close

2025-04-23

【サッカー】「教科書を用意するとこぼれる選手が出てくる」Jクラブ指揮官のこだわり - 岩政大樹 - [北海道コンサドーレ札幌監督](後編)

「個人的には、ボールを保持しながら、相手の状況に対して、どのようにすれば、意図的にボールを展開して、判断して、より高い可能性で相手ゴールに迫れるかを大事にしています」(Photo:J.LEAGUE)

全ての画像を見る
サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
鹿島アントラーズでタイトル獲得に貢献してきた元日本代表センターバックの岩政大樹が、今シーズンからJ2リーグを戦っている北海道コンサドーレ札幌で監督を務めている。
BBMsportsでは前後編に分け、理論派でかつ強いこだわりを持って強化を進める岩政による、ビルドアップの考え方と指導を公開する。
後編ではビルドアップの指導や、練習メニューの作成ポイントを聞いている。

取材・構成/土屋雅史

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【特集】進化するビルドアップとその指導 PART5:Jリーグ2025のビルドアップ-より)

「教科書」を用意するとこぼれる選手が出てくる

─鹿島アントラーズやベトナムのハノイFCなどでの監督経験を経た今、指導のやり方に変化はありますか?

岩政 大枠のところは、以前と変わっていません。どこまで提示するかは選手によって変わってきますし、選手がちゃんとプレーできているのであれば、それ以上、提示する必要はありません。でも、そこのギリギリのところを探りたいと思っている中で、そこをより見られるようになったかもしれません。そういうことをもうちょっと伝えたほうが良かったのがハノイの選手たちに対してで、札幌の選手にどれくらい提示するかは、選手を見ながら判断しています。

僕は、選手たちに具体的に説明する上で、「つながりを持って、プレーしてください」と言ってきたのですが、「誰と誰のつながりなのか」とか「誰と誰が対になって動きを変えるのか」とか、それくらいまでを提示することによって、チームがよりうまく回るのだとわかりました。「つながりを持ってください」と全員に言っても、センターバックとそこから遠い選手がつながる必要はないわけですが、「横の誰と誰がつながるのか」「横の選手が動いた場合、この選手はどんなことをすれば良いのか」というところまでは、伝えないとわからないだろうなと感じています。そこも、あとづけで追いかけるイメージです。

例えば、2人の選手の関係性については、お互いが斜めになることによって、相手に対する人数が変わります。そこで、「対になって、バランスをとってください」と言えば、バランスは変わってきますし、それが、相手に的を絞らせないことになります。

前線の選手には、「この選手とこの選手は、どのように入れ替わっても良い」ということだけを伝えます。その上で、選手がやったことをこちら側が拾って、「こうすると面白いよね」「おまえたちがこうやっているの、すごく良いよね」というところから、パターン化していくのが理想的です。

こちらから「教科書」を用意して、「はい、これをやってください」といったやり方だと、こぼれる選手が出てきます。「この枠組みでやってください」と提示すると、「それだとプレーしにくい」という選手が出てくるんです。でも、それは嫌。そういう選手はどんな戦術をやっても出てきますが、できるだけいろいろな選手を拾い上げたいですし、やりたいことに合わない選手が出てきたら、チームの枠組みを少し変えてあげたいです。選手の特徴をいかに組み合わせるかを考える中で、少し柔軟に変えられるようにしながらやっています。

EXTRA COMMENT#1:ビルドアップの多様性の理由

─そういうやり方だと、自分の想像を超える化学反応が起きる可能性が増します。

岩政 それが楽しくて、指導者をやっていますが、あれ、これは違ったかなということが結構ありますし、何をやっているんだみたいな空気が周りから出たりもするので、お勧めはしません(笑)。でも、はまった場合は、本当に面白い現象が起きます。でも、それは提示したものをやったわけではないので、それができた理由をちゃんと分析して、提示しないと、選手たち自身がわかっていない場合が、結構あります。

選手たちの感覚の中にあるものが、言語化されて、映像で見せられて、なるほどと思えれば、つながりますし、よくわからないなと思えば、停滞します。それを繰り返しています。大変ですが、面白いですし、監督としての自分の色が見えてきたのかなと思います。

フィニッシュや崩しの局面にどうつなげるか


「Jリーグの中には、ボールを動かしながら前進するチームはあまりない気がするので、僕らがそれを1つのスタイルとしてやれれば良いなと考えています」(Photo:J.LEAGUE)

─ビルドアップの練習メニューを作成する上でのポイントはありますか?

