close

2023-10-20

初の長期欠場で大鷲透が考えた“やまいきフリーマーケット”。欠場中でもプロレスラーで在り続ける一つの方法【週刊プロレス】

今回のイベントを企画した欠場中の大鷲。ロゴはポップだ

全ての画像を見る
いっぷう変わったイベントが10月24日に新宿で開催される。その名も「やまいきフリーマーケット」。“やまいった”は相撲用語でケガをした時などに使われるが、今回は負傷欠場中のプロレスラーを集めたイベントで、わかりやすく言えば“欠場選手救済イベント”となる。

同イベントを企画したのは、DDTを主戦場に闘うフリーの大鷲透。闘龍門から派生したT2P出身で、フリーのプロレスラーとして各団体で活躍していたが、今年7月、DDT両国大会の3WAY6人タッグにおける試合中に負傷。ドラゴンスクリューをかけた時、巨漢のMJポーが頭の上に降ってきてしまったのだ。

「その瞬間、右手の感覚がなくなり、立ち上がろうとしても下半身が完全に脱力した状態になって力が入らなかった。一回出ようと外(場外)に出たけど、しばらくして、5分も経たないうちに血の気が戻るように、感覚が戻ってきたんです。そんなに大事じゃなかったと思って、(試合後は)普通に歩けるようにもなった。大会が終わったあと売店にも立って、週末も試合があったので出るつもりでいたけど、念のため病院に行ったほうがいいと言われ、次の日に病院に行ってCTを撮ったら、(首が)完全に折れてますと」

診断は頸椎損傷で、2週間は絶対安静。その骨が少しでもズレたら手術になると言われた。幸いにして発見できたからよかったが、痛みもなかったため、病院に行かず試合出場を続けていたら、取り返しのつかぬ事態になっていた危険性もある。現在は骨もズレずにくっつき、復帰に向け前進している最中の大鷲。「骨折のなかでも軽い状態でした」と胸をなでおろすが「軽いムチ打ちぐらいで折れていると思わなかった。自覚はなかったので、危ない個所をケガしたら自己判断ではなく病院に行った方がいいなというのは本当に思いました」と振り返った。

元大相撲力士でもある大鷲。相撲時代はケガに泣かされてきたが、レスラーになってからは長期休養を取っていた時期はあれど、ケガによる長期間の欠場はなかった。首という命に直結する部分の負傷で、いろいろ考えるなかで今回のイベントを思いついたという。

「自分自身こんなに長期欠場するケガをしたのが初めて。いままで肩鎖関節脱臼とか尿管結石とかあったけど、数週間休んだぐらい。何カ月単位で休むということが、レスラー人生のなかで初めて。自分はケガしないという過信があった。ただ、リングで闘っている以上、いつなんどき何が起きるかわからないのをこのキャリアで思い知らされました」

大鷲が思ったのは「何かあった時のために備えるのも必要だけど、じっさい何か起きてしまったあとのことも必要じゃないか?」だった。とくに団体に所属しないフリーのレスラーは、ケガで試合に出られなくなれば無収入。ケガはもちろんしないほうがいいが、プロレスにケガは付きもので、負傷とどう付き合っていくかは常にレスラーを悩ませている。

初の長期欠場が決まった大鷲は「ケガ人を集めてフリーマーケットをやりたい」との思いが芽生えた。もちろん収入の足しになれば、という側面もあるのだが、それ以上に感じていたのは心の面で“人前に出ることの重要性”だった。

「最近はケガして欠場する選手も多い。団体に所属していればまだいいし、自分はDDTさんのご厚意で売店に立たせてもらったり、解説をやらせてもらったり、人前に出る機会がある。ケガしていても、人前に出ることは我々にとってすごく勇気づけられたり、復帰へ向けての気力になったり、精神的に上がったり下がったりメンタルも厳しい状況下で前向きになれたり、人前に出るのは大事だなと思った」

自主興行をおこなうなど付き合いのある新宿FACEに相談したところ「近々の空き日であれば無償でお貸しします」と言われた。大鷲が会場側と培ってきた信頼、プロレスへの深い理解から新宿FACEが協力してくれ、今回のイベントは実現する。チケット制ではないから、当日にどれだけの人が集まるかはわからないが、午後5時~9時の間で入場料金は1000円(ワンドリンク付き)、フリマのほかグッズ販売やトークショーもおこなわれる。参加選手は大鷲ほか勝俣瞬馬、中村圭吾、春日萌花、みなみ飛香、清水ひかり、平田智也、吉村直巳(午後5時~6時)、まなせゆうな(午後7時~)、鈴木心(代理出店)。レスラーが欠場になるとファンも交流の機会を奪われがち。そう考えると、こうしたイベントは各選手のファンにとっても嬉しいものだろう。

「ケガ人だけど明るくいきたい」との思いから、作成した“やまいきフリーマーケット”のロゴも「字がケガしている」など、ユーモアも感じさせるものに。大鷲は「いろんな人の協力があってできることなので、ひじょうに感謝しています」と話した。

さっそく救済の輪は広がり、新宿でのイベントを聞きつけた群馬・高崎にあるプロレスショップ「リングサーチ」も動き、同様のイベントを「やまいきフリーマーケット」の名を使い、11月5日に実施することになった。

大鷲は「違う選手が声を上げることで、違う輪も広まる。謎なイベントだと思うので、自分のことを知っている人が初回は名乗り出てくれたと思う。全然知らない土地でやってもらっても名前は貸し出しますし、ご興味あるかたは言ってきていただきたい」と語った。

もちろん、選手個人個人考え方は違うから、欠場中は一切表に出たくないレスラーもいる。あくまで、さまざまな考えがあるなかの一つが、今回のイベントと考えてほしい。ケガ人が増えないことを祈るばかりだが、負傷しても生きる道がある――それはそれで、人前に出てプロレスラーとして在り続ける一つの方法と言えるだろう。

<週刊プロレス・奈良知之>

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事