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2023-10-29

【天龍プロジェクト】11・6新木場で開幕、“ミスター天龍プロジェクト”佐藤光留いわく「龍魂杯は”夢のないオールスター戦”」【週刊プロレス】

ミスター天龍プロジェクト、佐藤光留

天龍プロジェクト11・6新木場で開幕する「第3龍魂杯」を前に佐藤光留は進祐哉に敗れ、1年3ヵ月間保持し続けてきたインターナショナルジュニアヘビー級王座を明け渡した(9・21新木場)。だが、その間“ミスター天龍プロジェクト”を名乗り続けてきたその姿勢にはいささかの揺るぎもない。「損得勘定だけではないプロレス」を体現するべく、初優勝を目指す。
◇    ◇   ◇
――9月に1年3カ月間保持したIJ(インターナショナルジュニアヘビー)ベルトを進祐哉選手に奪われてしまいました。気持ちの立て直しはできている?

佐藤 たぶんできていないんでしょうね。佐藤光留史上一番長く持っていたベルトなんですよ。今まで、1年以上一つのベルトを持つなんてなかったですし、もしも佐藤光留がベルトを巻いている写真を出してくださいって今のタイミングで言われたら、IJシングルのベルトを持つ写真にしてくれって言うぐらいにイメージづいていたと思うので。ベルトを失ったっていうことも、自分のタイトル史における物語のひとつになるんでしょうけど、それは負け惜しみですよね。よくベルトを失ったやつが「今は貸しているだけだ」とか言っているのを見て、バカみたいなこと言ってんじゃねよ、負けてんじゃねえかって思っていたんですけど、こうなったいま、本当にちょっとだけだけど、そう言いたくなる気持ちがわかりました。
――今まで他のベルトを明け渡した時とは感覚が違っていたと?

佐藤 そうです。僕はそんなにベルトをたくさん取っている方ではないし、取っては取られてっていう感覚でしかなかった。それぐらいタイトルマッチに関する勝率はあまりよくないはずです。それがIJシングルに関しては、肌身離さずという感覚がありましたね、本当に。だからあのあと天龍プロジェクトの会場へ向かう時に一瞬、ドキッとするんですよ。あっ、ベルト忘れた!って。
――……思いのほか引きずっていますね。

佐藤 佐藤光留は引きずります。いまだに保育園で2個上の女の子に言われたことを引きずっていますから。それは死ぬまで引きずると思うんです。ヘンな話ですけど、IJシングルのベルトと一緒に棺桶に入りてえなって思う時があるんですよ。

――そういう精神状態で「龍魂杯」に臨まなければならないと。

佐藤 僕、今年は180試合ペースなんですけど、当たり前ですが「龍魂杯」、IJシングルのタイトルマッチだけじゃないんです。10月の天プロ新木場大会があった次の日に同じ新木場でOSWに上がって、レフェリーが吉野恵悟さんでリングアナとして天プロを手伝っている望月彩さんがいて、ちょっと天プロっぽいところでセーター着て下剤飲んで試合しているんですよ。説明すると長くなるんで、週プロモバイルをご覧ください。何が言いたいのかというと、プロレスってひとつのスタイルだけじゃないっていうのをすごく感じている一方、その中でも軸になるものっていうのがやっぱりあるんですね。「龍魂杯」はダメだったけどいいや、IJのベルトなくなってもまあいいやって思えないぐらいウェートがすごくデカい。だからこのトーナメントに懸ける気持ちが特別だっていうのはもちろんありますね。それは前向きなものもあれば、伝わらないかもしれないですけどいい意味で「もう本当に家、出たくねえよ!」って思うぐらいキツい試合に絶対なるんです。でも、それがいいんですよね。そんな思いにさせてくれるのは天龍プロジェクトだけであって、そういう場を作りあげた、扉を開いた自負はあります。
――昨年はIJ王者として臨みましたが、今年はそれがない中でのトーナメントということで気の持っていき方は違うものですか。

