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2024-03-23

【相撲編集部が選ぶ春場所14日目の一番】尊富士が2敗目を喫した上に右足を痛め新入幕Vに暗雲

尊富士は朝乃山に一方的に敗れて優勝を決められず。さらにこの取組で右足を痛めたようで、新入幕優勝の快挙には一気に暗雲が垂れ込めてきた

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朝乃山(寄り切り)尊富士

大変なことになってきた。
 
予想だにしなかった展開だ。この14日目にも、110年ぶり(大正3年〈1914年〉5月場所の両國勇治郎以来)の新入幕優勝を見せてくれるかと思われていた尊富士が、朝乃山に右四つに組み止められて完敗。優勝を決めることができなかったばかりか、この取組で右足を痛めて千秋楽の出場が危ぶまれる事態になってしまったのだ。
 
まずは朝乃山との一番を振り返ろう。尊富士はこの日も低く当たったが、朝乃山は右を固めて差し勝った。すぐに右四つ。朝乃山は少し押されたが、右の差し手で掬って寄り返すと、そのまま左を抱え、右で下手を探りながら出た。立ち合いの勢いを止められた尊富士は何とか左右に振って相手をかわそうとするが、その中で右ヒザが外から内に不自然に入るような動きが。おそらくそこで右足のどこかを痛めたのだろう。尊富士はそのまま抵抗できずに寄り切られた。

「少しでも立ち遅れると相手のほうがスピードが速い。立ち遅れないようにと意識した。右がうまく入った」と朝乃山。今場所初めて一方的に攻められて敗れる形になった尊富士だが、実は立ち合いに右四つ得意の相手にスパッと入られてしまったのはこれが初めて。大の里戦は左からうまく突いて相手の右差しを防いだが、それができずに一方的に敗れたこの日の一番は、あるいは、「右をしっかり固めて差し勝てば相手にチャンスあり」という弱点を初めて見せた一番、と言えるかもしれない。
 
取組後、足を引きずって土俵を下りた尊富士は、花道の途中からは車イスで運ばれ、下がっていった。果たして右足のケガはどの程度か。外から見た印象だけだが、少なくとも「あしたになればなんとかなるかも」という程度のものではなさそうだった。
 
この時点で、俄然優勝への可能性が膨らんできたのが3敗組の豊昇龍と大の里だ。14日目、千秋楽と連勝すれば尊富士と並び、優勝決定戦になった場合でもまず負ける展開はない(ただし、豊昇龍と大の里の対戦はまだ終わっていないので、2人とも連勝するケースは考えづらい)。
 
尊富士が土俵を下りた直後の一番、大の里は阿炎を落ち着いて叩き込み。まず3敗を守った。しかし豊昇龍は結びの一番で、右からの投げを打ったところを琴ノ若についてこられて寄り倒され、4敗目を喫して無念の脱落。この時点で優勝の可能性があるのは尊富士と大の里に絞られ、ちょんまげ力士かザンバラ髪力士、いずれにしても「大銀杏を結っていない力士の幕内優勝」という事態は確定した。
 
取組終了後、千秋楽の割が組まれ、大の里は豊昇龍、尊富士は豪ノ山との対戦が組まれた。
 
優勝争いの展開としては、まずは尊富士が千秋楽に出場できるかどうかが焦点。休場となった場合、大の里が豊昇龍に勝てば、優勝決定戦に不戦勝で逆転優勝ということになる。大の里が本割で豊昇龍に負ければ尊富士の新入幕優勝となるが、相手が格上の大関なので、この可能性も十分にあるというのがまた何とも大変なところだ。
 
尊富士が無理して出場した場合には、不戦敗にはならないので、自力でV決定の可能性はゼロではなくなるが、現実問題として勝てるとは思えないので、実質的にはやはり大の里と豊昇龍の対戦に優勝の行方がかかってくるといえるだろう。
 
尊富士が休場しながら優勝となった場合は、表彰式がどのような形になるのかもまたよく分からないが、何にせよ、この場所が「前代未聞の場所だったなあ」と、われわれファンの記憶に刻みつけらることになるのだけは間違いなさそうだ。

文=藤本泰祐

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