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2023-09-19

【相撲編集部が選ぶ秋場所10日目の一番】熱海富士が1敗対決に勝ち、単独トップに。さあ三役戦だ

1敗対決は豪快に押し倒して熱海富士が勝利。倒された髙安は腰を痛めたようで、状態が心配される

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熱海富士(押し倒し)髙安

注目の髙安と熱海富士の1敗対決は、21歳の熱海富士が33歳の元大関髙安を豪快に押し倒して勝ち、1敗をキープ。ついに幕内優勝争いで初めて単独トップに立った。
 
2人は髙安が左、熱海富士が右のケンカ四つ。立ち合い、熱海富士はいつもと同様、右差し左前ミツを狙う形、一方髙安は、おそらくケンカ四つというところを重視したのだろう、モロ手突きやカチ上げで相手を起こしにいくのではなく、左四つを狙った立ち合いとなった。
 
当たりは互角で、どちらも差したり廻しに手を掛けたりはできず。まず髙安が右からイナしたあと突いて出る。熱海富士は頭を上げずにこの攻めに耐えたが、ここで髙安が辛抱しきれず、熱海富士の頭に左手を掛けて引き。これで髙安の体が浮いたその瞬間、熱海富士が右をノド輪のようにしての押し。このタイミングがピッタリと合って、髙安は根こそぎ倒されてしまった。

「ちょっと消極的でした。当たってちょっと引いちゃった」と髙安。これで2敗目、優勝争いから一歩後退となったが、星勘定より何より、取組中に痛めたか、倒された後に腰を手で押さえ、付け人に支えてもらうようにして花道を下がっていったのが気がかり。現時点ではどの程度の故障かは分からないが、腰を痛めてしまっては、このあとの優勝戦線を勝ち抜いていくことは難しい。今度こそ悲願の初優勝かと思われたが、またもチャンスを逃してしまうことになるのか……。
 
髙安の状態次第では、優勝争いは実質的には後続(現在3敗は貴景勝、北勝富士、阿武咲、遠藤の4人)との差が2つとみることもでき、熱海富士は大きくリードを奪ったことになる。

「落ち着いていこうと思った。勝ってよかったです」と熱海富士。この日も今場所目立つ、前傾姿勢を崩さない相撲で白星を伸ばした。新入幕で4勝11敗に終わった昨年九州場所は、ただガムシャラに体に任せて攻めようとしていたような印象もあったが、1年もたたないうちに大きな進歩を遂げてきた。
 
単独トップについては「まだ五番もあるので」と冷静な熱海富士。果たしてこのまま優勝へと突っ走れるのかが注目されるが、そこに至るまでのハードルはもちろんどんどん高くなってくる。あす11日目は小結の翔猿との割が組まれたが、いよいよ三役との対戦が始まるからだ。

ここからは、優勝争いに残り続けている限り、熱海富士は三役陣と当てられ続ける可能性がある(展開次第では平幕の好成績者と合う可能性もあるが)。さすがに今場所返り入幕の力士と三役のどちらが有利とみるか、と問われれば、三役が有利と言わざるを得ず、今後は「残り5日で熱海富士の星がどこまで下がってくるか」が優勝争いの焦点になると言えるだろう。

ただ、熱海富士には、単なる「返り入幕で初めて幕内で勝ち越した力士」にはとどまらないポジティブな要素もある。一つは、最近は故障がちだとはいえ、同じ部屋に横綱照ノ富士がいること。相手が三役となっても、「どれぐらい強いのか分からない」とビビる必要が全くない。これは精神的にはプラスだろう。そしてもう一つは、185センチ、176キロの堂々たる体があることだ。体の大きさで負けるのは、三役でも琴ノ若と錦木ぐらいのもの。これぐらいの体があれば、この日の髙安戦と同様、相手が無理な攻めや強引な技にきたときにしっかり対応できればいっぺんに相手を倒してしまう可能性が生まれる。相撲はまともで、正面からぶつかるタイプだが、この体格がある以上、上位陣にとって決してやりやすい相手ではないはずだ。

9月3日に21歳になったばかり。優勝すれば貴花田、大鵬、北の湖に続く史上4位の年少記録になる。大きな記録にどこまで迫っていけるか。「あしたの相手はインタビューのとき逆質問して聞きました。(翔猿関は)初めてですね。勝ちたいです」という、怖いもの知らずの若さに、楽しみは膨らむ。

文=藤本泰祐

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