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2024-06-14

【連載 大相撲が好きになる 話の玉手箱】第20回「予兆」その2

平成27年名古屋場所後、十両陥落が決定的になった旭天鵬は引退会見を開いた

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やっぱり新型コロナ禍のせいでしょうか。
それとも単なる偶然か。
最近は、まったく先が読めなくなりましたね。
たとえば優勝力士です。
令和2年秋場所、正代が優勝するって、誰が予想しましたか。
その前の照ノ富士も、そうです。
でも、勝負の世界に生きる力士たちの第五感というか、察知能力はたいへんなものです。
多くの力士たちがいち早く変化の兆しを感じ取り、その対処法を講じます。
そうしないと、生き馬の目を抜くこの世界では生き残れないんですね。
そんな兆しや予感にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

特盛で胃もたれ

力士にとって、食べることは稽古と一緒。人一倍、大きな体を作るためにも、相手を圧倒するエネルギーを生むためにも重要な要素だ。食えなくなったらおしまい、と言ってもいい。
 
年6場所制になった昭和33(1958)年以降、最も高齢の幕内力士は旭天鵬(現大島親方)の40歳10カ月だ。平成25(2013)年の夏、この旭天鵬は若い力士たちを連れて夜の街に飲みに繰り出した。暑気払いだった。ご機嫌で酔い、帰りがけになじみの牛丼店に立ち寄り、特盛を注文した。いつもの締めのメニューだった。もちろん、完食。すると、翌朝、みごとに胃がもたれていた。

「いやあ、驚いたよ。それまで何を食っても、胃もたれしたことはなかったんだ。年だね。思わずそばにいた付け人に頼んだよ。オレが食いたいと言っても、特盛だけは止めてくれってね」
 
と旭天鵬は苦笑いしていたが、もしかすると人間は内臓から年をとるのかもしれない。
 
旭天鵬がその長い現役生活にピリオドを打ち、引退したのは、2年後のことである。

月刊『相撲』令和2年11月号掲載

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