close

2023-07-07

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第10回「生きるヒント」その4

平成27年九州場所千秋楽、豪栄道は琴奨菊に敗れて11敗目を喫しガックリ

全ての画像を見る
人生に壁はつきもの。
なんでも自分が思っている通りにいけば、こんな楽しいものはありませんが、そうはいきません。
いろんなところで、いろんな障害にぶつかり、立ち往生します。試練ですよ。
でも、どこかに出口はあり、なにかしらの得るものもあります。
みんな、それを乗り越えて強く、たくましくなっていくんです。
力士だって、そうです。
みんな、負けて塩の辛さをかみしめ、泥まみれにされて涙を流した経験を持っています。
でも、その苦しみの中から次につながるヒントをつかみ、また立ち上がったんです。
そんな苦衷に活路を見つけた力士たちのエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

惨敗もムダにせず
 
惨敗するのはわかっていても、やらなければいけないときもある。それが力士というものだ。いや、男、と言い換えてもいい。
 
平成27(2015)年の九州場所前、大関豪栄道(現武隈親方)は稽古で右手首を痛めた。その場所は8勝7敗となんとか勝ち越したものの、次の初場所が近づいてきても一向に痛みは引かない。歯を食いしばって稽古する愛弟子の姿を身近にみていた師匠の境川親方(元小結両国)は、

「こりゃ、とても場所をつとめるのは無理だ」
 
と判断し、休場を勧めたが、肝心な豪栄道が、

「大丈夫です。出ます」
 
と言ってなかなか首を縦に振らない。このため、境川親方は、

「出るからには言い訳はできんぞ」
 
と言って送り出したが、案の定、自分の相撲がまったく取れず、たった4勝しかできなかった。そのうちの1勝は不戦勝で、7日目以降は1勝も挙げられずじまい。大惨敗だった。
 
重苦しい空気に包まれた千秋楽。どんな思いで毎日、土俵に上がっていたか、と問われた豪栄道は口をつぐんだが、境川親方が代わってこう答えた。

「確かに結果は散々。こんなことなら出なきゃよかったのに、という人もいるけど、少なくとも勝負勘は養えた。(次の春場所は)同じカド番でも、全休で迎えるよりずっといい」
 
確かに、この先の見えない忍従の日々はムダではなかった。春場所、ようやくケガが癒えた豪栄道は、それまでとは別人のような相撲で、大関になって自己最多の12勝を挙げてなんなくカド番を脱出した。さらにこれが大きく花開いたのは3場所後の秋場所。大負けしたことで勝つことの大切さ、負けることの悔しさを学んだ豪栄道は15戦全勝で、みごと初優勝に輝いた。

月刊『相撲』令和2年1月号掲載

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事