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2023-06-23

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第10回「生きるヒント」その2

平成26年初場所、白鵬は稀勢の里にも雪辱し、28回目の優勝。体調不良の北の湖理事長に代わって九重事業部長(元横綱千代の富士)から賜盃を授与される

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人生に壁はつきもの。
なんでも自分が思っている通りにいけば、こんな楽しいものはありませんが、そうはいきません。
いろんなところで、いろんな障害にぶつかり、立ち往生します。試練ですよ。
でも、どこかに出口はあり、なにかしらの得るものもあります。
みんな、それを乗り越えて強く、たくましくなっていくんです。
力士だって、そうです。
みんな、負けて塩の辛さをかみしめ、泥まみれにされて涙を流した経験を持っています。
でも、その苦しみの中から次につながるヒントをつかみ、また立ち上がったんです。
そんな苦衷に活路を見つけた力士たちのエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

悔しさ晴らし優勝

平成25(2013)年九州場所14日目、前日まで全勝の白鵬は、2敗でまだ逆転の可能性を残していた大関稀勢の里(のち横綱、現二所ノ関親方)と対戦。左四つから下手投げを打ったが、上手投げで逆襲され、裏返しに引っ繰り返った。これを見た7千人近い観衆はいっせいに立ち上がり、なんと10回もバンザイを叫んだのだ。負けてどん底に突き落とされたことによって、白鵬は双葉山の心に触れたのだった。

この話には続きがある。話にも表と裏があり、表向きには冷静に振舞った白鵬だったが、やはりこのバンザイ10回のおまけまでついた負けは相当悔しいものだった。師匠の宮城野親方(元幕内竹葉山)は、

「内心では、悔しがるというよりも、ものすごく怒っていました。次の朝、飯を食いにも起きてきませんでしたから。あれじゃ、優勝できるはずがありません(千秋楽、日馬富士との相星決戦に敗れて優勝できなかった)」

と明かしている。
 
この悔しさをどこにぶつけたらいいか。それはもう決まっている。次の平成26年の初場所直前の1月6日のことだった。白鵬は宮城県内で行われたイベントに参加し、それを終えると自宅には戻らず、千葉県船橋市内のホテルに投宿。翌朝、同市内の二所ノ関部屋で行われた二所ノ関一門の連合稽古に飛び入り参加した。

「自分から電話して参加の了解を取った。こんなことは初めてだった」

と宮城野親方は驚いていたが、こんなに白鵬が参加したがった理由は、ここに前の場所、裏返しにされた稀勢の里もやってくることをつかんでいたからだった。
 
こうして、白鵬はこの連合稽古で稽古相手に稀勢の里を指名。10番取って9勝1敗と大勝し、その余勢を駆って本番でも押し出して快勝。28回目の優勝を果たしている。ヤラれたら、どこまでも追いかけてやり返せ、と双葉山が言ったかどうか、定かではない。

月刊『相撲』令和2年1月号掲載

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