佐藤 いや、そこにあまり差がないのが、やっぱり自分がミスター天龍プロジェクトだっていうのがあるからこそなんですよね。言うなれば今は無免許運転状態。ミスター天龍プロジェクトって言っているけれども、ベルトというそのための免許を持っていない。そんな僕がベルトを取られてもミスター天龍プロジェクトと言い続けていることに誰かが噛みついてくると思ったんです。「ベルトも持ってねえくせにバカ言ってんじゃねえよ!」って。ところが見渡したら、佐藤光留がいまだにそう言っていることを納得している様子じゃないですか。

――それは1年3カ月間、痛みの伝わりすぎるプロレスを続けてきたからこそ揺るぎない評価として定着しているからだと思います。

佐藤 でも、そこで僕以外の人間が納得するのは微妙でしょう。逆に今でもミスター天龍プロジェクトを名乗れるんだから、ベルトのあるなしでトーナメントに向ける気持ちが変わるということはないですね。むしろ、こんだけデカいことを言っていながら「龍魂杯」に優勝したことがない事実の方が影響しますよ。毎年、僕に勝ったやつが優勝している不名誉な記録しかないっていうね。だいたい異名とかキャッチフレーズって、自分からこう呼んでくれって言うもんじゃないんですから。

――いやいや、自分でミスター天龍プロジェクトって名乗り始めたんですよね。

佐藤 そう。それはこう呼んでくれ!じゃなくて、試合後のテンションで軽口叩くような感じで言ったことに誰も異を唱えないから定着してしまったことであって。僕に勝ったことで即、ミスター天龍プロジェクトと呼ばれるようになるものかっていったらそうじゃないんでしょうけど、でも今はミスター天龍プロジェクトっていったらレイ・パロマだよなとか、渡瀬瑞基でも拳剛でも新井健一郎でも誰でもいい、そういうふうに言われるようになったら存在を上書きされたことになる。それってとんでもないことだと思うし、天プロにおける佐藤光留の存在を消せるんだったら消してみろっていうのはありますよね。消しに来てほしい。天龍プロジェクトははみ出し者の集まりであるのに、本当にはみ出すやつはいない。そのはみ出し方にしても、諏訪魔のように目ぇつぶってアクセル踏み込むようなはみ出し方は誰でもできるんです。でも、そこに思考があって意志があって、自分の目標があって、そのためにはみ出すっていう胆力を持っている人はいても、行動で実現させてトーナメントに乗せてくるやつっていうのは、いまだに会ったことがない。そういうやつがもっといてほしいっていうのがありますね。

――そんな中で迎える1回戦が、3年連続のレイパロマ選手です。

佐藤 1回目の時のこと、鮮明に憶えていますよ。プロレスをやってきて、僕はあまり他人に褒められるってことってなかったんです。本当に、陽の当たらない場所で生き続けていることだけが自己証明だった。それが第一回龍魂杯の1回戦でパロマさんとやったあと、その日に中継の解説でいらっしゃっていた小橋建太さんが初めて褒めてくれたんですよ。その瞬間、嬉しいのはもちろんですけど、パロマさんとでかあ…と思ったのは確かです。でも、パロマさんとそういう試合をやったのはすげえんじゃないかって思えた。だからそれをいい思い出にしたかったんですが…去年も同じ1回戦になってさらに今年もですから。なんていうか、憑き物って落ちないものなんだなって痛感させられているところです。

――わかりやすいぐらいに見る側はパロマ選手が勝つ瞬間を望むでしょう。
佐藤 これがすごいプレッシャーなんですよ。天龍AID(2・12新木場)で天龍源一郎大喜利をやった時に、レイパロマが天龍さんのことが好きすぎて、延々と滑りまくっていたんです。それが、好きな女の子の前で空回りしているアラフィフのちっちゃいおっさんを見ているようで驚がくだったんです。龍魂杯1回戦のレイパロマって、僕以外誰も経験したことないんですよね。早く経験してほしいんですよ、みんなに。これが龍魂杯のレイパロマだ!っていうのを。なのに、毎回僕なんですよね。

――去年一昨年と、すでに2勝している側からすれば2回戦に進出すること以外のメリットは何ひとつないですよね?

