close

2023-09-21

【相撲編集部が選ぶ秋場所12日目の一番】熱海富士2敗。1差に迫られ、貴景勝と直接対決へ

大栄翔に引き落とされ、2敗目を喫した熱海富士。優勝争いは風雲急を告げる展開に

全ての画像を見る
大栄翔(引き落とし)熱海富士

独走態勢に入っていた若武者に、ついにストップがかかった。止めたのは大栄翔だ。熱海富士を得意の突きで攻め込み、引き落とした。三役の力を見せつけた貫録勝ちだった。
 
立ち合いは互角。予想どおり、大栄翔が突いて出て、熱海富士がそれをはね上げる形になった。熱海富士が一度左にイナし、同様の展開が続く。熱海富士は頭を上げずに辛抱するが、大栄翔の突きをはね上げはしても、下からあてがって動きを鈍くさせるには至らなかった。やがて熱海富士に、小さく引いたり、イナしたりという動きが出てくる。だがやはり、引きやイナシは、その前に自分が圧力勝ちしていなければ効くものではなく、こうなれば大栄翔のペース。2度目のイナシで少し熱海富士の体が立ち、足がそろったところを逃さず引き落とした。
 
今場所、常に前傾姿勢を崩さず、いい相撲を見せていた熱海富士だが、さすがに突きでは今の角界でもトップと言える大栄翔をつかまえることはできなかった。

「悔しいですね。負けたんで何もないです。まだ残りがあるんで、切り替えて頑張ります。(後続と1差になっても)やることは変わらないので」と熱海富士。あすからもこれまでと同じ気持ちで戦っていくことができるか。
 
かくして熱海富士は2敗。先に錦木を叩き込みで破って3敗を守った髙安との差が1になった(剣翔はその前に宇良に敗れて4敗に後退)。そして続く相撲で、もう一人の3敗の貴景勝が、いい当たりからハズで押しまくって琴ノ若に何もさせず圧勝。きのうまで熱海富士絶対有利だった優勝争いは、一気に風雲急を告げてきた。
 
そしてあす13日目には、いよいよ貴景勝と熱海富士の直接対決が組まれた。貴景勝にとっては、ここで勝たないと、まず逆転優勝はない、という一番になるが、この日の内容を見る限り、やはり有利なのは貴景勝だ。
 
貴景勝は、9日目の豪ノ山戦から、11日目の若元春戦、この日の琴ノ若戦と、威力のある立ち合いが続き、グッと内容がよくなってきた。もちろん、相手が立ち合い逃げる心配のないタイプということはあるが、熱海富士もまた、逃げることはほぼ考えられない相手。同様の思い切った立ち合いもできるし、その後も、この日の琴ノ若戦と同じ取り口で攻めればいいはずだ。
 
一方の熱海富士からすると、今の大関の当たりに対して、簡単に廻しがつかめるというイメージはちょっと浮かばない。したがって、まずは立ち合いで大関に当たり負けしないことが第一となるだろう。その後も、相手の押しを受けて苦し紛れに引きやイナシを出すのではこの日の二の舞いとなるので、逆に攻防の中で圧力勝ちして大関の上体を起こし、相手に引いたりイナシたりさせる展開を作れるか、というところがカギになるとみる。
 
もし、あす貴景勝が勝って星が並んでしまえば、地力から見ても、キャリアから見ても、優勝争いは貴景勝有利に変わる。貴景勝は14日目、千秋楽には大関(または関脇)戦が組まれるはずなので、そこを勝っていくのは楽ではないが、熱海富士も優勝の可能性がある以上、そう楽な相手と組ませてもらえることはないはずで、14日目、千秋楽を勝ち抜ける可能性で大関に大きな差をつけることは難しいだろう。2人が同じ星で優勝決定戦に持ち込まれたときには、やはり地力のある貴景勝が有利だ。もちろん3敗には髙安もいるが、髙安はこの日のように相手をかわして勝ちをつなげていくしかなく、やや苦しい。
 
もし今場所、貴景勝が大逆転優勝を遂げることになれば、この12日目は、そのターニングポイントとして、われわれに記憶されることになるだろう。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事