タイソン・フューリー(イギリス)の存在感は絶大だ。タイトルマッチでなくても、トップクラスの注目度を集める。6月に続いて連続してのラスベガス登場。会場は前回のMGMグランドからさらに大きなT-モバイルアリーナになった。さて、どれだけの観客を集められるか。今回は来週分のプレビューも含めてお届けする。
写真上=タイソン・フューリー
★ヘビー級12回戦
タイソン・フューリー(イギリス)VSオットー・ワリン(スウェーデン)
フューリー:31歳/29戦28勝(20KO)1分
ワリン:28歳/20戦20勝(13KO)
※日本時間15日、午前10時頃~WOWOWメンバーズオンデマンドで生中継
激闘の末に引き分けたデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)との再戦が、来春開催の線で話が進んでいるフューリーにとっては、ひとつの前哨戦にすぎないのかもしれない。地元のスカンジナビアは別として、世界的な知名度は乏しいワリンが相手でも、身長206センチの巨人は今回も十分に楽しませてくれるに違いない。
ひとつのポイントは、相手がフューリーでなければ十分の大柄(身長197センチ)のワリンがサウスポーであることだが、それもさしたる問題ではあるまい。フューリーはオーソドックスもサウスポーも器用に使いこなす。ワリンのボクシングがやや堅苦しいだけに、フューリーが思う存分に試し打ちしたうえで、ストップに追い込む可能性が高い。
ただ、最近のフューリーの試合は一戦ごとにテーマが違って見える。たとえどんな楽勝予想が順当なマッチメイクでも、見る価値は十分すぎるほどにある。
◆ナバレッテはわずか4週間で再び防衛戦
★WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ12回戦
エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)VSファン・ミゲール・エロルデ(フィリピン)
ナバレッテ:24歳/29戦28勝(24KO)1敗
エロルデ:32歳/29戦28勝(15KO)1敗
ナバレッテにとっては4週間前、フランシスコ・デバカ(アメリカ)戦以来、わずか4週間のスパンでの防衛戦になる。近ごろ珍しいハイペースだ。アイザック・ドグボエ(ガーナ)を破って一気に人気沸騰のスラッガー、ナバレッテをそれだけ売り出したいということだろう。
挑戦者のエロルデはなんとも不思議なキャリアの持ち主。兄のファン・マルティン・エロルデ(スーパーフェザー級)と同様、さしたる強敵と戦ったわけでもないのに、なぜかWBOランキング上位の常連となった。まさか偉大なる祖父フラッシュ・エロルデ(10度防衛の元世界スーパーフェザー級チャンピオン)の威光というわけでもあるまいが、潜在能力の高さを買われているのだろうか。ここ8年間も負けなしながら、実力の真相はいまだ謎のままだ。
ナバレッテがハイテンポ、オールアングル、ノンストップで繰り出す連打速攻でフィリピン人挑戦者をあっさりと粉砕する可能性が高い。
◆ペドラサは難敵相手に3階級制覇のテスト?
