close

2024-08-21

青木真也がDDT最高峰のベルトを欲する理由。「もっとギクシャクしていいと思うんです」【週刊プロレス】

7・21両国国技館のメインでMAOを退けKO-D無差別級王座防衛を果たした王者・上野勇希から、その場で次期挑戦者の指名を受けた青木真也。総合格闘技と並行する形でDDTのリングに上がり続けてきたが、今回が4度目のチャレンジとなる。今、プロレスのリングで青木を突き動かしているものはなんなのか、直撃した(聞き手・鈴木健.txt)


上野なら恥をかいてもそれを

転がすと信じているからやる


――青木選手は過去に3度、KO-D無差別級王座に挑戦しておりますが、DDTのリングに上がる中で無差別級ベルトの位置づけはどういったものになっているのでしょうか。

青木 まったく無視しているわけではなく、獲れるんだったら挑戦したいベルトですけど、いかんせん僕は所属じゃないから、外様としてなかなかチャンスが回ってこないのも構造的に理解していますから。まあ、視界には入っているけれども僕が挑戦するのはあんまりなかったですよね。

――3回中2回はいつでもどこでも挑戦権を持っていたから実現した形で、自身から動くことはなかったですよね。

青木 なかったです。また、竹下にも樋口にもしっかり負けていますし。ただ期待や希望は持ち続けてまいりました。

――シンプルに“ほしい物”ですか。

青木 ほしいかいらないかで言ったらほしいです。ただ、今の上野が持っているベルトに価値があるかはわからない。今、中で回っているベルトじゃないですか。すごくドメスティックなベルトだと思っているから、その意味では価値があるかはわからない。

――それでもほしいと思えるのは、どこに価値を見いだしているのでしょう。

青木 一つ、価値を上げられる。価値を上げることができる。僕だったらできる。あとは、これを使ってやりたいことがいくつかあって。

――自分の中に温めていたものがあると。

青木 自分自身というか、やっぱり…みんなが中嶋(勝彦)-遠藤にフタをしているじゃないですか。誰も触れない。それは会社の意向なのかもしれないし、自分たちが目指す主義主張に反するのかもしれないけど、僕はやり返さなきゃいけないと思っているから、闘いである以上は。プロレスが闘い、競い合いであるっていうことであれば僕は無視しちゃいけないと思うんですよね。上野ですら遠藤本人ですら、秋山準ですらフタをしている。その実情を見て、俺だったらフタをしないことができるからという気持ちがあります。

――GLEAT7・1TDCホール大会で、鈴木裕之社長に中嶋選手との一騎打ちを要求していましたが、根底にその思いがあったからだったんですか。

青木 それがあったからというよりも、GLEATの世界線だと今頂点である中嶋勝彦とやりたいというのは心情として当然だと思うんです。ただ、DDTのベルトを獲ることによって、よりやる理由がつきますよね。逃がさない理由ができる。

――DDTの最高峰という意味で獲りたい意識はあるのでしょうか。

青木 もちろん。僕が頂点に立つと活性化できると思います。それによって黙っていられないと思う人も出てくるだろうし、こういうことやっていいんだってみんなも思うだろうし。ぬるま湯というか、温かい心地よい環境を壊すからこそ元気になるんじゃないですかね。

――青木選手の中でDDTをこうしたいという意志があるんですね。

青木 はい。僕はもっとすごくいいリングだと思うんですよ。もっとギクシャクしていい。

――確かに観客も含めて心地いい場所としては確立されています。

青木 そう、心地いいんですよ、メチャクチャ。そこは否定しないです。ただ、おまえたちがやっていく中でそこだけでいいのかという気持ちがあります。

――今回は、上野選手の指名を受けて挑戦するわけですが、いつか来ると予測していましたか。

青木 やりたいんだろうなという気持ちはすごく感じていました。でもそれは上野だけじゃなく全員がそう感じていると思うんで。なぜかというと、僕がよくも悪くもプロレスが下手だから、ギクシャクするかなじまないか自分だったらどういう試合になるんだろうと思って、やりたがる人がいるんだと思います。

――ただ上野選手の場合は、青木選手に対する思い入れを何度となく言葉にしてきました。そこは他の選手と距離感が違うのでは?

青木 上野勇希に「なりたい」という気持ちが強いんだと思います。上野勇希は上野勇希になりたい、上野勇希を作りたいという意識が感じられるので、俺だったら引き出してあげられる自信があります。おまえのやりたいことをやらせてやるよ、そして恥かかせてやるよ。

――影響を受けた対象だからこそ、どこかでそれを超えなければ呪縛に囚われて先に進めないと思っているようにも見えます。

青木 それなら恥をかかないと。何かのきっかけがなければ、恥さえもかけなくなると思いますよ。

――立場的に恥をかけないという現状もあるでしょう。それでも…と。

青木 僕は上野を信用していて、恥をかいてもそれを転がし、こやしにして自分の物語に踏み込めると思います。

――この一戦はどちらかというと上野選手の物語ですが、青木選手の中にはなんらかの物語はあるんでしょうか。

青木 物語は、獲ってからじゃないですか。俺はこれ(ベルト)が必要だし、また一つの集大成としてやり甲斐を感じています。

――シングルのタイトルとしてはDDT EXTREME王座を2度戴冠していますが、位置づけは違ってきますよね。

青木 懸けている気持ちから違います。

――上野選手に対し「存在を懸けてこい」と言っていましたが、今までその姿勢は見えていなかったのですか。

青木 まったくないです、まったくないです。まったくないし、本当にプッシュされた時には変えられないと思います。プロモーションに耐えられない。ハリボテ。ただ、今そうであることを晒して、あいつは強くなったり転がしたりすることができると思っているから安心して潰しにいく。

