色とりどりの懸賞の垂れ幕が土俵上をゆっくりと回る景色は大相撲ならではと言っていいでしょう。
相次ぐ不祥事で一時は激減しましたが、平成24年初場所初日は90本もかかるなど、かなり戻ってきました。勝ち力士が手刀を切って受け取る懸賞袋の中味は1万円のピン札3枚。
力士たちにとってはありがたい場所中の臨時収入であり、何よりの応援歌です。
使い道も十人十色で、さまざまな人情ドラマも生まれます。
そんな懸賞にまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。
別人が受け取った こともあろうに、懸賞が間違って別人に渡されたこともある。
平成22(2010)年春場所2日目、西前頭10枚目の霜鳳が嘉風を叩き込みで破った。残念ながらこの一番には懸賞は付いていなかったが、何を勘違いしたのか、呼出しが2番後の豪風(現押尾川親方)対垣添(現雷親方)戦に懸かっていた4本を行司に渡し、それを霜鳳が受け取ってしまったのだ。すぐ関係者がこの間違いに気付き、霜鳳が花道を下がったところで、
「申し訳ありません。返してください」
と呼出しによって回収されたが、収まりが付かないのが一度は手刀を切って懸賞を手にした霜鳳だ。
「嘉風と豪風を間違えて渡したんだって。それにしても4本全部持って行くなんて、ひどい。1本ぐらいくれって話ですよ」
とこぼすこと、しきりだった。もちろんこの懸賞は無事に本来の豪風を押し出しで破った垣添の手に渡った。
それから2日後、霜鳥は間違いのもととなった豪風と対戦し、叩き込みで勝って懸かっていた懸賞1本を獲得。今度は回収されないように? 急ぎ足で花道を引き揚げてくると、
「もう終わったことは気にしていませんよ」
と口では言いながらしっかりとフトコロにしまい込んだ。
また、この1年前の平成21年春場所4日目には、朝青龍戦に懸けられるはずだった1本が間違ってライバルの白鵬戦に懸けられ、勝った白鵬が獲得するミスも発生した。
気になるのはこの事後処理で、相撲協会は、
「こちらの一方的なミスなので」
とスポンサーには謝罪したが、「すでに終わった話」として白鵬には返却を求めず、勝った朝青龍にも弁済はしなかった。
後でこのことを知らされた朝青龍は笑ってこう答えている。
「まあいいよ、オレからのご祝儀だ!」
月刊『相撲』平成24年2月号掲載