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2023-09-24

【相撲編集部が選ぶ秋場所千秋楽の一番】貴景勝、ここ一番の集中力! 本割、決定戦と勝って逆転V

優勝決定戦。立ち合い一瞬の変化で熱海富士を叩き込んだ貴景勝。負けられないという重圧を乗り越え、優勝をつかんだ

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貴景勝(叩き込み)熱海富士

二転三転、盛り上がった場所としては、最後はあまりにもあっけなかったが、大関として負けられない貴景勝が、熱海富士を13日目の本割に続いて降し、4回目の優勝を決めた。
 
本割で熱海富士が朝乃山に敗れて優勝決定のチャンスを逃し、4敗勢でただ一人、この日の本割で勝った貴景勝との優勝決定戦。
 
朝乃山戦ではちょっと緊張しているように見えた熱海富士が、今度は落ち着いた感じで、立ち合い思い切りぶつかっていったのだが、そこに大関はいなかった。貴景勝は立ち合い、左に動くと、右手で相手の首の後ろを抑え、左はイナすような形での叩き。熱海富士はたまらず転がり、優勝の行方は一瞬にして決した。

「右差しを徹底して封じようと思ったので。ああいう形で決まるとは思わなかったんですけど」と大関は言ったが、番付も、積んできたキャリアも全く違う若手に「絶対負けられないという、そういう気持ち」で戦っただけに、”名より実を取った“というところだったのだろう。ファンとしては拍子抜けしたが、まあこれも相撲だ。
 
それにしてもこの日の本割。熱海富士と貴景勝の2番とも、きのうこのコラムで書いた予想は見事に外れた。相撲というのはホントに難しいものだ。
 
熱海富士-朝乃山戦は、左上手を先につかんだほうが絶対有利、と予想したが、熱海富士は自分だけが上手をつかみながら敗れた。朝乃山が立ち合い直後に左からおっつけて熱海富士の体を起こしたのが効いた。朝乃山は立ち合いからの勢いを生かし、廻しを取らずに体を突きつけるようにして攻め切ってしまった。熱海富士は仕切りでもいつものルーティーンがしっかりできていないようにも見え、かなり緊張していたようで、動きが硬かった。そこまで緊張するというのも計算外だったが、さすがに熱海富士も人の子だったといったところか。
 
そして貴景勝-大栄翔戦。今場所は大栄翔にチャンスがあるかと思ったが、過去の対戦成績どおり。相手の立ち合い変化を考える必要のないときの大関の強さを見せつけられた。
 
きのう豊昇龍に裏返されて、土俵に腰掛けぼう然とした貴景勝の印象が強すぎたのかもしれない。「今場所、もう一回気持ちをピークにもっていくのは難しいのでは?」と勝手に考えてしまったが、大関の精神力の強さはそんなものではなかった。常に、勝っても負けても、その結果に一喜一憂することなく「また、あしたの準備をするだけ」と“前後裁断”の気持ちで臨んでくる大関は、しっかりと千秋楽へ向けて気持ちを作ってきていた。
 
1月の優勝から、綱取りの3月に途中休場、5月にギリギリでカド番脱出、7月はヒザの故障の回復に充て全休、そしてこの9月にカド番で優勝と、まるでジェットコースターのような一年を送ってきた貴景勝。今場所が11勝での優勝なので、どこまで気運が上がるかということはあるが、次の11月はまた綱取りの話題が出ても不思議ではない。
「7月に、“夢の横綱に向かって、どうしたらいいのか”と考えてきた。9月である程度の成績が残せたので、(それは)無駄じゃなかった。夢に向かって、あしたからまた、11月場所へ一生懸命備えたいと思います」と大関。“何があっても、次に向かってしっかり備えるだけ”という心持ちは、やはりここでも変わらない。前後裁断の集中力で夢をつかみ取る姿が、九州で見られるか。

文=藤本泰祐

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