江戸っ子横綱栃錦――角界のみならず戦後日本のスーパースターである。半世紀にわたる私の行司人生で、その人間の大きさ、カッコよさ、豪快さ、きっぷよさ、優しさ等で、これほど「力士」というものを感じさせた人はいない。
※写真上=画期的な下小岩小学校復興寄進相撲を催し、母校の在校生から感謝の花束を受ける栃錦(昭和33年7月)。校庭は超満員!
写真:月刊相撲
長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。
相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。
本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。
栃錦関は年寄となっても春日野理事長として相撲界のリーダーシップをとり続けた人。私は、そんな偉い人の小学校の後輩であることを、昔から誇りに思っていた。
東京都江戸川区立下小岩小学校。下町小岩駅からすぐのところにある小学校である。昭和7(1932)年開校。栃錦関はその2回生。この学校が33年1月25日火災に見舞われ、南側木造校舎は12教室が消失してしまった。この報を聞いた栃錦は初場所から日を置かず母校を訪れ、子どもたちを励ました。
そして相撲ぶりを思わせる速攻で母校復興支援のための寄進相撲を企画。最初は春日野部屋だけで行うつもりが、そういうことならと横綱千代の山を筆頭とする出羽海部屋も協力を申し出て、出羽海一門による、今日で言うチャリティー相撲興行が行われることになった。まさに大相撲興行の起こりが、寺社への基金を募るための勧進相撲だったことと軌を一にする。
栃錦の寄進大相撲が開催されたのは同年2月15日。栃錦の心意気に感じた学校と父兄、そして町を挙げての協力と熱意はほんとうに素晴らしく、切符売りから会場設営までまさに手作りで、当日は超満員。小学校のグラウンドは5000人の観衆で埋め尽くされた。
私は31年5月に行司となった(伊勢ノ海部屋)ばかりで、普通なら他の一門からお呼びが掛かるはずもないが、私が栃錦関と同じ下小岩小学校の出身だということを知っていた行司の兄弟子が、「今度の小岩の相撲にはお前もおいで」と呼んでくれ、私の参加も決まった。
私は学校でこれまで見たことのない大勢の観衆の前で、初っ口から2番目の取組をはじめ、“お好み”(スポンサー提供の余興)5人抜きを3本裁いた。その行司のたびに、場内アナウンスで「行司は下小岩小学校出身の式守勝治であります」と紹介され、ほんとうにうれしかったことを思い出す。
それからである。あの大横綱が一門外である小僧っ子の行司に何かと気を配ってくれるようになったのは。
「おい、クニモン!」
いつもこう言って私を呼び、近況を聞いたり、励ましてくださった。私が幕内格になり、協会で理事長の指示を受ける仕事が多くなっても、変わらずその親しみのこもった呼び掛けを続けてくれたので、この人のためなら頑張れるという気持ちになったものである。
母校の先輩で憧れの栃錦はもちろん、猛突っ張りの横綱千代の山以下、一門&協力を申し出た関取28人を含む総勢150人を前にした子どもたちの感激と興奮は一日中さめやらなかった。善意・好意の支援の観衆と誠意を尽くした力士一行による、“小岩場所”はかくして大成功を収めた。
なお、このときに集められたお金は当時の法律等の関係でそのまま建築費に回すことができないことが分かり、浄財は『栃錦文庫』の設置に回され、今でも同校の心のよりどころとなっている。
語り部=34代木村庄之助(本名伊藤勝治)
月刊『相撲』平成27年1月号掲載
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