岩政 ボールを動かすことが目的にならないようにするためには、その先の絵を描くことが大事です。フィニッシュや崩しの局面にどうつなげるか、そこまでを描かせたいので、こちらもそこをちゃんと描きながら、そのためのビルドアップだということを伝えてあげることがポイントです。

僕の場合、ビルドアップからというよりは、できるだけフィニッシュのほうからトレーニングします。フィニッシュをやった上で、そこにつなげるためのビルドアップをあとからつけることを考えています。

ルール設定について言うと、固定されたポジションや固定された判断の中で、2つか3つのパターンを提示して、これをやってくださいという練習は、まったくありません。トレーニングが始まるときに、大きな枠の提示をした上で、まずはやってみてくださいというところから始めます。それで出てきた現象を見た上で、選手たちがプレーしたあとに細かい話をするようにしています。そのほうが、選手たちが柔軟にプレーしてくれるので、あとから、判断を徐々に上積みしていく感じです。

EXTRA COMMENT#2:ヨーロッパのトレンド

─指導者側の集中力が、かなり必要になりそうです。

岩政 でも、指導者には、それがものすごく大事なことだと常々思っています。選手が判断する枠を残した上で、選手が判断した際に、「おお、よく見たね」とか「今はこういうところもあったよ」と、あとから言ってあげれば、それで良いのではないかなと考えています。

練習が流れている中で、こちらも集中しながら、現象を見なければいけないので、確かに難しいかもしれません。でも、「あれっ? この状況って、どうすれば良いんだっけ?」という感じでプレーすると、今のサッカーのスピード感の中では、判断が間に合いませんし、面白くないと思います。ですから、1つの提示によって、2つか3つの約束ごとが選手たちに伝わるようなものを、その日のテーマとしてやってみるところから始めるのが、すごく大事な気がします。

─改めて聞きますが、岩政監督が考えるビルドアップにおいては、「前進=Progressive」が、最大のテーマなのでしょうか?

岩政 個人的にはそうなります。それがどういうことなのかについては、時間をかけて考えましたが、札幌の選手たちのおかげで、ようやく整理できてきました。今は、ボールを動かしながら前進していくことを特に強く意識しています。「長いボールを入れて前進しましょう」という言葉がわかりやすいですし、「ショートパスを使ってポゼッションしましょう」という言葉もわかりやすいですよね。「ボールを保持しながら前進していく」のがどういうことなのかは、感覚的にも定義の仕方も結構難しい気がします。でも、それにトライしていますし、僕は、自分の指導テーマにしています。

日本人選手を見てきた中で、ボール保持が目的化しないための前進、前進するための判断基準やポジションのとり方、動きのパターンみたいなところが、ようやくわかってきた気がしますし、そこは、これからの日本のサッカー全体にとっても、大事な部分です。

今の日本代表がどんどん前進していくのは、選手たちの多くが、当たり前に前進しなければならないヨーロッパの環境下でプレーしているからだと思います。でも、Jリーグの中には、ボールを動かしながら前進するチームはあまりない気がするので、僕らがそれを1つのスタイルとしてやれれば良いなと考えています。もう、覚悟を持って、やるしかないですね。


岩政大樹(北海道コンサドーレ札幌監督)(Photo:J.LEAGUE)
PROFILE
いわまさ・だいき/ 1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大学から2004年に鹿島アントラーズ入りし、07年からのJ1リーグ3連覇に貢献。10年には日本代表として南アフリカ・ワールドカップに出場した。13年に鹿島を離れ、テロ・サーサナ(タイ)、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCでプレーしたあと、18年に現役を退く。19年から文化学園大学杉並高校(東京都)、20年から上武大学で指導にあたったほか、解説業、執筆活動、ライブ配信、イベント参加なども精力的に行なった。22年に鹿島のトップチームコーチに就任し、8月から23シーズンまで監督を務めた。24年はハノイFC(ベトナム)を率い、東京学芸大を指導したのち、25シーズンから北海道コンサドーレ札幌の監督を務めている

「【特集】進化するビルドアップとその指導」を掲載した「サッカークリニック2025年5月号」はこちらで購入

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事