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2023-09-20

【相撲編集部が選ぶ秋場所11日目の一番】貴景勝カド番脱出。V争いのトップを走る熱海富士を2差で追う

若元春につけ入るスキを与えず、押し倒してカド番を脱出した貴景勝。このあとどこまで熱海富士を追っていけるか

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貴景勝(押し倒し)若元春

勝負を決めた後、珍しく左手でちょっとガッツポーズを作った。大関貴景勝が若元春を倒し、勝ち越しを決めた。

攻め過ぎず、しっかりと相手を正面に置いて、前に圧力をかけ続けた。カド番脱出を懸けたこの一戦、よどみなく攻め切り、最後は押し倒した。
 
場所中、「白星、黒星で判断するのはよくない。自分のバランスで、いい感覚でやっていけるようにしたい」と語っていた大関にとって、この日の取り口はそれが見事に実戦できたものではなかったか。
 
この日はとにかく、動き過ぎず、しかし攻めた。立ち合いで相手が左を差しにくるのをはね上げると、あとは相手が回ろうとする方向を冷静に見定め、そちらに圧力をかけ続けた。最後は少し廻しに手を伸ばされかけたが、問題にせず押し倒し。突っ込みすぎて土俵際でかわされる危険も、イナシ合いになって横につかれる危険も回避したこの日の取り口は、対若元春戦としてはベストな対応と言えるだろう。「(勝ち越しは)全然考えてなかった。自分が一生懸命やって、15日間の結果なので。負け越して落ちれば、実力がそれしかない」と貴景勝。カド番脱出がかかる一番でこの相撲が出せるのは、さすが大関という内容だった。
 
さて、カド番脱出を果たし、貴景勝の次なるターゲットは、まだ可能性の残る優勝争いということになる。
 
状況を整理していくと、この日は、1敗の熱海富士が三役初対戦、後半の土俵初体験も、まったく緊張を感じさせない盤石の取り口で、立ち合いすぐに左上手をつかみ、小結の翔猿を豪快に投げ捨ててトップを守った。2敗だった髙安は大栄翔に押し出されて3敗に。やはり腰を痛めているようで、本来の動きができておらず、ちょっと優勝戦線に残るのは難しそうな感じだ。きのうまでの3敗勢は、阿武咲と遠藤が相次いで敗れて後退、3敗同士の対戦は剣翔が北勝富士を叩き込み、結局3敗は貴景勝、髙安、剣翔の3人となった。
 
髙安と剣翔は、すでに熱海富士との直接対決が終わっており、自力で差を1つ詰めることは不可能。こうなると、地力や番付から言っても、現在の体調から言っても、対戦状況から言っても、優勝争いを最後まで盛り上げる役目はやはり貴景勝が一手に背負う以外にない、という状況にはなってきた。果たしてここから熱海富士を逆転し、番付の権威を守ることができるか。「優勝争いも、15日間終わってみないと分からない。自分の力が出せるように持っていくしかない。準備だけはしっかりする」と大関。目の前の一番に集中して臨む。
 
ただもちろん、確率的には、この日勝って一歩前進したことで、優勝へは熱海富士が絶対優位になったことは間違いがない。あす12日目の関脇大栄翔をはじめ、今後どんどん強敵とぶつけられることにはなるが、3勝1敗でいければ優勝、2勝2敗で乗り切れれば、悪くても優勝決定戦には進出できる(その場合も、現在3敗の力士は残り全勝が要求されるので簡単な話ではない)。1勝3敗でも優勝決定戦が濃厚という感じだろうか。4連敗を喫してはさすがに厳しいだろうが、それぐらい可能性の高い状況ではある。
 
熱海富士はあす12日目は大栄翔戦。5連勝と調子を上げてきた大栄翔の突っ張りが炸裂するか、それとも、ここまでの相撲と同様、熱海富士が頭を上げずにしのいでつかまえるか。迫力あるぶつかり合いになりそうだ。

文=藤本泰祐

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