2階級制覇の元世界チャンピオン、ホセ・ペドラサ(プエルトリコ/30歳/26勝13KO2敗)はホセ・セペダ(アメリカ/30勝25KO2敗1NC)と10回戦を行う。
ジャーボンタ・デービス(アメリカ)に倒され、ワシル・ロマチェンコにも敗れているペドラサだが、いまだ評価は高い。堅調な戦いぶりがあってこそだ。カムバック戦では最強ホープ、フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に初黒星をなすりつけたアントニオ・ロサダ(メキシコ)をストップして、またもや株を上げた。スーパーライト級進出にも野心的と言われ、セペダとの対戦はその準備になるかもしれない。
セペダは2度の世界戦に敗れているが、最初は肩の脱臼によるTKO負け、2度目は上り調子のファン・カルロス・ラミレス(アメリカ)と互角に渡り合っての小差判定負け。ペドラサ、セペダともに技巧ベースの戦法だが、かなりの白熱戦を期待できそう。
前座カードで注目したいのはヘビー級6回戦に出場するギド・ビアネーロ(イタリア/25歳/4戦4勝4KO)。リオ五輪代表からトップランクと契約してプロ入りした。およそ90年前に活躍したイタリアの巨漢プリモ・カルネラは『動くアルプス』と形容されたが、ビアネーロの身長はカルネラを1センチ上回る198センチ。いまどき、そんな数字も特別感がなくなるほど、ヘビー級の巨大化は進んでいるのだ。
◆ムンギアは勢いを取り戻せるか
★WBO世界スーパーウェルター級タイトルマッチ12回戦
ハイメ・ムンギア(メキシコ)VSパトリック・アロッティ(ガーナ)
ムンギア:22歳/33戦33勝(26KO)
アロッティ:28歳/43戦40勝(30KO)3敗
※日本時間15日、午前10時からDAZNで生中継
ムンギアは早くも5度目の防衛戦を迎える。世界のトップシーン登場は、まさにセンセーショナルだった。ほぼノーマークの存在からいきなり世界王座に輝くと、183センチの長身から打ち込む鋭いアタックで強敵を次々に撃破していった。
ところが、今年1月の井上岳志(ワールドスポーツ)戦は大差判定勝ちも、評価は芳しくない。それから3ヵ月後のV4戦はもっと出来が悪く、安全パイと思われたデニス・ホーガン(オーストラリア)に2-0判定勝ちは、多くのファンからブーイングを浴びた。
最近は減量苦がささやかれ、いつウェイトを上げるかというのも焦点になっており、急速なスローダウンもそんな影響があるのかもしれない。
アロッティはガーナ国内では全戦全勝と強いが、国外では1勝3敗と分が悪い。ザンビア、アメリカと連続ストップ負けしてから4年。その間に行ったカザフスタン遠征では、北京五輪中国代表で銅メダルを獲得しているカナト・イスラム(カザフスタン国籍取得)に善戦し、最近は6連勝。戦歴を見る限り、戦力の現況は見えてこない。
ある意味、『謎の強豪』を相手にした戦いをきっかけに、ムンギアは以前の元気の良さを取り戻せるか。この試合の最大の見どころはそこだ。
◆人気者ガルシアが半年ぶりのリング
人気ならすでにチャンピオン級のライト級、ライアン・ガルシア(アメリカ/21歳/18戦18勝15KO)が10回戦に出場する。
『ザ・フラッシュ』という異名どおりの圧倒的なスピード、抜群の切れ味で一気にトップに駆け上がってきた。さらにチャーミングな笑顔が女性ファンに大受けとも。伸びてほしいスター候補だ。ただ、ボクシングそのものはまだまだ雑で、関係者の間からは、実力に懐疑的な声もしきりに聴く。トップレベルをねらう若手、中堅が対戦したい相手として、こぞってこのガルシアの名前を上げるのも、確かにそういう評価の証明なのだろう。
やや間隔が空いて半年ぶりの登場となるガルシアの相手は、フィラデルフィアの実戦派、エイブリー・スパロー(アメリカ/25歳/10勝3KO1敗)。老練ハンク・ランディ(アメリカ)を破っており、やさしいライバルではない。逆に言えば、ガルシアが力を示す絶好のチャンスでもある。
◆日本のライバルになるか。イギリス・フライ級のふたつ星
14日、イギリス・ロンドンのベスナルグリーンにある伝統のボクシング会場ヨークホールからESPN+で放映されるのは、イギリス・スーパーバンタム級タイトルマッチ、ブラッド・フォスター(21歳/11勝4KO1分)対ルシアン・リード(25歳/8勝4KO1分)。ただ、日本のファンにとっては、このカードより、フライ級のホープふたりのほうが気になるかもしれない。プロモーターのフランク・ウォーレンが軽量級ではとっておきの期待をかける選手たちだ。近将来、日本の精鋭たちのライバルになるかもしれない。
