレッジフットボールの全米王者を決める仕組みは、CFP(カレッジフットボールプレーオフ)と呼ばれる。全米ランキングの上位4校が選ばれて、準決勝からトーナメントで戦うというやり方だ。
今季第14週の現地12月2、3日は、基本的に各カンファレンスの優勝戦のみの開催だったが、CFPには大きな意味を持っていた。
カレッジフットボール最上位カテゴリーのFBSで合計10あるカンファレンス優勝と、出場枠4のCFPは直接は結びついていない。だが、1敗するだけで、2~4位くらいはランクダウンするのが普通。負けるわけにはいかない。13週の段階で3位だったテキサスクリスチャン大(TCU)、4位南カリフォルニア大学(USC)には、どのような結果が待っていたのだろうか。
ディフェンス崩壊、一気に6位もランクダウン・・・USC
今回、PAC12の優勝戦で全米4位だった南カリフォルニア大学(USC)はユタ大学に惨敗して、全米4強から陥落した。
USCは、今季12勝1敗で、CFPランキングは全米でもずっと上位だったが、実態が伴っていなかった。1試合平均26.25失点で、35失点以上が4試合もあった。
ハイズマントロフィー最有力のQBケイレブ・ウィリアムズが中心となったハイパーオフェンスで凌いできたものの、全米4位の実力がないのは、明らかだった。
その馬脚が、大事なカンファレンス優勝戦で露になった。ユタ大相手にQBウィリアムズが序盤から2タッチダウン(TD)パスを決めるなど、17-3とリードした。しかし、前半残り2秒で、ユタ大のQBキャメロン・ライジングに同点TDパスを決められてしまう。
後半はUSCのディフェンスが完全に崩壊した。3Qに7点、4Qには23点を奪われ、後半だけで30失点。ユタ大にランで223ヤード、パスで310ヤードを許し、24-47とほぼダブルスコア、屈辱の敗戦だった。

ユタ大には、今季リーグ戦でも43-42で敗れていたが、今回の敗戦は、USCの権威を地に落とした感がある。
QBウィリアムズはパス363ヤード3TDと孤軍奮闘で、個人成績は残したために、12月10日に決定するハイズマントロフィー有力候補というのは変わらないという見方もある。
ただ、オクラホマ大学から、巨額の契約と三顧の礼で移籍したリンカーン・ライリーヘッドコーチと一緒の転校。人口の多いカリフォルニア州のフットボールマーケットを忖度した、商業的なオーバーレートだった感はどうしても否めない。

現地12月5日に発表されたCFPの最終ランクでは、USCは4位から一気にランクダウンして、10位。ボウルゲームでは、全米ランク16位のチューレーン大とコットンボウルで戦うことになった。4位にはオハイオ州立大学が上った。
「負け方の印象」で全米3位を堅持・・・TCU 今回、CFP進出の強豪校は、1位ジョージア大(SEC優勝戦、50-30ルイジアナ州立大)、2位ミシガン大(Big10優勝戦、43-22パデュー大)が勝利した。
一方で、3位のTCU(Big12優勝戦でカンザス州立大と対戦)、4位USCが、波乱要因と見られていた。
前述したとおり、USCは惨敗。そしてTCUもカンザス州立大と延長タイブレークの熱戦の末、敗れることになった。
USCのウィリアムズと同じく、TCUも、ハイズマントロフィー候補に名を連ねているエースQBマックス・ダガンがチームの中心だった。この日は4Qには、エンドゾーンでインターセプトを喫するなどミスも出た。

しかし、ダガンは20-28と8点を追いかける4Q終盤に、懸命の活躍を見せる。見事に決まったと思われたTDパスがレシーバーのパスインターフェアで取り消されたりもしたが、スクランブルからのランを連発し、ついにTD。さらに2ポイントコンバージョンを決めた。このドライブでダガンは実に95ヤードをランでゲインした。
米メディアは、ダガンはいくつもの困難を乗り越えてきたと伝える。シーズン前には、カテーテルを使った心臓の手術。さらに、今季から就任したソニー・ダイクスHCの評価を得られず、バックアップに降格となってしまう。
ダイクスHCは過去に、カリフォルニア大でジャレッド・ゴフ(現ライオンズ)、ルイジアナ工科大では日本の富士通で活躍したコービー・キャメロンを育ててきたパスオフェンスの専門家。ゴフとキャメロンは、選手としてのレベルは違うものの、冷静で高いパス能力を基軸とするという点で、QBとして共通している。
パスでもランでも勝負強いが、プレーが粗く、時として判断を間違えるダガンを、ダイクスHCが評価しないのは理解できる気がした。
ただ、ダガンの代わりにエースとして起用したQBがシーズン序盤で負傷。ダガンは再びエースとなってチームをけん引、12戦全勝でBig12優勝戦に挑むことになった。
HCに評価されなかったダガンが、ガッツを前面に出したTDで延長戦に。ダイクスHCは、「負け方の印象」が良ければCFPランク4位には残れるという判断をしていたようだ。

うがった見方をすれば、ダイクスHCは、延長タイブレークを何が何でも勝つ気はなかった。タイブレークのゴール前ショート、4thダウンなのに、FGを狙わず、ブラストのランプレーで止められたのがその表れだ。カンザス州立大を力で押し切ることができれば、もちろん文句無しだろうし、仮に止められても、逃げずに勝負に行って負けたという印象が残る。
一言触れておきたいのは、カンザス州立大の持つ存在感だ。カレッジフットボールきっての名将であり教育者としても知られていたビル・シュナイダーHCが長年率いて、テキサス大やオクラホマ大のような強豪校にも、何度もアップセットを食らわせてきた。今はシュナイダー氏はHCを退任したが、カレッジフットボーㇽではいぶし銀の存在で、リスペクトされている。そういうチームと真っ向勝負する意味をダイクスHCは計算していたのかもしれない。
12月5日、CFPの発表した最終ランクでは、敗れたにもかかわらず試合内容を評価されたのか、TCUは3位のまま。USCの凋落とは対照的だった。
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14週の結果を受けて、以下の4校が全米優勝を目指して戦うことになった。準決勝と決勝の日程は次の通り。
12月31日
CFP準決勝・フィエスタボウル
ミシガン大学(全米2位) vs TCU(全米3位)
=アリゾナ州・ステートファームスタジアム
CFP準決勝・ピーチボウル
ジョージア大学(全米1位) vs オハイオ州立大学(全米4位)
=ジョージア州・メルセデスベンツスタジアム
1月9日
CFP 決勝
フィエスタボウル勝者 vs ピーチボウル勝者
=カリフォルニア州・SoFi スタジアム