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2023-11-15

【陸上】初心にかえる 九州共立大に学ぶ 競技力向上のための自分自身との向き合い方③ 指導者は選手のプロデューサー

写真/黒崎雅久

シーズンも終盤戦。なかには残り数試合、という選手もいるかもしれませんが、多くの選手が冬期練習に入っていることと思います。さて、冬期“鍛練期”といわれるこれからの期間、「一皮むけてやる!」と意気込んでいる選手も多いのではないでしょうか。技術を積み上げるには土台となる基礎がとても大事です。
「動画の品評会してない?」に続いて、今回も学生投てき界をけん引する九州共立大学陸上競技部の疋田晃久監督に聞いた冬期練習を迎えるにあたってのポイントを紹介します。第三段は「指導者は選手のプロヂューサー」です。指導者の方は、これを機に選手へのアドバイスの送り方を振り返ってみてはいかがでしょうか。選手の皆さんも一方的に指導者からアドバイスをもらって終わり、となっていませんか?

自分の投げは自分しかつくれない

2007年に九州共立大学に着任した疋田監督は、選手を見れば見るほど、また指導者として経験を積めば積むほど、より“シンプルな指導”にいきついたといいます。
「フォームの正解、理想はありません。というか分からない。もっとも極端でシンプルな言い方をすると、投てきはものを動かすことができれば飛びます」
疋田監督が選手にアドバイスを送る上で参考にしているのは物理学。いかに物体を速く動かすか、そのための動きをその選手の持つ身体でどう表現するかを常に考えているそうです。

このような指導に行きついたのには、あるきっかけがあったと疋田監督は言います。2007年に4人でスタートした九州共立大の陸上競技部投擲ブロック。そこから2年後の09年には徐々に活躍の幅を広げ、全国でも入賞する選手が出始めていました。ただ、疋田監督が現役時代専門としていた男子ハンマー投ではなかなか結果を残せず。そんななか、同年の日本インカレの男子ハンマー投の試合中、もともと「型にはめない」指導を心がけていたというなか、それを実践できていないことに気が付いたというのです。

「うちの選手たちは、みんなうまいんです。でも飛ばない。そのときに選手たちが同じ動きをしていることに気が付きました。自分自身の好みの動きを選手にさせていたんです」

「“好みの動き”とは、その人が見てうまいと思う動き」というのが一番簡単で近い説明と言えます。ただ、ひとたび視野を広げると「なんでこの動きで飛ぶんだろう」と感じるいわゆる“好みではない動き”をしている選手がいることにも気が付くはずです。疋田監督の場合、自らが経験していた男子ハンマー投の選手たちに対して、「自分自身の経験則でアドバイスをしたり、選手たちと話していた部分があった」と振り返ります。

頭のなかにある自分自身にとっての“好み(理想)の動き”を目指すことも競技力向上に大切な要素であるといえます。その一方で、そこに執着せず、“物が動いているか否か”というところに意識を置くことで、選手一人ひとりに合ったアドバイスをすることができるのです。
この考え方は、指導者だけでなく選手にも通ずる部分があります。ぱっと見のフォームの好き嫌いにとらわれず、“物体をどうやって動かしているのか”に着目することで、自らの課題へのアプローチも増えるかもしれません。

指導する九州共立大の選手の特徴を「特徴がない。投てきだけを見て九州共立大の選手だ、と分からないのが特徴」と話す疋田監督。大学入学までに培ってきたおのおのの基礎・技術、また個々の持つ身体を生かした動きを伝えることが現在の“シンプルな指導”につながっています。

「結局“自分の投げ”は自分しかつくれない。それをつくる手助けとプロデュースをするのが私の仕事です」

 
※この記事は2022年11月14日発行「陸上競技マガジン12月号」に掲載したものを再編集したものです。

文/陸上競技マガジン編集部 写真/黒崎雅久

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