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2023-11-07

KONOSUKE TAKESHITAの現在地――1万字インタビュー「クリス・ジェリコに勝つという十字架を背負って歩んでいく覚悟はできています」(前編)

11・12両国でジェリコと一騎打ちを闘うTAKESHITA

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DDT26年の歴史の中でも最大級のドリームマッチが11・12両国国技館でおこなわれる。KONOSUKE TAKESHITAはAEWではなくDDTのリングでクリス・ジェリコとの一騎打ちを実現させることを野望として抱いてきた。その背景にはいくつもの物語とTAKESHITA自身の思いが刻まれていた。育み続けたその熱量を言葉にし放出した上で、決戦に臨む――。(聞き手・鈴木健.txt)


AEW初登場時、試合直前に
ジェリコから言われたこと

――9・24後楽園のリング上で、クリス・ジェリコとの一騎打ちが発表された時の観客のリアクションは、どんな味わいでしたか。
TAKESHITA  まず、ジェリコとシングルでやりたいっていうのは、AEW所属になった時点で思っていたことで。それをAEWのリングでやるというのは自分自身も想像できるところまで来ていましたけど、そこはDDTのリングでかなえたいという気持ちがあったんです。過去にDDTではWWEスーパースターのパロディーのようなことをやってきましたけど、旗揚げ当初のことを思えばモノマネではなく現役バリバリのスーパースターが上がるなど考えられなかったことですから、それを現実のものにするのが僕の中での密かな野望だったんです。それがかなうというところの達成感はありましたし、お客さんの中にあるTAKESHITAと誰だったら実現するだろうという想像を遥かに超えたかった。だからあの時のリアクションを感じた時は、素直によかったって思いました。
――あの空間での瞬間最大風速数は、2008年末の後楽園ホールで翌年の両国国技館初進出を発表した時に匹敵するものがありました。
TAKESHITA  あのインパクトは、僕もサムライTV視聴者として伝わってくるものがありました。すごいことをやるんだって思いましたけど、そのあとも両国国技館を毎年やって、日本武道館、さいたまスーパーアリーナってステップアップしていく中、驚きのハードルが上がっていってインフレを起こして、それ以上の驚きとなるとクリス・ジェリコがDDTに来るというぐらいしかないだろうということですよね。そこに1年かけてたどりついた感じです。僕としては長い1年でしたけど。
――この1年は長く感じていたんですね。
TAKESHITA  こっちの1年はすごく長かったです。月日が経つのは早いんですけど、AEWってその日の出番があるかどうかわからない状態で毎週会場にいかなければならなくて、最低でも12、13時間は会場で監禁状態になる。そこで試合があったら何ができるか、あるいは試合はなくても出番が来たら何ができるかを考えなければならない。だから体感としてはすごく長い。その中のひとつとして、ジェリコと接触しておくという自分の中のミッションがあったわけです。それを所属になった時からやっていっての1年ですから。では、そもそもなぜジェリコなのかをお話しましょう。まだAEW所属になる前、DDTからアメリカに渡った去年の4月、そこから約4ヵ月武者修行の形でいたんですけど、その4ヵ月をやりきったなー、でも…これは日本にファンに届いているものなのだろうか。アメリカでは認知してもらえたけれど、それがDDTに還元できているのかを考えて不安になった時があったんです。そのタイミングでジェリコが、僕のことを“Future world champion”とツイートしてくれたことがあって、それを見た時に僕のプロレス人生11年の中で一番キツかった4ヵ月が報われた気がしたんです。同時に、そう言ってくれるのであれば何かジェリコとできることがあるんじゃないか、まだ誰もやったことがない…ジェリコが世界的スーパースターになってからも何度か日本に来ていて、常に超スペシャルゲスト的なポジションでしたよね。今の僕なら、対等に闘えるんじゃないかと。超大物vsDDT期待の竹下幸之介ではなく、リングの上であれば本当の意味でイーブンにやり合えると思ったんです。それはアメリカで実現してももちろん話題になることだけど、DDTでできることっていうのが、こうやってアメリカに送り出してくれたDDTへの恩返しになる。そういうことがあって、クリス・ジェリコをDDTに呼びたいという気持ちが固まりましたね。
――ツイートを見た時、ジェリコの中に自分の存在が入っていることを確信できたのは大きかったでしょうね。
TAKESHITA 去年、そういう形でAEWに参戦させてもらいましたけど、2年前にも1週間だけアメリカにいって、AEW Darkで2試合したんです。その時の本当に初めての試合(2021年4月7日、ダニー・ライムライト戦) で入場直前、たまたまバックステージにいたジェリコが「おまえは日本人か?」って話しかけてきたんです。まだ英語を話せなかったから中澤マイケルさんがついてくれていたんですけど「DDTという団体から来たタケシタっていう選手です」って伝えたら、身長がいくつかとか聞かれたあとに「そうか。これから日本のプロレスはおまえが盛り上げていかないといけないな」という感じで。それで「よし、今からおまえの試合を見ておくよ」って言われたんです。
――AEWファーストマッチの直前に、ジェリコに見られるという事態になると。
TAKESHITA  それは嬉しいなと思いながらリングに上がって、試合が終わってバックステージに戻ってきたらここがよかった、でもここが足りないってすぐにフィードバックしてくれて。本当に見てくれたんだ!ってなりましたよね。リング上からも見ている姿はわかったんですけど、自分はすごいところに来たんだなって思いながら無観客の中でやったんです。やっぱり僕は2000年代のWWEを見て育った人間なので、そこへのリスペクト心がすごくあって…いやあ嬉しかったですよね。今でこそプロレスラーになっていますけど、その時ばかりはファン心になりました。


