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2023-11-16

【相撲編集部が選ぶ九州場所5日目の一番】長すぎる駆け引きに場内騒然。立ち遅れを意地ではね返した豊昇龍が5連勝

立ち遅れたが意地で押し返し、豊昇龍が5連勝。全勝を守り、優勝争いの先頭もキープした

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豊昇龍(押し出し)豪ノ山

いや~~~~~~~~、それにしても長かった。

「時間いっぱい、待ったなし」となってから、これほど長く両力士がにらみ合ったまま、というのは初めて見た。
 
結び前の、大関豊昇龍と平幕豪ノ山の取組だ。「待ったなし」の状況になってから、豪ノ山は右手だけをついて相手の動きを待つ状態、一方の豊昇龍は両手をヒザの上に置いたまままったく下ろさず、相手をにらむだけ。これで10秒、20秒……、にらみ合いはそのまま1分を超え、約80秒にも及んだ。

この体勢のまま、約80秒のにらみ合い。いやはや長かった。右・豊昇龍、左・豪ノ山
この体勢のまま、約80秒のにらみ合い。いやはや長かった。右・豊昇龍、左・豪ノ山
 
結局待ったで仕切り直し。この珍事に場内は騒然、客席からは「何やってんだ」の声も飛ぶ。しかし2度目もなかなか合わず。しばらくしたのちにようやく立ち合ったが、挙げ句、やはり2人の呼吸にはずれが生じて豊昇龍が立ち遅れる形になった。
 
豪ノ山の右ノド輪、左おっつけで攻め込まれた豊昇龍だが、ここは意地でも負けられないところ。持ち前の柔らかさで攻めに耐えると、豪ノ山が引いたところを一気に逆襲に転じて押し出した。
 
ほかのスポーツとは違って、第三者の合図でスタートするのではなく、2人の力士が互いの呼吸を読みながら、息を合わせて競技を始める、という独特のスタイルを持つ相撲。「阿吽の呼吸」で両者の息がぴったり合えば、それはそれは美しい立ち合いとなるが、互いに生活が懸かったプロの土俵では、やはり「どちらが自分の呼吸で立つか」という駆け引きがあり、その意識が強すぎると、この一番のようなことも起きる、というわけだ。
 
このあたり、実際に土俵でやった経験のない身としては、細かいことは分からないのだが、聞くところによると、手を先につきたい派がいれば、後につきたい派もいたり、またそれこそ吐く息、吸う息の呼吸もあるので、単純に手をつく後先だけの問題でもなく、立ち合いの駆け引きとは、本当に難しいものらしい。まあ、いずれにせよどちらかの力士の動きが、最終的に両者が立ち上がるトリガーというか、合図にはなるはずなので、そこで主導権をどちらが取るか、ということではあるのだろう。

「ちょっとアツくなってしまった。相手は手をついて待っていたが、自分が集中することを考えていた」と豊昇龍。取組後には審判部に呼ばれて注意を受け、「大関なんだからしっかりしなさいと言われました。自分が悪いところがあったかもしれないですね」と反省。まあ、相手も変わることだし、あす以降にやりにくさが残る可能性は低いと思うが、さてどうなるか。何はともあれ、5連勝したことには「悪くはないです。しっかり一番一番集中していきます」と大関。優勝争いを引っ張る立場を、このままずっと続けていけるか。
 
この日は、4日目までの全勝力士では、この日39歳の誕生日を迎えた玉鷲に土がついたが、一山本はこの日も一方的な突き押しで、先場所の成績ですっかり自信をつけた熱海富士はこの日もサッと左上手を引いての寄りでと、ともに文句なしの内容で全勝を守った。注目の関脇同士の全勝対決は、琴ノ若の肩透かしで予想外のあっさりした決着。大栄翔が1敗に後退した。貴景勝、霧島の大関陣は1敗をキープ。昨日、優勝戦線に立った波風も、この日は少しおさまった感が。
 
とはいえ、あす6日目はまた波乱の目を秘める取組が。注目は、何と言っても貴景勝と翔猿戦だ。このところ5連敗と大の苦手としている相手。その素早い動きを大関がどのように封じていくか。ギリギリの戦いが続く綱取りの行方も絡み、目の離せない一戦になる。

文=藤本泰祐

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