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2024-04-12

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第17回 「三賞」その4

平成28年名古屋場所千秋楽、敢闘賞を獲得した宝富士は、関脇昇進が懸かる栃煌山戦で変化して勝利も、師匠に叱られた

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令和2年7場所は4カ月ぶりの本番でした。
1場所飛ぶって、大変なことなんですね。なにもかもが異例尽くめ。
力士たちも戸惑うことが多く、あちこちでため息や、ボヤキが渦を巻いていました。
優勝力士や、三賞受賞者の晴れやかな顔を拝めるのも久しぶりです。
まあ、優勝力士は別格ですが、三賞に輝いた力士たちの晴れやかな笑顔にはなつかしさを感じます。
泣き笑い、と言ってもいいでしょう。過去の三賞力士たちもそうでした。
えっ、もう一度、そんな声を聞いてみたいって? 
分かりました。それでは玉手箱のフタを開けてお届けしましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

欲に駆られて変化

三賞を受賞すれば師匠をはじめ、まわりから、「よくやった」「おめでとう」などという賛辞を浴びることになる。初めての三賞であれば、なおさらだ。ところが、中にはこんな目に合う力士も。
 
平成28(2016)年名古屋場所の西前頭2枚目の宝富士はまるで一皮むけたようだった。積極的な攻めで初日に大関豪栄道(現武隈親方)を破ると、4日目には大関琴奨菊(現秀ノ山親方)、5日目には連勝を33まで伸ばしていた横綱白鵬(現宮城野親方)まで食って派手な旋風を巻き起こしたのだ。
 
もちろん、勝ち越せば三賞間違いなしの状態で、10日目に早々とその勝ち越しを決め、千秋楽の三賞選考委員会であっさり敢闘賞受賞が決まった。これが初三賞だったが、この場所の宝富士はこれで満足してはいられなかった。千秋楽、栃煌山(現清見潟親方)に勝ってもう一つ勝ち星を伸ばし、二ケタに乗せれば、自己最高位の関脇昇進の可能性が出てきたのだ。
 
滅多にないチャンスだった。負けるワケにはいかない。宝富士の気持ちがあやしく揺れ動いて当然だった。軍配が返ると、それがモロに出た。なんと右に大きく変わって叩きこんだのだ。
 
これで敢闘賞プラス初の関脇昇進も決定的。花道を引き揚げる宝富士の足取りは軽かったが、通路で師匠の伊勢ケ濱親方(元横綱旭富士)に会い、全身が凍り付いた。祝福の言葉どころか、立ち合いの変化を厳しくとがめられ、

「何やってんだ。そんな相撲で上でやれるのか」
 
と大きな雷を落とされたのだ。支度部屋に戻ってきた宝富士は、

「殴られるかと思うぐらい怖かった。(敢闘賞は)うれしいけど、心から喜べない」
 
としょんぼりしていた。
 
目先の欲に駆られては大成できない。師匠はいつも大きな目で、遠くを見ているんですね。

月刊『相撲』令和2年8月号掲載

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