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2023-08-04

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第11回「ゼロ」その2

平成27年夏場所14日目、宝富士に敗れた隠岐の海はガックリ

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ものの始めは1ですね。1から出直す。いいじゃ、ありませんか。
でも、その1より下がゼロ。ゼロからスタートを切る。
いかにもまっさらなところからものごとを始めるという気迫が感じられるじゃありませんか。
それはともかく、大相撲界にもゼロに関連するエピソードが幾つも転がっています。
今回は、そのゼロにまつわるエピソードを集めました。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

もう心の中はゼロ

勝ったときの力士ほど、誇らしいものはない。あの高見盛(現東関親方)は、胸を張り、天井を見上げて、のっしのっしと花道を引き揚げたものだった。では負けたときはどんな思いなのか。
 
平成27(2015)年夏場所、西前頭10枚目の隠岐の海(現君ヶ濱親方)はまさに絶好調だった。10日目に早くも勝ち越し、この場所、賜盃を抱くことになる関脇の照ノ富士や魁聖(現友綱親方)らとともに激しく優勝争いを繰り広げていたのだ。
 
ところが、11日目を境に暗転。5日間でたった1勝しかできなかった。14日目も東前頭筆頭の宝富士に、相手十分の左四つになってしまい、左からの下手投げで文字どおりねじ伏せられてしまった。完敗だ。
 
ちなみに、勝った宝富士はこれが新三役当確の8勝目。ニコニコ顔で引き揚げてくると、

「(これまで大事な一番で)負けて、学んだことがいろいろある。悔しい思いもいっぱい。(今日は)それをぶつけて絶対に三役に上がってやろうと思って土俵に上がった。まだ三役に上がれると決まったわけではないけど、とてもうれしい」
 
と声を弾ませたが、負けた隠岐の海は対照的にこう言って暗い顔をした。

「あんなふうにぶざまにひっくり返されたら、(この一番に懸けた思いも、作戦も)すべてくつがえされて、人生まで否定された気分になる。もう心の中はゼロ。絶望しかないよ」
 
ここまで落ち込んだら、なかなか立ち直るのはむずかしい。当然、翌日の千秋楽も栃煌山(現清見潟親方)にあっけなく押し出された。負けたとき、力士たちはどうやって心のバランスを保つか。永遠のテーマだ。

月刊『相撲』令和2年2月号掲載

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