佐藤 そうなんですよ。ただこれは、なぜ自分でミスター天龍プロジェクトと言って周りにも納得されているかにつながってくるんですけど、損得勘定とかプラスになるものがあるかどうかって、今の時代だと大事に思われているじゃないですか。だけど天龍源一郎が現役時代に、そればっかりで動いていたとは僕は思えないんですよ。そんな田村潔司みたいなことをしていたとか、僕は思わないッスもん。時には、必要のないマイナスに自分から突っ込んでいくわけじゃないですか、天龍さん。それで天龍源一郎とはなんぞや?っていうのを証明し続けたから、天龍さんはあったわけで。そう考えたら、メリットがあるかないかじゃないんですよ。そこにあるのは、プロレスだけなんですよ。これはもちろん天プロだけです。ほかのところはそう思えない時もありますけど。
――まあ1回戦の相手が誰であろうと、先ほど言われた通り過去2回とも優勝できていないので、それを果たすのが大前提です。

佐藤 負けていいプロレスなんてないですからね。ミスター天龍プロジェクトを名乗る分、優勝の内容も問われると思っています。プレッシャーも自分でかけりゃあいいんですよ。IJタイトルマッチの時も、本心で家から出たくないって思って、本気で今日も生きて家に帰れるかなって毎回思っていましたからね。それぐらい懸けられるものって、人生でそう何度もあるわけじゃないじゃないですか。僕は全然、歴史に名前残んなくていいんです。でも、見た人に何か爪痕でも傷跡でも思い出でも残せれば、僕はそれでいいと思っているんで。最終的にそれでプロレスがよくなってお客さんが楽しめればそれでいいんで。だから全部のプレッシャーを飲み込んで、このトーナメントにいきます。

――去年は2回戦から決勝戦までを一日3試合やった結果、最後に敗れて準優勝に終わりました。今年は1回戦から準決勝が一日3試合です。

佐藤 そこは条件、みんな一緒ですからね。1回戦で勝ったら、SUSHIと羆嵐のどちらかとやるわけじゃないですか。羆嵐は超ヘビー級だし、意外とSUSHI先輩とのシングルって戦績よくないんですよ。

――そうなんですね。

佐藤 実は。反対側のブロックを見ると…気が重いです。競馬だったら進祐哉、矢野啓太、あとは体格的に見たら耕平さんと河野さんの勝った方ってなるんですけど、僕は意外と吉田和正と児玉裕輔の勝った方がダークホースだと思います。吉田君って、大日本プロレスで見た時は、なんて言うんだろう…休みの日のパパっていう感じなんですよね、忌野清志郎の唄じゃないですけど。でも天プロに出ている時は、ちょっと違うんです。ここのリングって雰囲気、土壌も含めてすごく合う・合わないがあると思うんですけど、自分を変えられる空間だったりするんです。そういう中で吉田君が出てくると、いろんなものが動くんじゃないかという反面、ジュニアで一緒にやってきた田村男児がいますし、期待も不安もデカいですね。このメンツの中で勝ったやつとやるのか…って。

――進んできたら勢いがつくタイプとクセ者しかいないので、どう転んでもシンドいものになるという。

佐藤 久々に天龍さんが来られる中で、矢野啓太とやるなんていうことになったら吐いちゃいますよ。でも…それを待っている自分もいるんだよなあ。

――昨年の決勝戦で敗れた相手に雪辱を果たして優勝するのは美しい形です。

佐藤 でも、天プロでの1年前って、世間で言ったら10年前ですよ。矢野啓太が去年僕に勝っているから今年もっていう気持ちは、形上言っていたとしてもそんなに強くないと思います。天プロのリングに上がっている矢野啓太の本心って、より一層尖っている気がしますよ。

――勝ち上がるためではなく、生き残るためのトーナメントという印象です。

佐藤 本当のバトルロワイヤルです。天龍プロジェクトって所属がいない、いろんな団体のすごい超トップでピラミッドの一番上の石が集まっているわけじゃないんですよ。いろんな場所の石が集まっている。そういう人間だからこそ…夢のないオールスター戦なんですよね。

――夢のオールスター戦ではなく。

佐藤 夢のオールスター戦だとワクワクするじゃないですか。やる側からすればそういうものじゃないわけです。でも、そんな闘いだからこそ見せられるものって絶対あるんですよ。(聞き手・鈴木健.txt)
「第3龍魂杯」トーナメント表

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