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2023-11-24

【相撲編集部が選ぶ九州場所13日目の一番】平幕の熱海富士が2敗を守り、14日目に霧島との対決へ

髙安を押し出し、2敗をキープした熱海富士。先場所あとわずかで逃した賜盃を今度こそ手にできるか

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熱海富士(押し出し)髙安

強い。思っていたよりもずっと強い。

この日、2敗を守った熱海富士だ。この大きな力士に頭をつけるような形でこられては、さしもの髙安もどうしようもなかった。

場所終盤の優勝争いの中、この日も熱海富士は落ち着いた相撲を見せた。立ち合い、髙安のカチ上げにも当たり負けせず、むしろ押して出た。そのあと右差しを許すが、頭をつけて上体を起こすことは許さない。髙安が左を巻き替えにいって一度体が離れ、そのあと髙安が浅いモロ差しに。それでも熱海富士は頭をつけ、容易には攻めさせない。そこから左に回って叩きにいったところは一瞬危ないかと思われたが、熱海富士はこれで体を入れ替えると、少し体が離れたところで、左で相手の胸を押して押し出した。

「勝ててうれしいです。前に出られた。いつもどおりです」と熱海富士。

決定戦に進出した先場所に続き、優勝争いに名を連ねる熱海富士だが、今場所は先場所にも増して内容がいい。この日もそうだったように、常に前傾姿勢で相撲が取れているのが何と言ってもいいところだ。場所の前半は左上手をサッと引く相撲が目立っていたが、場所の後半に入り、立ち合いに上手が引けなくても、それにこだわらず、前傾姿勢を保って攻める相撲が見られ、それが白星につながっている。しっかりと前に圧力がかかっていることで、相手に十分な攻めを許すことが少なく、万一、豊昇龍戦のように攻めを許す展開になっても、今までより対処する余裕が増えているようだ。このコラムでは、10日目の時点で「どうやら今場所は三役同士の優勝争いになるか」と書いたが、これは完全に熱海富士の強さを見誤っていたようだ。

このように前傾姿勢で戦えているところが今場所の熱海富士の強さ。あすの霧島戦も上体を起こされることなく戦いたい
▲このように前傾姿勢で戦えているところが今場所の熱海富士の強さ。あすの霧島戦も上体を起こされることなく戦いたい


もしかしたら筆者のみならず、審判部も「(12日目に)豊昇龍が止めるだろう」と思っていたのかもしれないが、熱海富士が2敗を守り続けていることで、今場所は14日目の割も、いつも千秋楽の割でやっているように、幕内取組後に発表される形に変更される事態に。その結果、14日目に、同じく2敗を守った霧島と熱海富士の直接対決が組まれた。これにより、この日4敗に後退した一山本と琴ノ若は優勝圏外に。琴ノ若はこの日の黒星で、今場所後の大関もなさそうな感じになった。

さてそうなると、まずは14日目の直接対決がどうなるか。今場所の2人の相撲を見ると、そのカギは両者の上体の高さにあるような気がする。

どうしても負けられない霧島は、琴ノ若戦と同様、相手が平幕だろうがなりふり構わず、相手の上体を起こして頭をつけ、廻しを浅く引いて攻める形を目指すだろう。熱海富士は、それを許さず、この日の髙安戦のように上体を上げずに、霧島がじれるところまで耐えられるか、という勝負になるのではないか。右差し、左前ミツを狙って立つ熱海富士に、霧島が琴ノ若戦のようにいったん突き起こすような立ち合いを見せるかどうかも注目だ。

2人は初顔合わせ。力としてはもちろん大関の霧島のほうが上回っているだろうが、今場所の熱海富士は、霧島と言えどもそう簡単に攻め切れるとも思えず、あるいは、というムードも漂う。

2場所連続の優勝争いには「まあ、どうなんですかね。(大関戦が予想されるが)みんな強いんで自分はあまり変わらないです」と熱海富士。12日目の取組後には「初めての結びで緊張したか」と問われて「先場所、決定戦をしたのであまり」と答えており、先場所、優勝決定戦で勇んで頭を下げ過ぎる形でぶつかっていったときとは、もはや経験値で格段の差があると言っていい。

一方の霧島。この日、大栄翔に勝って年間最多勝争いで単独トップに立ったことでも分かるとおり(まあ横綱が体調万全で出てくれば別かもしれないが)、現在実力ナンバーワンの力士だと言って差し支えなく、あすはそれを証明する土俵になるが、それだけに、先場所の優勝決定戦の貴景勝と同様のプレッシャーがかかってくる可能性もあり、そのあたりがどう出るかもポイントになりそうだ。

文=藤本泰祐

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