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2023-05-23

【相撲編集部が選ぶ夏場所10日目の一番】相撲の概念ぶっ壊す⁉ 規格外の男・北青鵬が明生破って優勝争いに殴り込み

明生の攻めをしのぎ切り、上手投げをきめた北青鵬。優勝争いの上でも不気味な存在となってきた

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北青鵬(上手投げ)明生

「すごい……」

自分の取材が終わった後、報道陣と並んでモニターで取組を見ていた朝乃山も思わずうなった。それほど、北青鵬の懐の深さを生かした残り腰と逆転の上手投げは驚異的だった。
 
今場所すでに勝ち越しを決めている絶好調の明生も、攻め切ることができなかった。上手を引いた北青鵬は、まさに難攻不落だ。
 
立ち合い。「相手の立ち合いは特に意識しなかった」という明生に対し、北青鵬は右に回るようにして、すぐに上手に手を掛けた。いったん左四つ。きのうの照ノ富士戦同様、先に動いて攻めたい明生は、相手の上手を切ると、すぐに上手から出し投げで振ってモロ差しに。そこから左下手を引きつけ寄り身を見せた。しかし右上手を引き直した北青鵬は、懐の深さを生かして俵の上ギリギリで一度、二度とこれを残すと、左を巻き替え寄り戻す。最後は明生の左下手投げ、北青鵬の右上手投げの打ち合いとなり、北青鵬が相手をつぶすようにして投げ勝った。

「勝てると思ったが、あれだけ腰の位置が違っては。あれが北青鵬関の腰の位置なんだなと思いました。もう一押しすればよかったけど、投げを警戒して勝負どころを間違えました」と、さすがの明生も、ちょっとほかの力士とは勝手が違い、攻めが決めきれなかったようだ。明生は2敗となり、優勝争いからは一歩後退。

一方、驚異的な粘りを見せた北青鵬だが、本人の感覚としては、「廻しが取れていたので、余裕は全然ありました」というのだから驚くばかり。まさに、“規格外の男”の面目躍如だが、「自分が勝つためにやっていることなんで。それが自然に、相撲の概念をぶっ壊しつつあるんじゃないですかね」と涼しい顔だ。「場内のどよめきも全部聞こえていますよ。取ってる最中も」と、気持ちにも底知れぬスケール感が漂う。

これで2敗を守り、トップと1差をキープ。あすの若元春戦からはいよいよ上位との対戦が組まれ始めるが、「楽しみでもあるし、そういう人たちを倒してやろうという気持ちもある」と不敵な言葉。場所の序盤から「優勝争いできるぐらいの成績を」と語ってきたが、本当にその通りになってきた。上位陣にとっても、少なくとも初めての対戦では、その規格外ぶりに、“いつもの相手とは勝手が違う”というところが何らか出てくるはずなので、かなり嫌な相手のはず。優勝争いの上でも何とも不気味な存在になってきた。
 
この日は照ノ富士は琴ノ若に一瞬モロ差しを許しながらもしのぎ、平戸海を一蹴した朝乃山とともに1敗をキープ。この日は取組後の取材を断り、徐々に集中モードに入ってきた。
 
また、大関取りを狙う霧馬山は若元春の左差しを徹底的に嫌い、2敗同士の関脇対決を制した。決まり手は小手投げだが、相手を吹っ飛ばすような取り口は力強く、「きのうからやっと立ち合い当たれるようになってきた」と手応え。残り5日の時点で勝ち越しを決める8勝目。大関へ大きく前進したとみていいだろう。
 
一方、カド番大関の貴景勝は金峰山に敗れ4敗目。場所中盤には相手を圧倒するような突き押しも出ていたが、きのうの錦木、この日の金峰山と、立ち合い一気に崩せない重い相手には、そのあと守勢に回る展開になると苦しいところがあるようだ。カド番脱出には残り2勝。このあとの相手は強敵ぞろいだが、持ち前の根性と負けん気で乗り切ることができるか。

文=藤本泰祐

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