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2023-05-05

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第9回「ウソでしょう」その1

平成20年初場所8日目、半年ぶりに土俵に戻ってきた朝青龍は栃乃洋を右上手投げで振り回し7勝目

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世の中はさまざまな矛盾にあふれています。
にわかには信じられないこともいっぱいです。
大相撲界にも「それ、ウソでしょう」と思わず頬をつねり、聞き直したくなる話があちこちに転がっています。
そんな信じられない、ホントの話を集めてみました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

観客が倒れた理由

大相撲関係者なら、誰だって場所が盛り上がって欲しい、優勝争いが白熱しろ、と願っている。でも、ここまで来ると、逆に怖くなる。
 
平成20(2008)年初場所は、場所前から異様な熱気に包まれていた。体調不良を理由に夏巡業を休場しながらモンゴルに帰国し、サッカーに興じていたことが明らかになり、2場所連続の出場停止処分を受けていた朝青龍が半年ぶりに戻ってきた。どんな顔で土俵にあがるのか。相撲っぷりはどうか。希代の憎まれっ子が困った顔をひと目見たいと、ときならぬ朝青龍フィーバーが巻き起こったのだ。
 
朝青龍がいない間、ひとり横綱としてよく留守を守っていた白鵬(現宮城野親方)が全勝、これを1敗で朝青龍が激しく追いかける展開で迎えた8日目も、もちろん超満員の入りだった。この日の朝青龍の対戦相手は西前頭3枚目の栃乃洋(現竹縄親方)。相撲は、朝青龍がいつものように先手を取って一方的に攻めまくり、最後は右からの上手投げで転がしたが、この結びの一番が終わった直後に館内のあちこちで信じがたいことが起こった。
 
なんと5人もの観客が相次いで倒れ、相撲診療所に運ぶ担架が足りなくなる騒ぎが発生したのだ。内訳は、40代と79歳の男性、30代2人と59歳の女性だった。相撲診療所の吉田博之所長は、

「いつもは1場所を通して5人ぐらいなんだけど、こんなに短時間に5人もの客が運ばれてくるのは珍しい」
 
と首を捻ったが、警備本部長の伊勢ノ海親方(先代、元関脇藤ノ川)は、

「好取組が多かったので、熱気で(館内の)温度が上がったのかな」
 
と話した。このため、相撲協会は翌9日目から館内放送で、

「席をお立ちの際、また歩行中、足元には十分、お気をつけください」
 
と注意を喚起したが、この日もまた、1人倒れて救急車で運ばれている。みんな、朝青龍の“毒気”に当たったのだ。ここまで観客を興奮させるなんて、やはりただ者ではなかった、と言える。こんな強烈な個性を発揮する力士は、最近、とんと見なくなった。見ていて卒倒したくなるような力士、出て来い。

月刊『相撲』令和元年12月号掲載

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