“本家”にウォールズ・オブ・
タケシタを決めるという物語

――19年前の小学2年生だった時、WWE日本公演大阪城ホール大会でトリプルHvsクリス・ベノワ戦を見たことで竹下幸之介はプロレスラーになろうと思ったわけですが、そこにジェリコも出ていました。
TAKESHITA  そうなんですよね。ただ、入場のインパクトが大きかったのでそればかりが記憶に残っていて試合は憶えていないんですよ。
――ランディ・オートンとシングルマッチをやっています。
TAKESHITA  おおっ、いいカードですね。まさに、当時エボリューションとして上がってきている頃のオートンですよね。
――その時に見た選手と19年後に対戦することになろうとは。残念ながらクリス・ベノワとの対戦はかないませんでしたが、同じクリスで同じ時代に生きたベノワの盟友です。
TAKESHITA そんな大阪城からの物語と、もうひとつの物語があって。2012年8月12日のデビュー戦の前に、ビアガーデンプロレスで福田洋(トランザム☆ヒロシ)とエキシビションマッチをやったんです(8・4新木場1stRING)。その時、福田洋がアイアンマンヘビーメタル級のベルトを持っていて、僕が逆エビ固めで勝ったんです。練習生が逆エビで勝つのを見て面白がったヤス・ウラノさんとアントーニオ本多さんが「あれは逆エビじゃない、ウォールズ・オブ・タケシタだ」って言い出して、それが技名になったんです。
――あれは自分発信ではなかったんですね。
TAKESHITA 僕がお世話になった先輩3人の絡みで名前をつけた技を授かって、そこから僕のプロレス第0章が始まっているわけですけど、それをDDTのリングで本家(ジェリコの代表技としてウォールズ・オブ・ジェリコ=逆エビ固めがある)に決めたら物語になるし、またそれをウラノさんや本多さんに見てもらいたいですよね。
――ファン時代にさまざまなWWEスーパースターを見ていた中で、ジェリコだけに抱いていた評価はどんなものだったんですか。
TAKESHITA 僕が生涯一番好きなプロレスラーはクリス・ベノワなんですけど、新日本プロレスでワイルド・ペガサスを知っていて、そのあとWWEを見た時に名前は変わっているけど自分が知っている選手が出ていると思って興味を持った。あとから(2代目)ブラック・タイガーがエディ・ゲレロだということも知って興味を持って、あとWARも見ていましたからライオン道がクリス・ジェリコになっているんだっていう感じで受け取っていたんです。
――日本のプロレスで見たことがあるあの選手がリングネームを変えて出ているという認識ですね。
TAKESHITA なので、WWEを見始めた当初からクリス・ジェリコに対しての関心はありました。ベノワ、ジェリコ、エディは特に竹下少年が好きで見ていた3人ですね。ファン目線ではありましたけど、その頃から単なるアメリカンプロレスではなくどこかストロングスタイル、ジャパニーズレスリングを感じさせる闘いを見せていて、ジェリコは今もそうですよね。僕の理想のプロレスっていうのは、日本とアメリカのプロレスはどっちが上かっていう見方じゃなくてミックスされたものがいいと思っているので、それをうまく体現しているのがジェリコだと、プロになったことでよけいに思います。
――その意味で、自分自身が目指す道筋の一つを示しているプロレスラーだと思いますか。
TAKESHITA  そうですね。日本のプロレスはアメリカよりも優れている部分がたくさんあるとは思いますけど、やっぱり大会場であれほどのお客さんを魅せるという部分では、アメリカンプロレスは必要な要素であり、絶対にそれをないがしろにはできないんですよ。そういう部分でクリス・ジェリコは一流だし、時代ごとに代名詞となるフィニッシャーがあるところも含めて、その時代その時代を創り上げている人間であり続けるあたりが、11年プロレスをやってきた自分が改めてすごいことだと思うんです。
――WWEに限らず新日本プロレス、AEWと時代の流れの中で埋もれることなく最前に居続けているのがすごいですよね。
TAKESHITA  そこで無理をしている感じもないですし、異名やキャッチフレーズも時代ごとに新しいものを生み出しているのも、ジェリコぐらいしかいないんじゃなかって思います。
――いわゆるアップデートし続けていると。メモリーされているジェリコの試合の中で、強く刻まれているものをあげるとすれば何になりますか。
TAKESHITA  ジェリコとショーン・マイケルズの試合がまず出てきますね(2003年のレッスルマニア19)。あとベノワとのクリップラー・クロスフェースとウォールズ・オブ・ジェリコの仕掛け合いの攻防も面白かったし、ラダー上でウォールズ・オブ・ジェリコをやったシーン(巨大ラダーの最上段に相手の腰を当て反らせて絞る)も子どもながらに鮮明に憶えています。日本公演の横浜アリーナでザ・ロックとやった時も統一チャンピオン(WWF&WCW両世界ヘビー級王者)としてやってきて、親に買ってもらっていた週刊プロレスと週刊ゴングに大きく載っているのを何回も読み返しました。その2年後の日本公演で、生で見られたわけですけど。そういう中で、これはマニアックなチョイスになってしまうんですけど2013年ぐらいの「ロウ」でやったジェリコとザ・ミズとウェイド・バレットのトリプルスレットマッチがね、僕がプロレスラーになってから見た中で実は大きな影響を受けているという意味で五本の指に入る試合で、ひとことで言い表すとクリエィティブなんですよ。当時、自分の中でプロレスはこうあるべきだ!って凝り固まっていたものが消化させられたというか。パズルのようにピースとピースがつながっていって、それが見ていてすごく気持ちいいんですよ。
――いい試合、すごい試合とはまた違う気持ちのいい試合。グルーヴ感のようなものですか。
TAKESHITA  確かWWEの公式YouTubeに上がっているはずです。僕もクリエィティブ面ではこだわりを持って試合しているんで、そういう意味ではかなり影響を受けましたね。

