最近の相撲ブームはありがたいもので、30年も40年も前の相撲取りで、脇役でしかなかったワシのところにも、取材依頼があった。しかも土俵の『いぶし銀』というかたちで鷲羽山の相撲を、昔の映像を使って詳しく特集を組んでくれるという。
※写真上=鋭い眼光からしてファイト満々、体全体から精悍さがにじみ出ている。併せて類稀なバネ、軽快な動き――36歳まで現役を務めた鷲羽山だが、引退相撲の取組表の表紙には24歳(新入幕)時に撮影され、心にかなったこの写真を使った
写真:月刊相撲
平成26年4月、協会を停年となり、相撲について人様に語る機会もぐっと減り、後輩たちにアドバイスしたり、ハッパをかけることもほとんどなくなったワシだが、現役時代のフィルムを改めて見ると、やはりちょっぴり熱い血がたぎる。
相撲人生を振り返って、ワシが少しでもファンに喜んでもらえる相撲を取る力士だったとすれば、その大きな要因は、生来の相撲好きに加えて、徹底したプラス思考と決断の早さがあったことにあると思う。
ワシは高校時代からひたすら押し相撲に打ち込んだ――それが相撲の基本と聞いたから。まさに猪突猛進だ。体が小さいから四つ相撲を、などといった色気も出さなかった。先に力士になっていた兄(元十両・出羽嵐→常ノ山)の猛反対を押し切り、高校を中退して出羽海部屋に入門したときもそう。
しかし、こういった決断があったからこそ、短い期間ではあったが、我らが出羽海一門の闘将・横綱佐田の山関のすさまじいまでの、力士としてあるべき姿を目の当たりにすることもできたのだ。卒業まで待っていたら、ワシの力士としての揺るがぬバックボーンは確立できていなかったに違いない。
ワシの相撲人生で大きな転機は、新十両として登場するはずであった47年名古屋場所を、公傷で休場したこと。この期間中さまざまな勉強をしたことによって、ただまともにぶつかっていくだけだった私の相撲にイナシ、おっつけなど幅が生まれたのだ。災い転じて福が生まれた形となった。
体こそ小さかったが、元気な時は、立ち合いから突っ込んでどんな大型力士でも鋭く押し上げながら土俵際まで持っていくこともできたし、その流れで慌てさせることもできた。部屋の先輩、福の花関は「お前に押されると、離陸する飛行機に運ばれるようにグーッと浮き上がるように持っていかれる感じだな」と表現してくれたことがある。
体のないワシが、このほかそれなりに工夫したのは立ち合いである。体の大きな相手と同じように立ち合ったのでは、絶対にこちらが不利。だからワシは制限時間いっぱいまでの仕切りはさっさとやって徹底的にタイミングを外し、その代わり潔く、立ち合いの一発にかけた。もちろん必ず一回で立つ覚悟で(現在多く見られるような、時間いっぱいになってからのぐずぐずした作戦のための待ったは、ファンに対しても失礼だ)。
ここに掲げさせていただいたのは、私の引退相撲の取組表の表紙である。写真自体は新入幕を果たした48年夏場所のもの。実はこれを新聞社の親しいカメラマンにプレゼントされたとき、自分なりに体の張り具合や、仕切りのかたち、気合の入った表情など、オレらしいなと一目で気に入り、「あ、これ、引退相撲のときの表紙にしよう」と決めたものである。思い込んだら命懸け――そんな力士だったワシの相撲ぶりを今回の特別番組でベテランのファンばかりでなく、若いファンの方々に見ていただき、大相撲への魅力を高める一助としていただければ、幸いである。番組の収録には同年代の関取だったプロレスラーの天龍さんも加わって懐かしい話を聞かせてくれている。お楽しみに。
語り部=石田佳員(元関脇鷲羽山。前出羽海親方。昭和24年4月2日生まれ。岡山県倉敷市出身。輪湖時代の土俵に小兵旋風を巻き起こした技能派力士)
月刊『相撲』平成28年1月号掲載
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