3月31日の両国国技館で山下実優を撃破して第14代プリンセス・オブ・プリンセス王者になった渡辺未詩。年内に山下が持つ最多防衛記録V10に次ぐV5を成し遂げ、年明け1月4日の後楽園ホールで瑞希の挑戦を受ける。アップアップガールズ(プロレス)としてリング外の露出も目立った未詩に瑞希戦、2025年を聞いてみた。(聞き手/小佐野景浩)
要らない大人になっていた部分を開放できました
――まずは実り多かった2024年を振り返っていただきたいのですが…。
未詩 2024年は「ベルトとともに強くなって、チャンピオンにふさわしくなりたい!」って、前へ前へとしがみついていた年でしたね。ただ強いだけじゃ、プリプリの王者としては成り立たないと思うので、 そういう意味では常にしがみついてギリギリの状態でチャンピオンだったなって思っています。
――9・22幕張メッセにおけるプリンセスカップ覇者の水波綾との4度目の防衛戦が節目になった印象があります。限界を超えた先の勝利というか、ファンが「東京女子のチャンピオンは渡辺未詩だ」と改めて感じた試合だったように感じました。
未詩 7月のリカさんとの3度目の防衛戦までは「みんなに私が今チャンピオンだっていうのをちゃんと見せなきゃ!」みたいな、ある意味で自分の方がチャレンジャーみたいな気持ちだったんですけど、 水波さんとの試合を経て、新たなスタートラインに立ったような。夏までは「私がチャンピオンで大丈夫かな?」とか「周りにも心配されてないかな?」って。
――初防衛戦が中島翔子、次がバートビクセン、辰巳リカ、そして水波…挑戦者が先輩と外国人選手でしたから、気持ちはチャレンジャーですよね。
未詩 強さって意味では、少しずつ練習とか筋トレとか日々の積み重ねで、自信を付けられるように何年もやってきたし、防衛を重ねるたびに増していったりしたから、自信はあったんですけど、それ以外にチャンピオンに必要な気持ちだったり、王者としての立ち振る舞い…そういう部分で不安だったのが、試合を通して水波さんにも私がチャンピオンだっていうことを、見てもらうことができたと思います。普通に考えたら水波さんの方が強そうだし、試合の内容としても水波さんの強さっていうのが際立っていたと思うんですけど、 でもその中でも気持ちの強さ、王者としての覚悟だったり、 そういうものが新しい感情として芽生えた試合だったと思います。両国で山下さんに挑戦する会見の時には手が震えすぎて調印書に「渡辺未詩」って全然書けなかったんですよ。でも今回の瑞希さんとの調印式ではいつも通り書けて「私、成長している!」って(笑)。私、ビビりなんですけど、水波さんとの試合を経て、ビビる感情がなくなりました。
――2024年はリング外でもNOBROCK TVでのレーザービームとジャイアントスイングがバズり、フジテレビ『ぽかぽか』、TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』に出演したり、アプガプロレスとしてのアイドル活動もあったりと露出が多い年になりましたね。
未詩 根本の私はメチャクチャ何にでも挑戦したい人だったのに、周りが見えるようになったというか、ちょっと大人になってしまって、NOBROCK TVの出演もちょっと迷ったんですけど、話が来たのがプリプリに挑戦する前で、チャンピオンになろうと頑張っているんだから、いろんな人に見てもらうために一歩簡単に踏み出せるようにならないとダメだなって意識が変わって、出演してみたらいろんな人に見てもらえて。
――プロレスファン以外の人も見てくれて、未詩選手の知名度が上がるのはもちろん、それがきっかけで東京女子の会場に足を運んでくれた人も多かったと思います。
未詩 九州で試合した時も「見ました!」で来てくれた人がいるし、普段はアメリカに住んでいる人が「あの番組を見て、ちょうど東京に来たから」って試合を見に来てくれたり、外の世界にも届いているんだなって。あの一歩って凄く大事だったんだなって思って、自分の中でちょっと要らない大人になっていた部分を開放することができましたね。
――アイドルとしては?
未詩 アイドルとしては、 単独ライブは今年1回しかやらなかったんですけど、対バンライブは 多い時には月に5、6回。それも30分の持ち時間があっての対バンだったのでアイドルとしても結構成長できた1年ですね。一番大きかったのはアプガプロレスとしての団結力が凄く増したこと。いろんなライブを、回数を重ねていくことで、 後輩が2人(鈴木志乃、高見汐珠)いるので「先輩として引っ張るぞ」っていう精神を養えたと思います。「私は引っ張れない人間だからなあ」って今まで思っていたんですけど、でも「こうしたら引っ張れる」っていうやり方がわかったので、東京女子プロレスをチャンピオンとして引っ張ろうというところでもプラスになっていますね。
自分の枠を広げたいと思った結果がエプロンでのジャイアントスイング
――そうした中で年明け早々の1・4後楽園で瑞希の挑戦を受けます。12・1品川で挑戦表明した時の瑞希の「みんなの成長が早くて出る幕がないと感じていた」「山下、中島、辰巳が負ける姿を見て、凄く悔しかった」という言葉が印象的でした。
未詩 普段、瑞希さんってあんまり心の内を明かさない派なんですよ。そもそも瑞希さんがマイクを持って長く話すってことがないんですよ。本当に数年に1回のことだと思っていて、 それをしてくれたっていうのが自分の中で結構衝撃的で、しかもその内容も「そうも感じていたんだ」っていう驚きがあって。でも「ちょっと一歩引いちゃっていた」みたいなのを言っている中で、 私はそうは思わなくて、瑞希さんは世間に伝えるって意味では最前線を走っていると思うんですよ。なんかバズったりとか、やっぱこの時代、本当にバズるって大事なことで。