あと1年踏み出すのが遅かったら
AEWでのチャンスはなかった

――対戦するにあたり、フィジカル面では自分の方が上という自信があると思われますが、そうではない点で気をつけなければと思っているのはどの部分ですか。
TAKESHITA パワーとかスピードとかテクニックとか、それらをグラフにしたら負けているところはひとつもないです。でも、ジェリコが評価されているのはそういう部分ではないですよね。キャリア、経験を重ねていくことでしか得られない何かなんです。僕がそれを最初に経験したのが、両国の棚橋弘至戦でした(2014年8月17日)。あの時点で線は今より細かったけど、パワーもスピードもなんなら今よりあったんじゃないかっていうぐらいで、もう自信に満ち溢れていてどれだけ動いても疲れないほどだったのが、今まで一回も映像で見られていないぐらいのトラウマで。それぐらい何もできなくて何ひとつ勝てたという要素がなかった試合でした。たぶんジェリコと対戦した相手は、ほとんどがそうなってきているんですよ。その何かに塗り潰され、打ちのめされてきている。僕はアメリカでスーパースターたちと試合をしていく中で、ある日「あっ!」って思ったんですよね。時間を重ねないとどうにもならないことで闘っても勝てないんだと。だから僕は、フィジカルオバケになるしかない。相手をぶん投げ、高く飛び、強烈な打撃を打ち込むという結論に達したんです。
――フィジカル面で度を超すぐらい圧倒的なものを見せれば、時間をかけて作り上げてきたものも凌駕できると。
TAKESHITA  そうです。だからこれからの僕はそれで勝負していくし、ジェリコに対しても同じです。一番自信のあるところで曲げてしまったらなんでもない試合になっちゃうんで。自信を持って言えるのは、KONOSUKE TAKESHITAvsクリス・ジェリコというシングルマッチはフィフティ・フィフティでやれるところに来ている。なぜなら、ケニー・オメガに1週間で2回勝っている男ですから、実績ではジェリコに劣っていない。試合を見たら「TAKESHITAが勝っちゃった!」ではなく「これはTAKESHITAが勝って当然だな」と思ってもらえる存在には、もうなれていると思っています。


(後編につづく)

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