サニー・エドワーズ(23歳/12戦12勝4KO)はWBC世界フライ級チャンピオン、チャーリー・エドワーズの実弟。一撃ハードパンチの魅力には乏しいが、鋭敏な戦闘感覚の持ち主。ここまでスーパーフライ級で戦ってきたが、今回はフライ級にウェイトを下げてIBFインターナショナルとWBOインターコンチネンタルの王座決定戦を行う。160センチと小柄だけに、新しいウェイトのほうが、この選手の適性に近いかもしれない。なお、対戦相手は28歳のメキシカン、ロセンド・グアルネロス(16勝8KO2敗2分)。
もうひとりのハービー・ホーン(23歳/6戦6勝2KO)はエドワーズ以上に小柄で身長158センチのサウスポー。アマチュアのライトフライ級では常に世界のトップクラスに位置して、ヨーロッパ選手権銀メダル、ヨーロッパU22選手権では金、さらにリオ五輪銅メダルのニコ・エルナンデス(アメリカ)も破っている。ホーンの相手エルビス・ギーレン(ニカラグア/35歳)は9勝6KO57敗4分とものすごい戦績の持ち主。こちらは8回戦だが、早い決着もありそうだ。
◆テキサスにウェストコーストの新鋭登場
ケーブルテレビ大手のShowtimeが若手を起用して人気のSHOBOXは20日、アメリカ・テキサス州ミッドランドから中継される。
メインに登場するのは地元出身のライト級、マイケル・ダッチオーバー(21歳/13戦13勝10KO)。プロ転向後はカリフォルニアをベースに戦っていて、故郷で試合をするのは今回が初めてだ。対戦するトーマス・マティス(アメリカ/29歳/14勝10KO1敗1分)もプロスペクトと目された時期もあり。凱旋ファイトは楽ではない。
サウスポーの俊才、ルーベン・ビリャ(アメリカ/22歳/16戦16勝5KO)がフェザー級10回戦でホセ・エンリケ・デュランテス(メキシコ/25歳/17戦17勝9KO)と不敗対決。KOこそ少ないものの、鋭い立ち回りに将来性を感じさせるビリャにはなかなか大きなテストになる。
この試合の共同プロモーターのひとりは、現役のライト級スター、マイキー・ガルシア。そして、カリフォルニアからメキシコ北部をベースに活動するトンプソン・ボクシングも参加する。ダッチオーバーとビリャは、こちらのプロモーションチームの一員だ。家族的でも、大型興行には消極的とされてきたトンプソン・ボクシングだが、傘下のダニエル・ローマン(アメリカ)が統一世界チャンピオンにまで育ち、ちょっと方針が変わってくるかもしれない。
◆ベテランのサバイバル戦にクィリンが再生かける
元WBO世界ミドル級チャンピオンで今はスーパーミドル級で戦っているピーター・クィリン(アメリカ/36歳/34勝23KO1敗1分)は21日、アメリカ・カリフォルニア州ベイカースフィールドで、これまた大ベテランの元WBO世界スーパーウェルター級暫定チャンピオン、アルフレド・アングロ(メキシコ/37歳/25勝21KO7敗)と戦う。クィリンは本来なら4月に負傷引き分けを演じたカレブ・トルアックス(アメリカ)と8月31日に対戦するはずだったが、トルアックスの故障で、こちらのカードに回ってきたもの。試合はFOXスポーツ1で生中継される。
2015年にダニエル・ジェイコブス(アメリカ)に初回TKO負けを喫して以来、ブランクがちなクィリンだが、素材として評価は高かった。アングロも出たり入ったりのリング人生。10年ほど前の全盛期はタフネスとともに、狂犬とあだ名されたパワフルファイトで知られていたが、さすがに色あせてきた。クィリンも全盛期の力があるかどうかは疑問。いずれにしろ、負けたほうはおそらくトップシーンから消えていくはずだ。
同じカードにはフェザー級の新星クリス・コルバート(アメリカ/22歳/12戦12勝4KO)、18歳のウェルター級センセーション、ヘスス・アレハンドロ・ラモス(アメリカ/10戦10勝9KO)、スーパーミドル級のパワーパンチャー、ジョナサン・エスキベル(アメリカ/24歳/11戦11勝10KO)も出場する予定だ。
文◎宮崎正博
写真◎ゲッティイメージズ
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