――渦飴の動画やアンドレザ・ジャイアントパンダにピコピコハンマーを振り下ろす写真がⅩでバズりましたよね。
未詩 今はアイドルがTikTokきっかけでテレビに引っ張りだこになるような時代なんですよ。「バズりたい」だけ言うと、ちょっと軽いなって感じてしまう瞬間とかもあるんですけど、 でもやっぱりバズらなきゃ世には届かないので、 TikTokとかもっとバズるようなことをしたいと思っているんですけど、 やっぱり簡単には結果が伴わない。 なのに瑞希さんは普段やっていること、 プロレスで普段やっている動きの中でアニメだったり違う界隈の人に見てもらうバズり方をしていて、本当に凄いことだなって。何が大事かって、いろんなアイドルをヲタクとして分析しているんですけど、 何の場面でも、日常でも、例えばバラエティでも、アイドルでもモデルでも何でも“なんか知っているコ”にならないと、試合をまず見てもらえないと思うんですよ。見てもらえるように世間に届かせなきゃいけないから“ なんか知っているコ”になりたいけど、やっぱ難しいんですよ。でも、今、何とか世に届けたいっていう思いが湧いてきています。それで興味持って会場に来てくれれば、そのまんま離しませんよみたいな自信はあるので。
――12・14横浜の6人タッグの前哨戦ではエプロン上で瑞希をジャイアントスイングでぶん回すという衝撃場面がありましたが、あれはバズると思いますよ。
未詩 私は真面目だみたいに言われることが多いんですけど「チャンピオンだから、こう戦わなきゃ」とか「こうしなきゃ」って、自分でチャンピオン像を狭めてしまっていて、でも「もっと視野を広げなきゃ、観てくれる人の視野も広がらない」って気付いて、普段自分がやっていることの枠を広げたいと思った結果があのエプロンでのジャイアントスイングですね。私はアイドルなので(笑)、基本的に反則はしないし、場外に出たらなるべく早くリングに戻りたいと思っているんですけど、そこで頑なになり過ぎるとプロレスが狭くなってしまうので、自分の中の決まりを…広げられなくても、柔らかくしていかないといけないなっていう気持ちです。
――過去、瑞希とシングルではミウ時代の18年8・12板橋(フェースロックで敗北)と21年4・1新木場(ダイビング・フットスタンプで敗北)の2回しか対戦してないんですね。
未詩 初対決の時はプロレスを好きになってない時代なんですよ。まだ「プロレスってなんだろう?」って迷って、一歩を踏み出し切れてない時期でした。初対決が第1試合で、2回目も3試合しかない特別興行の第1試合で、まだ後輩として挑むっていうのしか経験していないので、自分がチャンピオンとして迎えた時の瑞希さんはどういう感じなのか、読めないです。リカさんとの白昼夢で瑞希さんと(坂崎)ユカさんのマジラビとは何度も戦ってますけど、私がリカさんに引っ張ってもらい、マジラビもユカさんが一緒にいるという印象だったので、 リカさんでもユカさんでもなく、 そのタッグパートナーだった私と瑞希さんがプリプリ王座を懸けてシングルでやるっていうのは3年前、4年前とかにはちょっと想像がつかなかったことだなって思いますね。
――挑戦表明された12・1品川で8人タッグ、前哨戦となった12・14横浜では6人タッグで対戦しましたが、手応えは?
未詩 いつもはタッグ全体を見渡せるタイプでやっている瑞希さんですけど、前哨戦ではいつも以上に「自分が、自分が!」って来る瑞希さんで、やっぱり普段とは違いましたね。先輩に対してになりますけど「こんなに向上心が高いんだ!」みたいな驚きがありましたね。一歩引いて優しいと見せかけて、キャリアの中でいろんなプロレスを見てきたからこそ、根っこのプロレスラーとしての芯が強いなと改めて感じます。瑞希さんの引き出しはまだまだ多くて、最近知った瑞希さんの向上心という点で「まだ何をしてくるかわからない」っていう怖さがありますね。ちょっとずつ知らないことをしてくるんですよ。何か1個違うことを含ませてくるみたいなことが多いので。
――その瑞希からは「バケモノ」と言われてしまいましたけど(笑)。
未詩 一切そんなことはなくて、私はプリンセスだから横浜でも(風城)ハルと凍雅に「プリンセスだよね?」って聞いたら「はい」って本当のことを言ってくれました(笑)。
――あれは後輩へのプリンセス・ハラスメント…プリハラという声もあります(苦笑)。
未詩 よくハラスメントだって言われるんですよ(苦笑)。ライブ中の「オイ、オイ!」とかもお客さんに言うと「オイハラだ!」って言われて。私、今、プリハラとオイハラの2つの疑惑をかけられているんです。
――横浜の前哨戦で志乃に勝った後、瑞希を見下ろす未詩選手の眼からはプリンセスというよりも、チャンピオンの凄み、チャンピオンならではの佇まいを感じました。
未詩 試合後に映像を観て「えっ、私、こんな顔してたんだ」っていう気持ちになりましたね。自分も知らない私でした。私は嘘をつけないタイプなんで、あの時の表情は瑞希さんに対する私の本当の感情だったと思います。でも半年前の私だったら、ああいう表情の仕方はできなかった。
――そして新年一発目にタイトルマッチの大勝負です!
未詩 「えっ、あのイッテンヨン後楽園を会場で観てたの?」って、来てくれていた人のことを羨ましがるくらい、会場に来ていた人たちが満足する試合をして勝ちたいなって思います。今、世間的に女子プロレスがちょっとずつ広がっているので、2025年は今まで見てなかった人に好きになってもらうのもそうだし、今来てくれている皆さんが「女子プロレスが好きなんだ」って自慢したくなるような試合をしていけるように頑張ります。