close

2024-03-14

【相撲編集部が選ぶ春場所5日目の一番】「もう一人のサラブレッド」王鵬が横綱初挑戦で金星!

王鵬は徹頭徹尾攻めて、堂々と横綱を寄り切り、初挑戦での金星。この1勝を飛躍のきっかけとしたい

全ての画像を見る
王鵬(寄り切り)照ノ富士

「絶対に組まない、引かない」。そんな思いがにじみ出るような相撲だった。左からはノド輪と突き、右からはおっつけ。そして最後に右を差したときには、もう横綱は体勢が崩れ、残す腰はなかった。
 
横綱初挑戦、結びの一番を取るのも初めてという王鵬がやった。照ノ富士を堂々と寄り切っての金星だ。
 
立ち合い、いい角度で当たるとまずは左おっつけで相手の右差しを嫌うと、左からのノド輪と突きで徹底的に相手を起こした。照ノ富士がそれではと左を差しに来るところを、今度は右からおっつけて土俵際に追い込む。苦しくなった横綱が何とか左から抱え込もうとしてきたところで右を深く差し、土俵際の小手投げにも動じず寄り切った。

「突き放して、離れて取りたかった。しっかり攻められたので良かった。すごくうれしいですね」と王鵬。きのう照ノ富士を破った明生と同様、これも思い描いていたとおりの会心の相撲だったことだろう。
 
今場所は、相撲部屋の「三代目」として育ち、ついに大関を手にした琴ノ若が話題を集めているが、「祖父が横綱、父が関脇」という境遇は、この王鵬も同じだ。祖父はあの大横綱大鵬、父は元関脇の貴闘力。自己最高位の東3枚目に上がり、初の上位陣総当たりとなる今場所、いよいよ「もう一人のサラブレッド」に覚醒のときが来たか。
 
これまでは攻めにやや決め手がなく、攻めきれずについ引いてしまうような相撲が多いきらいがあったが、まじめに稽古に取り組み、攻めの力が磨かれてきたことで、この日のように攻めを中心とした形に相撲っぷりが変わってきた。こうなれば191センチ、176キロの体がより生きてくるはずで、ここから一気に本格化する可能性もある。
 
10日目まで9勝1敗で優勝争いを引っ張った一昨年の11月場所も終盤崩れて手にできなかったため、三賞受賞はまだないが、このあとさらに上位を食って勝ち越せれば、今度こそ初の三賞のチャンスもあるはずだ。
 
一方、敗れた照ノ富士は3敗目でついに黒星先行。取組後には少し右ヒザを気にするそぶりを見せていたが、体調に加えて、これで気持ちが切れてしまわないかが気がかりだ。目標としている二ケタ10回目の優勝を気持ちの支えに、故障を抱えながら土俵を務めている横綱だけに、優勝という目標が遠のいてしまったときに、なお強く気持ちを保っていけるかどうか。また途中休場ということにならないか、ちょっと心配になってきた(まあ、もし照ノ富士が休場となった場合も、その分、大の里の上位戦が増える可能性が高まるという楽しみもないわけではないが……)。
 
優勝争いのほうは、この日は阿炎が錦木を攻めきれず、土俵を飛び出しながら苦し紛れの突き落としという相撲ながら、執念で残して九死に一生。大の里は金峰山の休場で不戦勝、尊富士は動きの速い時疾風を右からガチッと抱え、左を差して出るという考えた相撲で、それぞれ全勝をキープした。
 
大関陣は、琴ノ若が腰を引いた相撲で宇良の肩透かしを食い2敗目、貴景勝も熱海富士に押し出されて2敗目を喫した。霧島はようやく初日を出し、豊昇龍は朝乃山を下手投げで転がして1敗を守った。
 
豊昇龍はこの日も、立ち合いだけはしっかり当たり、その貯金を生かして投げで勝つ、という内容だったが、状況的には横綱・大関陣では相対的に一番の存在に。ここからは小結以下の力士との優勝争いとなっていく可能性も高いが、番付の威厳を示せるか。
 
阿炎はあす6日目は琴ノ若との対戦。小結という地位から考えると、豊昇龍戦、あるいは照ノ富士戦も中盤戦で組まれる可能性が少なくない。このあたりを何勝何敗で乗り切れるかが、まずは場所中盤戦の焦点になりそうだ。

文=藤本泰祐

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事