――青木選手は誰もかれも潰しにいっているわけではないですよね。しかるべき相手にしかやらない。

青木 だって、死んじゃうもん。現に遠藤は死んじゃったでしょ、存在という意味で。それでも晒していく必要があるんだけど。でもあいつは大丈夫。すごく信頼しています。

――その点に関しての上野勇希という人間の強さは感じていると。

青木 感じています。信用しているし信頼している。そもそもが、存在を懸けるとか自分がやりたいことをやるというのをちゃんとわかっている人だから。多くの人はわかっていないからお客さんと歩調を合わせようとする。それを彼は、自分が描くものがあるというのをわかっていますよね。

 

青木真也を下手なままでいさせて

くれるDDTに感謝しています

 

――DDTのリングに上がって6年が経ちますが、その中でプロレスに向き合うことへの影響は及ぼされていますか。

青木 僕の人生を彩ってくれた、豊かにしてくれたものです。確実に自分が何かをやる時に影響を受けています。

――それは、プロレスのリングとして初めて上がったIGFとは違う感覚ですか。

青木 IGFは本当に先が読めないというか、気が抜けないというか、プロレスの一部としてIGFがあったと思いますけど、DDTもGLEATもプロレスの一部だし、もっと言うと格闘技もプロレスの一部だと思ってやっているんで、その意味では多大な影響をいただいていますよね。

――ものの見方も変わりましたか。

青木 面白くなったし、本当に幅が出たと思います。やっぱり(マッスル)坂井さんやディーノさんとやらせてもらったり、クリスや竹下、樋口とやったりすると学び、気づきがすごく多いですね。

――青木真也というものが確立されているにもかかわらず、その先があったんですね。

青木 そう、面白いですよね。自分で言うのもアレですけど、ちゃんと青木真也は青木真也のままだし、下手は下手なままいられるのがいいんだと思います。これでDDTやGLEAT的なプロレスに完全に合致しちゃったら、僕がやる意味ないじゃないですか。下手にさせてくれたDDTに感謝しています。

――語弊があるかもしれませんが“異物”でいいと。

青木 異物です。これからも変わらないし、僕が上野に言った「上手だね」はバカにしているけど、僕は今回もこれからも下手なままでいくし、整っていないプロレスで、それこそ「ちゃんとプロレスしようぜ」じゃないですか。

――ちゃんとプロレスをやる中で青木選手はどんな充実感、達成感を得られているのでしょう。

青木 (少し考えて)相手が立った時。相手が自分を出した試合によって上がっていったらよかったなって思えますね。

――そこは自分がどうなるではないんですね。格闘技を続ける中では自分をいかに目的、目標に持っていくかという個の価値観だったと思います。

青木 格闘技では自分のものを出せばいい。語弊はあるけど、勝てばいい。自分のエゴのものだったのが、プロレスは調和のものという極めて日本的な文化ですよね。相手と一緒にやって、相手も上げていくっていうのは、自分が生きていく上で強くなるというか、学びが多いから。そういう意味でいうと、勝ち負けってすごく大事でこだわっていることなんですけど、徹底して勝ちにこだわったゆえに、勝利が手からこぼれ落ちて相手が上がっているのって、それでもやり甲斐がある仕事だと思うんです。

――調和というものにちゃんと価値を見いだしながら、今回は潰すという言葉を使ったり存在を懸けろと言ったり、ある意味相手の光を消すことをやろうとしているわけですよね。それを両立させようとしているのが面白いと思います。

青木 それは短期の話じゃなくてここで潰すことが、彼が上がることにつながるかもしれないから。最終的に上がればいいと思っています。

――逆にDDTのリングで怖いという感情を抱くことがありますか。

青木 ありますよ。竹下にギブアップを獲られたアームロックも、樋口のヘッドバットも。こいつらいつもはチャラチャラしていても、ちゃんとやってもやるじゃんみたいな怖さはあります。ディーノさんや坂井さんのように、プロレスという競技的には潰されなかったとしても、存在とか自分の価値が一気に食われる可能性もあるじゃないですか。こええなあって思いますよ。

――それがあるとないとでは、このリングでの向き合い方はまったく変わってきますよね。ちゃんと怖さが自分の中にあると。

青木 もうちょっと、なんか適当にやっていると思いました?

――いや、どんな相手でも自分の世界観を描いている通りに体現しているように見えていたので、キッチリと怖さを認識できているのが意外だったんです。

青木 まあ、ベルトを獲ったらどこかで橋本(千紘)とやりたいですけどね。やられているから。

――あの試合も、見る側としては本当にいいモノを見せてもらったという思いでいっぱいになったんです。観客の皆さんも、そうだったと思います。

青木 僕は、サイコーに楽しかった。でも、鈴木秀樹からすぐ「おまえが合わせるって、しょっぱいな」と連絡が来ました。僕は、僕が正しいと思うからいいんだと思っています。

――一つの答えとして、現場のお客さんのリアクションがあると思います。ドメスティックならなようにするというのは、外に向けても発信していくことでしょうか。

青木 それが大事なことだし、よくも悪くもこういう座組の中で所属の選手はできないですよね。俺しかいないんじゃないかって。
タグ:

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事